1、現状
わが国の農業、食品製造業や外食などを含めた食料産業全体を見てみると、国内生産額(2006年)が約103兆円で、全産業(約976兆円)の約11%の規模となっている。また、食品産業の就業者数(05年)は775万人で、雇用面で見ても全産業の就業者総数の約13%を占めている。
鹿児島県、北海道等首都圏から離れた地域では、全製造業に占める食品製造業の割合が高く、地域経済における重要な地場産業として、雇用及び所得機会を提供している。
また、食品製造業の業態構造は、大まかに捉えればいわゆる二極分化型であって、全国展開する少数の大企業と地域的なつながりを持つ数多くの中小企業から成り立っている。このような産業構造は、製品である食品の特性による商品寿命の短さ、消費者のニーズの多様性、原料となる農産物の地域性などによるものである。
2、わが国産業の強みと弱み
(1)強み
価格面での優位性から、海外からの製品輸入は増加傾向にある。一方で、近年の消費者の鮮度志向や健康・安全志向などを背景として、高付加価値な食料品に対するニーズもあることから、地域の原材料供給と結びついた、多様な消費者需要に対応した食品を供給するという面において、海外からの輸入品に対して高い競争力を有している。
(2)弱み
わが国の食品製造業は、他業種に比べても、中小企業比率が高く業界全体として見た場合に十分な経営基盤を有しているとは言い難い状況にある。加えて、食品の原材料である農産物については、国産品が輸入品と比較して割高となっており、コスト面の優位性などから、近年は加工食品の輸入が拡大している傾向にある。また、他の製造業に比べ、売上高に対する研究費の割合が低く、近年の多様化・高度化する消費者ニーズ、環境問題などに対応するためには、研究開発への取り組みが重要である。
3、わが国産業から見た市場の展望
いわゆるバブル経済の崩壊後、デフレ基調が続く中で、家計支出における食料支出の伸びは低調であり、消費者の低価格志向が強まり、より廉価な商品を志向するようになったと考えられる。
このような中で、小売業者間の競争の激化や輸入品の急増などにより、食品の分野においてもいわゆる「価格破壊」が進展している。しかし、価格を低下させても、それを上回るだけの市場拡大が必ずしももたらされるわけではなく、その結果、従前は好不況の影響を受けることが少ないとされていた食品製造業についても収益性の低下などが見られるようになってきている。
また、単身世帯の増加など生活スタイルの変化による食生活の多様化が進む一方、少子高齢化の進展により食品に関する国内市場は量的飽和、成熟状態にある。特に、食品の場合、基本的なニーズが満たされた段階以降は、必ずしも所得の拡大に併せて消費が量的に拡大するわけではないことから、今後は、食料品市場全体の大きな量的拡大は期待しにくくなっていると考えられる。
4、わが国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
近年の日本の食料消費は高い水準に達し、食生活が高度化、簡便化、多様化といった方向に移行している中にあって、冷凍調理食品やレトルト食品などのいわゆる高加工度食品、調理簡便化食品の出荷額の伸びが高くなっている。
このような中で、わが国食品製造業が成長を続けていくためには、量的拡大から質的充足への国民的ニーズの変化、健康志向や食の安全・安心に対する消費者の関心の高まりなどを念頭に置いた製品開発、マーケティングなどがますます重要となってくることが考えられ、農業の生産者を含めた広範な連携を進めることにより、消費者の潜在的ニーズを掘り起こすとともに、価格以外の面でも競争が可能となるよう、商品の差別化、高付加価値化を図る必要があると考えられる。
(2)食品製造業のグローバル化について
食品製造業は、他の製造業と比較して海外生産比率が低い状態にあるが、海外からの製品との競合を踏まえれば、海外における生産拠点の原料調達、生産、販売を含めたグローバル化を通じた競争力強化が不可欠である。
また、近年のアジア諸国の経済発展に伴う所得の向上などにより、高品質な日本の食料品の輸出・販売の機会は拡大していくものと見込まれることから、わが国の食品メーカーも、海外における情報収集などを通じて、新しい市場の開拓が重要となっていくと考えられる。