トランスは、電源電圧を安定させたり変圧させたりする役割を持っており、機器を陰から支える重要な部品として、あらゆる産業機器に内蔵され使用されている。電力系統に使用される大型タイプから、電気設備、電子機器・装置に組み込まれる小型タイプまで、多種多様な製品がそろっており、安定した市場を形成している。
経済産業省の機械統計によるトランスの生産額は、2007年(1~12月)が590億円、08年は前年比12%減の519億円、09年は設備投資の大幅抑制の影響で同21・6%減の404億円と減少したが、市場は昨年後半から急速に回復しており、今年は大幅に伸長する見込みである。
産業用トランスの市場環境は、半導体・液晶製造装置関連向けの需要が、昨年前半までの停滞状況から一転して急速に回復している。また、近年著しい成長を示しているソーラーや風力発電などの新エネルギー関連分野、情報・通信分野、アミューズメント分野、券売機分野での動きが活発であり、食品・薬品・化粧品などのいわゆる3品業界でも順調な動きを見せている。
電力関連の需要も旺盛で、特に500VAといった高容量の大型トランスが伸長しており、大型トランスの製造ラインを増設・新設するメーカーが出ている。
また、ここ数年来、増加傾向にある特注品やカスタムメイドトランスの伸びが依然として高く、例えばユーザーから同じ大きさで容量の違うトランスをシリーズで設計・製作して欲しいという要望が多数舞い込むなど、各種のニーズに合わせた改良・工夫が進み、新たなアプリケーションの拡大に繋がっている。
一方、原材料価格は、銅相場が一昨年の夏にキロ当たり1000円を超えたが、同年秋口から急激に下落、昨年初め頃は一時期350円前後まで下落した。しかし春頃から再び上昇をはじめ、今年4月には770円まで上昇している。今後、さらに上昇するという見方もあり、予断を許さない状況になっている。
また、鉄の価格も今年に入ってから高騰しており、鉄芯価格も強含みである。さらに原油高騰から樹脂の相場も値上がりしており、トランスメーカーでは一昨年に引き続き、製品価格、仕入価格の値上げを模索する動きがでている。すでにあるメーカーでは、特注品の値上げを実施しているほか、大型品を取り扱うメーカーでも値上げを検討する段階に入っている。
元来、トランスは本体の原材料の約80%を鉄や銅で占めており、製造原価に対する材料費が30~45%と高い。例えば容量30VAでは材料費が約30%となっており、容量が大きくなるほど材料費の比率が高くなるため、トランスメーカーにとって原材料価格の動向が非常に重要となっている。メーカーでは、コスト低減のため設計の見直しなどで原材料の削減を進めるとともに、在庫管理の見直しなどコスト低減に取り組んでいる。
一方、トランスメーカーの営業取り組みも、昨年は景気が低迷したこともあり、以前にも増して積極的な営業展開を行っているメーカーが多く、新規販売代理店の獲得など販売ルートの拡大を図っている。特に首都圏の営業拡充や地方の主要都市での拡販を積極的に推進しており、大手の新規顧客開拓などに繋がっている。
さらに、物流体制の整備、ネット販売の進展などの観点からも、全国的な販路展開に取り組むメーカーが増えている。特に、市場の大きい首都圏は関東以外のトランスメーカーにとっても重要な地域で、地域に強い商社と販売提携し、営業活動を活発化させ浸透を図っている。
ここ数年の産業用トランスに対するユーザー志向は、特注品、カスタムメイドに対する要求が年々強まっている。トランスは以前からユーザーの特注品志向が強かったが、最近、この傾向がさらに強まっている。10数年前から専業メーカーでは、標準品・準標準品という形でカタログから選べる型番営業を強化してきたが、標準品販売と別の形で特注に対応する姿勢も強化している。
特注品は、組み込む機器・装置、設備に合わせて容量、サイズまで特別に製作するため、トランスメーカーにとってコスト、納期面での負担が大きいと言える。また、標準品の価格がリーズナブルになっているものの、市場を取り巻く厳しい環境から、特注品と標準品の価格差が縮まりつつある。
一般的にトランスの小型タイプは、家電を中心とする民生機器での需要が多く、そのほとんどは少品種大量生産で供給されている。このため、小型タイプは民生機器専用の専業メーカーによって生産されることが多い。
大型タイプは産業用途での採用が多いが、使用分野・製品ごとに仕様が異なるため、多品種少量生産対応が可能な専業メーカーによって供給されている。また、大型タイプを中心とする産業用トランスは重量が重い。このため輸送コストなどの面から、ユーザーに近いところで生産する地域密着型での製造・販売が主流となっている。
一方、海外需要に対応してUL、CSA、TUV、CEマーキングなどの海外規格の取得が進み、ほとんどのメーカーが海外規格対応品をラインアップしている。
トランスの軽量・コンパクト化に加え、接続方法の簡易化など作業性の向上、マルチタップ化、LEDによる通電表示などの工夫・改良が進んでいる。
作業性の向上では、結線の作業性・信頼性の向上、デザイン面などの観点から結線部への端子台の採用が一般化している。さらに、タブ端子台を採用しねじを使わず、リセプタクル端子をタブに差し込むだけで結線が完了するタイプのほか、最近では、アップねじの採用でねじを緩めることなく丸型圧着端子の接続ができるタイプがシェアを伸ばしている。ねじが脱落しないため、結線作業の効率化が大幅にアップすることに加え、従来のねじ式と比較すると作業時間が80%以上短縮できる。
また、保護カバー付きアップねじ式端子台にLEDを取り付け、通電中はLEDが点灯し通電状態が一目で確認できるタイプが好評を得ている。このタイプは、1次側(入力)とともに、2次側(出力)にマルチタップを採用することで、1台のトランスで12種類の電圧に対応することができ、入出力の電圧変更が簡単にできるという特徴を持つ。
軽量・コンパクト化への取り組みとしては、絶縁紙の使用枚数削減がある。これは環境対策面でも効果的で、今後も様々な工夫が施され改良が進むものとみられる。また、最近発売されたタイプは、絶縁種別をB種、巻線仕様をノーレア方式にすることで、従来品と比べ20~40%の軽量化を実現した。これにより、1kVAクラスの場合、約3キロの減量となる。サイズも10~20%コンパクト化が図られている。
そのほか、用途ごとに変わる電流容量に容易に対応できるように、数個を並列に接続できるモジュールタイプが一般化している。