ものづくり基盤技術の振興施策 「主要製造業の課題と展望」 25造船産業(造船業・舶用工業) 新造船建造量でトップシェア維持

1、現状

造船業及び舶用工業は、四方を海に囲まれ資源のほとんどを輸入に依存しているわが国にとって、その輸送を担う海運に船舶を安定供給する必須の基盤産業である。世界の造船市場においては、近年、中国経済の急成長に伴う海上輸送量の増加等を背景としてタンカーやバルクキャリアを中心に新造船需要が急激に伸びており、2007年の新造船建造量は5732万総トン(わが国建造量は1752万総トン、世界の30・6%)と昨年に引き続き過去最高を更新した。

わが国造船業は、国内生産体制を維持しつつ、生産性向上や技術開発に取り組み、半世紀近くにわたり新造船建造量においてトップシェアを維持してきた。現在も激しい国際競争の中で韓国とトップ争いを繰り広げており、世界の造船業におけるメインプレーヤーとしての地位を確立している。一方、舶用工業は、総合組立産業である造船業に対し、推進機関、発電機などの大型部品から弁などの小型部品までの多種多様な機器を提供する加工組立型産業であり、船舶の性能を大きく左右する極めて重要な産業である。

世界の舶用工業品市場においても、2007年の世界のディーゼル主機関におけるわが国のシェアは、生産馬力ベースで27%(世界第2位)と重要な地位を占めており(世界のディーゼル主機関の生産量:3084万馬力)、わが国舶用工業における07年の生産額は、1兆3017億円(前年比20・1%増加)と、当面は安定した操業状態が継続する見通しにある。

また、わが国舶用工業製品の多くは国内建造船舶に使用されるが、製品の技術水準の高さなどから、船外機や航海用機器などを中心に数多く海外へ輸出されている(輸出比率:29%)。

2、わが国産業の強みと弱み

(1)強み

技術水準、納期の正確さ、きめ細やかな付帯的サービスなどに優れた舶用工業が造船業とともに発展しており、国内でほぼ100%の部品調達が可能である。また、世界各国の船主からの安全面・環境面での要求にアフターサービスも含めて的確に対応可能な技術力の実績と信用を有している。

さらに、すべての船種に建造実績があり、多様な船主の要求に応えることが可能である。また、船舶の建造には、自動化が困難で高度な技能を必要とする作業工程が多数あるが、このような作業工程に対応できる高度な判断力・技能を有する優秀な技能者が数多く存在している。

(2)弱み

造船不況期に各社が新規採用を控えたため、現在は造船業に従事する技術者・技能者の高齢化が進んでおり、これらの熟練技術者・技能者の大量退職時期の到来による技術基盤の低下が懸念されている。また、わが国造船業は古くから地域に密着して発展してきたため、生産拠点が国内各地に散在しており、90年代半ばに特定の造船事業者が大幅な設備拡張を行った韓国と比較して、1拠点あたりの規模が小さい。一方、舶用工業においては、韓国・中国市場における舶用工業製品の国際競争の激化、熟練技術者・技能者の高齢化や人材育成の遅れ等による経営基盤の脆弱化、模倣品の流通等、厳しい環境下にあるため、産業基盤の強化及び国際競争力の強化等を図っていく必要がある。

3、世界市場の展望

近年では、中国経済の急成長等に伴って海上荷動量が増大し、船舶需要が高まったことにより、過去最高レベルの建造量を記録するとともに、新造船船価も高水準に回復している。しかし、米国発金融危機を契機とする世界経済の減速、海運市況の減速を受け、先行きに不透明感が増してきている。

一方で、韓国に続いて中国が積極的な設備投資により造船能力を拡充し、世界の建造量の約18%を占めるまでに成長してきており、国際競争は一層激化するものと見込まれる。また、内航海運を支える中小造船市場においては、運賃・用船料が低迷したことにより建造需要がピーク時(93年頃)から大きく減退していたが、現在は、老齢化した内航船の代替建造需要が出てきたことで07年度の建造量は120隻を超え、08年度も概ね同程度の水準で推移しており、比較的安定傾向にあるものの、今後金融危機や景気後退の影響が懸念される。わが国舶用工業品の需要については、造船業において、当面は十分な手持ち工事量を抱えていることから、当面は安定した状況が続くものと見込まれる。

4、わが国産業の展望と課題

(1)今後の競争力強化に向けた対応

今後、国際競争が一層激化していく中で、わが国造船産業が世界のメインプレーヤーとして持続的に発展していくためには、技術力や人材といった産業基盤の強化、公平な国際競争条件の確保などに、業界全体が一定の方向性を持って戦略的に取り組んでいくことが重要である。特に、近年は輸送分野における地球温暖化対策、大気汚染対策として海運からもCO2・NOxの排出削減が求められている。こうしたグローバルな社会的要請がある中で、今後もわが国造船産業が競争力を強化していくためには、海運・造船・舶用が一体となって、船舶輸送において高い経済性と環境対策を両立させるための技術開発に取り組んでいく必要がある。また、熟練技術者・技能者の一斉退職は内部的要因としてわが国造船産業の競争力を劣化させる可能性が高いことから、次世代へ「匠」の技能を円滑に伝承する必要がある。

その対策として、国土交通省においては、04年度から(社)日本中小型造船工業会を通じ、「造船業次世代人材育成事業」に対し支援を行った。今後は技能者だけでなく設計・研究開発等を担う技術者の育成についても業界全体で取り組んでいくことが必要である。

また、舶用工業製品の模倣品製造・流通の問題は、本来企業が得るべき利益の損失による収益悪化とそれに伴う技術開発意欲の損失を招くとともに、海難事故や海洋汚染に繋がる恐れがあることから、被害状況等の実態把握に努めるとともに、被害国間の連携強化や侵害国に対する要請の実施等の模倣品対策を推進していく。

(2)東アジア等グローバル戦略

造船業は世界単一市場であるため、一部の国が自国造船業に政府助成を行うと世界全体のマーケットを大きく歪曲してしまうおそれがある。このため、世界造船業の健全な発展のためには、公正な競争条件を確保するための多国間協調が不可欠である。わが国は、政府・民間ベースでの多国間・2国間協議の場を通じて、市場動向に関する共通認識の醸成や政策協調を推進していくことにより、世界造船市場の安定的な発展に努めている。

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