好調に拡大する操作用スイッチ市場 中国を中心としたアジア市場が大きく伸長 新エネルギー、高齢化社会など新規需要に期待 進む小型・薄型・短胴化光源のLED/EL化も顕著

操作用スイッチは、機械・装置のインタフェイス部分を担う重要機器である。2008年のリーマン・ショックに伴う世界経済の停滞から操作用スイッチ市場も大きな影響を受けた。

日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、操作用スイッチの出荷高は、08年度は世界的不況、さらに設備投資の低迷で前年同期比21・7%減の338億円と大幅な減少となった。この流れは09年度に入っても続いていたが、昨年春頃で底を打ち上昇に転じてきている。昨年12月を境に前年比超えになりそうで、その後も堅調に上昇基調が続いている。この結果、09年度は上期の落ち込みが大きかったこともあり、08年度を上回るところまではいかず、同22・9%減の260億円と2年連続のマイナスとなっている。ただ、市場の実態はこの数字とは乖離している。NECAの統計でも、10年1月の出荷は前年同月比125・7%、2月は同165・8%で、特に2月の輸出は215%と倍増となっている。前年度がこの時期大幅に落ち込んでいたことからその差が大きくなってしまうこともあるが、急ピッチに回復を示していることが伺える。3月も同様の状況が推定されるが、現在は急激な市場の立ち上がりからスイッチを出荷したくても生産対応ができないという状況も起こっている。

操作用スイッチの主要市場のひとつである半導体・液晶関連製造装置向けや電子部品実装機の引き合いが、台湾、韓国、中国市場を中心に活況を呈し、これらのメーカーは生産に追われている。また、工作機械も国内の自動車関連向けはまだ停滞しているものの、自動車以外や中国の自動車関連需要は旺盛で、操作用スイッチの引き合いに繋がっている。

さらにデジタル家電・情報機器向け、携帯電話、自動車電装用、セキュリティ機器、ゲーム機向けも活発に動いている。

社会インフラがらみの電力や新エネルギー、さらには鉄道関連でも需要が伸長している。一時は大きく落ち込んだ電力や発電関連の設備投資は、ここ数年大きく増加傾向をたどっており、操作用スイッチ需要の下支えに貢献している。

地球温暖化問題を背景に環境負荷の少ない鉄道が見直されているが、この関連需要も大きい。特に鉄道車両は運転席周りやドア、座席など操作用スイッチを多数使用している。しかも、安全性、確実性、耐環境性などが求められることからスイッチメーカーの技術レベルをアピールできる機会でもあり、同時に付加価値を高めた拡販も行えるという側面も有している。そのほか、高齢化社会に対応した福祉機器やセキュリティ機器も、今後の期待市場として挙げられている。

こうした市場の中で、販売競争も激しくなっている。日本や欧州メーカーが優位を維持してきた操作用スイッチであるが、台湾、韓国、中国などのメーカーもローコストを前面に出して拡販を展開しつつある。まだ、それぞれの国でのローカルのセットメーカーでの採用が中心であるが、昨年中国が工作機械の生産額で日本を抜いて世界トップに立ったように、こうしたローカルメーカーの購買力も、操作用スイッチの品質向上とともに高まり影響を与え始めている。日本や欧州メーカーは、中国など需要地に近いところでの現地生産の比率を高めることで、コストを下げ、為替のリスクも回避してこうしたローカルのスイッチメーカーとの競争に勝ち抜こうとしている。

NECAでは操作用スイッチを、押しボタン、照光式押しボタン、セレクタ、カム、ロータリー、トグル、デジタル、DIP、シーソー、多方向、タクティル、スライドなどに分類している。このうち照光式式押しボタンスイッチと押しボタンスイッチが、操作用スイッチ全体の各18%を占めて最もよく使用されている。この2つのスイッチで、操作用スイッチ全体の3分の1を占めている。さらにタクティル8%、DIPスイッチとトグルスイッチが各7%で、その他のスイッチが約2~6%となっている。

