リーマン・ショックの影響を大きく受けたサーボモータ市場は、それまでの過去最高ペース生産から一転して09年2~3月頃は70~80%の大幅減少となった。自動車の設備投資と生産減で工作機械、ロボットの生産が大きく落ち込んだほか、半導体・液晶などのFPD製造装置の主力市場も減少し、サーボモータ市場はITバブル期に匹敵する落ち込みを示した。昨年6月頃からは、半導体・液晶などのFPD製造装置や電子部品実装装置などが先導役になって立ち上がりを見せて生産も上向き始め、昨年10、11月ごろからは前年同月実績を超え始め、さらに今年3月頃からは過去のピーク時の生産をも超える勢いを見せつつある。
サーボモータの生産は経済産業省の機械統計では、07年は数量が329万6600台(対前年比7・7%減)、金額が1828億円(同1・3%減)、08年は台数が355万台(同7・7%増)、金額が1739億円(同4・8%減)となっているが、09年は8月ごろまで停滞したことで、9月以降回復基調にはなったものの、前半の落ち込みが大きく、数量が146万台(59・1%減)、金額が697億円(60・0%減)と半減以下の大幅なマイナスとなっている。
日本電機工業会(JEMA)がまとめている09年度(09年4月~10年3月)の生産実績は、前年度比32・9%減の934億円と大幅な減少となったが、10年度は一転して増加、同48・8%増の1390億円と、1000億円台を再び回復し、08年度実績に肉薄する見通しを立てている。
実際、サーボモータメーカー各社の受注状況は生産能力をはるかに超えており、各メーカーともフル生産の状態だ。パワー半導体や電源をはじめ、あらゆる電子部品の手配が受注に見合った数量で確保できず、作りたくても作れないメーカーも出ている。メーカーによっては昨年の底であった時に較べ4倍の生産となっているところもあり、今年3、4月の生産数量は過去最高を超えているメーカーも出始めている。サーボモータの部品確保が重要な仕事となっていると言われるほど部品の供給は逼迫している。しかし一方の電子部品メーカーは、リーマン・ショックによる在庫整理とリストラで大変苦しんだことから、生産能力の増投資には慎重で、なるべく現有の設備と人員で対応しようとする姿勢が強い。サーボモータ需要の中心が中国などアジア市場であることから、為替やコスト対策などから、中国などでの生産を強化し、中国ローカルのメーカーへの販売戦略を強化するメーカーも増えている。工作機械の生産は、09年に中国が日本、ドイツを抜いて世界一になった。機能的には日本、ドイツなどの製品に比べると劣るものの、価格も安いことから、市場では一定の支持があり、需要を拡大している。従来こうした中国製の工作機械も、サーボモータは日本製が採用されていたが、コストを下げるために中国ローカルメーカーの採用が増えつつあり、日本メーカーとの競争が徐々に激しくなっている。
中国市場は、国の景気刺激策や、上海万博の開催、内陸部の産業振興などの効果で活気を見せている。半導体・液晶などのFPD製造装置や電子部品実装装置、NC工作機械や縦型マシニングセンターなどサーボモータの主力需要分野の製品が好調な売れ行きを示している。
日本市場もエコカーやエコポイント減税施策による消費刺激策で、家電製品やハイブリッドカーが好調を持続し、電気自動車関連、電池製造関連、新エネルギー関連など、環境・省エネをキーワードにサーボモータの需要増が続いている。また、市場規模は小さいものの、食品製造、包装関連も安定した需要を継続している。
サーボモータの用途は工場の外でも年々拡大している。駅ホームの安全ドア開閉や自動改札機、ETCのゲート開閉、介護用ベッド、乗り物用シミュレータ、回転鮨のベルトコンベア制御など身近な日常生活のなかにも採用が進んでいる。ロボット向けも、産業用に加え、警備や案内、掃除などサービス用途向けでの用途拡大も期待されている。
近年の機械は著しく小型・軽量化が進んでいるが、このことで省スペース、省資源、設置・搬送などでの利点が生まれる。機械の小型・軽量化の点から言えば、トルクの伝達・変換などの構造を排除して、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するようにすれば、機構が単純になってコンパクトな機械にできる。故障の発生や外的からのトラブルの要因も減らすことにつながり、コストや省資源という点からもメリットが大きい。
近年のサーボ技術は高速化、高性能化、高機能化、小型・軽量化、操作性の向上などが著しく進んでいる。高速化では、速度周波数応答2・0KHz、20ビットロータリーエンコーダーの標準搭載で100万パルス/revを超える高分解能を有しており、位置決め整定時間を大幅に短縮して、高精度な位置決めや微細加工を実現している。整定時間を短縮することは、業務の効率化に繋がり、機械・システムの生産性が向上する。
また、「サーボモータはうまく調整しないと機能を活かせない」というユーザーからの意見に応え、サーボを繋げば誰でも簡単にすぐ使える操作性を実現するために、セット時間を短縮できる簡単なパラメーターの設定と、オートチューニング機能を組み合わせることで、サーボ調整の手間と時間を大幅に短縮できるようになった。これで、職人技といわれる調整で、その機械・システムに合った最高の性能を引き出すことが可能になる。
低剛性への対応もポイントで、特に高速応答の必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。一般的に低剛性の機械にサーボモータを搭載する場合、ゲインチューニングが困難だが、モータを搭載する機械の剛性にかかわらず、精度の高い自動ゲインチューニングが可能となる。こうしたニーズでは、機械を振動しないようにしてサーボモータを動作させる技術が求められるだけに、各社とも独自のノウハウで振動を抑える制振制御技術を展開している。昨今は熟練労働者の退職などで、ベテランの持っていた技能伝承が難しくなっているが、サーボモータの操作技術もこうしたチューニング技術の向上により、かなりの部分がカバーされようとしている。
昨今サーボモータも、環境問題を背景に省エネ・高効率化が重要視されつつある。例えばアクチュエータを空気圧や油圧から置き換えて電動化する傾向が強まっている。油圧シリンダなどのアクチュエータは、形状が大きく、油を使うことで、クリーンな使用周囲環境の確保という点に加え、消防法上でも制限がある。自動車車体のプレス加工の場合、均一かつ強力な圧力を加える必要があるが、油圧に比べ、サーボモータを使った電動プレスは、同期したツイン制御によって上下から静かにプレスすることが可能になる。自動車の車体は、燃費向上と材料費削減のため軽量化に取り組んでいる。材質の薄型はこの一環であるが、電動プレスはこの点からも置き換えが進んでいる。同様に射出成型機でも電動化への置き換えが見られる。プレスや射出成型機に使うサーボモータは大型タイプが多いことで価格も高く、サーボモータメーカーにとって利幅も大きい。
「省エネ」をキーワードにニーズが広がり、より使いやすい部品や機械・設備を生み出している。半導体・液晶などのFPD製造装置や電子部品実装装置などは小型化志向が強いことから、リニアサーボモータの採用が増えつつある。回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べると推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなど強みを発揮できる。サーボモータの取り付けスペースに制約があり、小型で速い動きが求められている機械などで最適だ。小型という点だけでなく、FPD製造などでは、パネルの大型化に対応して、ボールねじが長くなってたわむことが心配されているが、リニアサーボモータは、直接動いて移動するために大型になっても問題なく使える。