日本人は歴史好きである。NHK大河ドラマや司馬遼太郎が、少なからず役割を果たしているようだ。特に、ビジネスに携わっている人々は歴史好きである。歴史から学ぶ者は賢明であると古来言われている通り、競争や葛藤に晒(さら)されているビジネスの世界では参考にしようとしている人も多いはずである。
しかし、意外と葛藤や競争の渦中にあると、過去の歴史を振り返る余裕はもてないものである。
戦後の高度成長期を経て、幾度かの不況を切り抜けてきた制御・電子の部品業界は、この度の不況を未曽有のものと位置付けている。これまでのように不況の嵐を身をちぢめて、じっと待てば元に戻るというものではなさそうだと感じている人も多いだろう。これまでも、元に戻っていたわけではない。不況対策のまずさから基盤が脆弱になり、ひ弱に戻り、次第に成長ができなくなっている会社が多い。むしろ成功してきた会社の方が少ないだろう。
未曽有と言われている今回の不況は、1990年のバブル崩壊と同じようなものである。90年のバブルを乗り越えてきた会社は、この業界ではたくさんあるだろう。それが、ただ単に破産をまぬがれたというような乗り越え方だったのか、あるいは07年までの17年間で数%の伸びにとどまっているのか、それとも数十%という大きな伸びを示した会社なのかを振り返って見なければならない。ただ身を縮めているだけだったら、今回は一気に脆弱になってしまう。
数%の伸びにとどまっている会社が、90年バブル崩壊の時と同じことをしたとしても、07年の水準に戻るのに10年に及ぶ年月がかかるかもしれない。それ程の不況だから、未曽有の不況と言われているのだ。
90年以前の成長期における不況時には、拡販作戦やキャンペーンを行って、ぐいぐい商品を売り込んでいた。販売にそれなりの力強さがあった。それにお客様である市場にも、受け入れるだけの余裕や展望があった。90年バブル崩壊後は、同じような施策を試みてもなんとなく、当たりが返らず空振りに終わった感じがして戸惑いを隠せなかった。そして、やったことは何かの商材を増やすことだった。その上で、キャンペーンや拡販作戦を、ぐいぐい行ってきた。
各社で増やした商材はお互いの市場に割り込み、競争は過激になっていき、国内営業は大競争時代に突入していった。概して90年以前とあまり変わらない手段を、営業は試みてきたが市場は変わっていた。市場の変化を実感したのは、00年のITバブルであった。IT産業だけの突出現象ではなく、売上高を見ると、顧客の構成や順序がかなり変わっていることに気付いた。
売上高が大幅に伸びた会社は市場の変化に合わせた商材を増やしてきたからであり、商材やメーカーの売り上げ構成比や順序も大きく変わっていた。数%の売り上げの伸びに止まっている会社は、商材の増やし方が適切ではなかったことになる。商材を増やす時には得てして、身近にある商材を選んでしまう傾向にある。販売能力を考慮したり、現状の顧客がいる市場を見すえての選定だから当然のことである。
それでも07年までに伸びが微少であった会社は、歴史を振り返ってみることである。選定時にどのような理由で、選定したかを知る必要があるからだ。意外と手軽に決めてしまっているのではなかろうか。顧客への商品提供に力点を置くあまりに顧客は一体何をしているのかを、わかったつもりになっている販売員が多くなっている。そのため適切な情報の入手がされなくなって、打ち手としての新しい商材選定を誤ってしまうのだと思う。逆説的だが激しい大競争が、販売員から情報力を奪ってしまったようだ。
(次回は1月20日掲載)