2008年後半から続いてきた景気の低迷によって、多くの会社は利益を大幅に減らしている。この難局に対応するためにリストラや、組織変えを実施して凌いできた。落ち着きを取り戻し一段落してくると、目の前にある今日の量である売り上げを少しでも上げようという思いで動きだす。拡販の企画はキャンペーンに走る。販売店にはいろいろなメーカーの立派なポスターが貼られているが、とりあえず走り始めたキャンペーンでは成果は望めない。
とりあえず走り始めて成功したのは、90年以前の成長期である。成長期では一時不況に陥っても先の見通しが立ったために、「とりあえずキャンペーン」という行動が成果をもたらした。ともかく行動というキャッチフレーズが流行った時代であった。
現在は、混沌とした時代である。個人的戦略、戦術思考に関して述べてきたように、とりあえず走り出す前に十分な現場の情報を取り入れなければならない。その結果として、最適なキャンペーンを実施するならポスターの威力だけに頼るような企画にならないだろうし、メーカーは販売員と同行訪問の強化や商品カタログ配布の強化などのように、従来からやってきた活動の強化だけでは終わらないだろう。
特に今回の世界的規模の大不況は、地殻変動と同じことであるから、とりあえず思いついた順から行動すればよいというような単純なものではないはずだ。自然界の地殻変動は、起こった直後に形が変わっていることに気付く。
しかし、経済界の地殻変動が起こっていることはわかっていても、どんな形に変わっていくのか数年経たなければ見えてこない。
日本を経済大国にした原動力は技術である。地殻変動が起こって様変わりしていく世の中にはどんな技術が勃興するのか、その技術は製品や製品現場にどのようにかかわってくるのか、目の前にある商談情報を入手する目とは、異なった目で見ることが大事にな
る。
大手の営業は、大手を広げている網にいずれ情報は転がり込んでくるだろうか。中小の営業は水面下で発生している情報を取りに行かなければ、大手の網にかかる前に取ることはできない。変わりつつある形が見えてきてからでは、後手に回ってしまうということである。この度の大不況はあらゆる面での地殻変動であるから、こと販売戦術においても一回白紙に戻して、リストラクチャリングをするくらいの覚悟がいるだろう。
そのためにやらなければならないことは、現場情報の適切な入手である。情報入手の評価を、過去の延長線上と同じ扱いにしないことなどの意識改革が必要となろう。
一般的に販売員の情報入手活動には、次の3種類ある。(1)顧客単位の情報収集活動(2)販売員がするマーケティング活動(3)先行性ある仮説を想定して行う新市場探索や面白い商品探索活動である。
まず(1)の顧客単位の情報収集活動について考察してみよう。何の示唆も与えないで販売員に向かって情報収集を命じると、(イ)良い話は特別なかった(ロ)PRした商品とは別件で見積もり依頼が出てきた(ハ)紹介した商品は製造装置の検査治具に使えることがわかった―などの報告を得る。
会社の販売員の評価は売り上げ額にあるから、情報といえば顧客が提示する案件や顧客が採用してくれるアプリケーションだけと思ってしまう。確かに販売員の行う究極の情報収集は、案件や商談になるテーマを知って売り込むことであろう。しかし、それらを発掘するには、その前に行う顧客情報収集があることを知るべきである。
(次回は6月9日掲載)