照光式押しボタンスイッチは、表示灯を兼備したスイッチとして、視認性とスペース性でメリットがあり主流となっている。照光式の光源は、LEDが高輝度、長寿命、低消費電力の点で主流となっている。環境問題がクローズアップされる中で、LEDの持つ低消費電力は大きな魅力で、装置全体でスイッチを多数使用することが多いだけに、こうした電力消費にも注意が向けられている。

LEDタイプの普及に伴い、照光式タイプは「操作・表示系の安全性の向上」や、「電力消費量のさらなる削減」「長寿命・耐震性・耐衝撃対策でメンテナンスの効率化」などが追求されている。こうした一環として、液晶や有機ELを光源や表示素子に採用して、情報の多彩な表現を実現した押しボタンスイッチも普及が進んでいる。

スイッチ表面の突起部高さが2ミリ前後の薄型デザインの照光式押しボタンスイッチが、各社から発売され注目されている。洗練されたデザインと機能的な操作性、それに用途に合わせた環境特性などを特徴にしている。凸凹の少ない操作パネル面は、食品機械や半導体製造装置で求められるゴミや埃の付着を防ぎ、パネル面の突起に当たることで生じる誤動作などを防止できるという利点もある。

表示灯部分を除いた押しボタンスイッチも照光式押しボタンスイッチ同様、小型化が進んでいる。φ30ミリからφ25ミリ、φ22ミリと小型化傾向を強め、現在はφ16ミリが主流になりつつある。

操作用スイッチ全体にプログラマブル表示器との市場競合が心配されているが、その中で安定した市場を形成しているのが非常停止押しボタンスイッチである。プログラマブル表示器の普及が進む中にあって、非常停止押しボタンスイッチは必須であることから、スイッチ各社が盛んに開発を行っている。普段あまり使わなくても、非常時には確実に働く構造が開発の大きなポイントであるが、最近は民生機器での使用も考慮した洗練されたデザインと衛生面に配慮した汚れに対応した素材の採用、さらには取り付けスペースに配慮した小型化などを志向している。

安全性・危険回避という点からイネーブルスイッチも普及している。軽く押すとON、さらに押すとOFF、離すとOFFの3ポジションで操作できるスイッチで、グリップスイッチなどに採用されている。人は危険を感じた時、必ずしもスイッチから手を離すとは限らず、逆に力が入って握り(押し)すぎる場合もある。このどちらの操作にも対応できる危険防止構造となっている。

タクティルスイッチはプリント基板に直付けし、シートキーボードスイッチやパネルスイッチなどと組み合わせて使用することが多く、特に携帯電話の多機能化に伴う需要が急増している。低背化、インチピッチを採用した端子が特徴で、丸洗い可能な密閉構造や照光タイプなどもあり、約0・5ミリのショートストロークながら確実な操作感が得られる。今後は、LEDを内蔵した照光式タクティルスイッチの増加が見込まれている。

DIPスイッチやデジタルスイッチは、パソコンやOA・情報・通信機器など幅広い分野で使用されている。機器の小型化に比例して小型・薄型化が進んでおり、インチピッチからハーフピッチへと進み、SMTに対応した高さ1・5ミリの製品も登場するなど、技術進歩が著しい。

DIPスイッチは、一般的に一度設定するとあまり操作しないことから、接触信頼性の確保が求められる。DIPスイッチメーカーでは、この問題を解消するために「ナイフエッジ構造」などといった独自の接触方式を開発して、フラックスなどの浸入による接触不良の解消を図るとともに、プリント基板などへの実装後の洗浄もシールテープなしでも可能にしている。シーソスイッチは、電源のON・OFFなどに良く使われる最も一般的なスイッチ。比較的大電流の入り切りを行うため、操作時の突入電流による接点やハウジング対策が重要となっている。機器の小型化が進む中で、シーソスイッチの小型化も年々進んでいる。同時に屋外や環境の悪いところでの使用に対応して、防塵・防水対策を施した製品も増えている。

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