温度調節器(計)は、温度、湿度、圧力などの各種センサーから取り込んだ測定値を必要とする設定値と比較して、その差を修正するための調節信号を、リレーやアクチュエータなどへ出力し、対象物の温度や湿度を調節する役割を果たしている。
サーモスタットなどを使ったメカニカル式から、半導体を搭載した電子式が主流になったことで、温度調節器(計)の市場は大きく変わった。電子化によって精度が格段に向上した一方、価格も大きく下がったことで需要裾野を拡大した。
市場規模は、汎用電子温度調節器(計)で約200億円、それにボード・ユニットタイプやPLCなどの組み込みモジュールタイプなどを合わせると300億円から350億円と推定される。08年秋のリーマンショックの影響で、08年後半から09年前半は大幅に需要が落ち込みほぼ半減した。現在、その後遺症から立ち上がろうとしているが、半導体・液晶製造装置関連やソーラーパネル関連が好調であるものの、全体的にはまだピークまでは戻していないところが多い。同時に、中国、韓国などのメーカーも低価格をセールスポイントにして、新興国の単機能用途で浸透しつつあり、全体に価格競争が激化しつつある。
産業界全体はリーマンショックの影響から徐々に脱しつつあるが、その後遺症は依然残っており、素材や部品の不足が明確になりながらも、雇用調整をしたり増産投資を見送ったりしているところがまだ多く、結果的に受注が先行しながらも生産の対応が出来ずに売り上げに結びついていないという状況が生じている。
温度調節器(計)でも、コネクターやLED、半導体などの納期が厳しく、思うような生産体制が取れていないメーカーも目立つ。
好調な半導体・液晶製造装置関連やソーラーパネル関連は、当分この状態が続くものと思われ、加えてパソコン、デジタル家電などの好調を背景に射出成型機などの加工機械関連市場も倍増の勢いで伸びている。
食品関連市場は、依然安定した推移となっており、半導体・液晶製造装置関連と並んで市場を牽引している。
温度調節器(計)は、軽薄短小化、高速処理、視認性、操作性、ネットワーク化対応、入力種別のマルチ化などが進んでいる。
外形寸法は、DINサイズの96ミリ角から48ミリ×24ミリまで各種あるが、搭載機器・装置の小型化傾向に合わせており、特に短胴化が著しい。従来は奥行き100ミリ前後が多かったが最近は60ミリを切る製品も増え、機器の省スペース化に繋がっている。
視認性では、数字表示部の大型化傾向が目立つ。遠くからでも確認できるのが狙いで、LED表示が多い。しかし、最近はLCDとバックライトを組み合わせた表示も増えている。LEDと同等の見易さに加え、グラフやメッセージなどの表示もできるのが評価されている。フルドットのLCD表示器を搭載することで、11セグメントのアルファベット表示機能、制御設定値やパラメータ設定、出力値アナログバーをはじめ偏差値トレンド記録表示、偏差アナログバー表示などが可能になる。視認性の高いLCDにより、5桁3段の表示も可能で、表示の情報量が増大するメリットがある。
表示色を変化させることで、安全性向上を図っているタイプもある。例えば、警報動作や制御の状態に応じて測定値表示部の色を緑色や赤色に自動で切り替える。色の変化は緑から赤、または赤から緑を選択できるもので、制御の状態が一目でわかる。
高速処理化は、各メーカーとも意欲的に取り組んでいるが、これに各社独自の制御アルゴリズムを組み合わせることで、より高速で制御性の高い製品開発を行っている。
例えば、最近発売された「RSS(ランプ・ソーク・スタビライザー)機能」では、ランプ制御開始時の追従性向上とソーク制御移行時のオーバーシュート抑制を同時に行うことで、プログラムの制御性を一段と向上させている。
また、植物のザゼンソウの有するフィードバック形発熱制御の特性などを応用して、省エネ化などに繋がる制御アルゴリズムも開発されている。
操作性ではダイレクト操作が可能なキーの搭載や、サポートソフトウェアの充実を図り、保守性の簡単化では長寿命のリレー出力により、メンテナンスサイクルの長期化や、予防保全をサポートする制御出力のON/OFF回数のカウント機能などを備えている。
選定の簡単化では、アプリケーションの違いで入力センサーが異なる場合でも対応が容易なマルチ入力機能や、各国の船舶規格に対応するなどグローバルなサポートサービス体制の強化などが挙げられる。
製造現場の熱処理工程は、工業炉をはじめ、多様な分野での高度な温度制御が製品の品質を高める重要な要素と位置付けられ、温度調節器や周辺機器の用途拡大につながっている。半導体やFPDの製造工程では、ステッパー、コータ・デベロッパーの高安定温度制御、チャンバーの高応答温度制御、ワイヤボンダーの温度制御、FPD焼成炉の多点温度制御、ウェットステーション薬液の温度・レベル管理、拡散炉の温度制御などに高機構な温度調節器が使用されている。
例えば、半導体の微細化進展の中で、温度計測精度の向上など温度制御に対する高性能な温度調節器の役割が求められ、製品の歩留まりを大きく左右している。
さらに、シリコンウエハの熱処理が可能な拡散炉は、多数枚のウエハを処理容器内に収納しヒータで加熱して1000℃前後の熱処理をする。しかも炉内の温度分布を均一にする必要から複数のゾーンに分けて、面としての温度制御が必要だ。
ステッパー、コータ・デベロッパーには、1000分の1℃の分解能を持ち、電源電圧のわずかな変動にも対応する温度調節器が使用されている。
これらのハイテク分野の製造工程だけでなく、恒温恒湿の状態を保つための温度制御は、産業界で品質を向上させながら生産性を高めるものづくりに欠かせなくなってきている。
包装機械も原料に対するヒータによる加熱温度の調節・管理が重要だ。ファジィ制御とPID制御で温度を安定させるため、デジタル入力によりオートチューニングの開始・停止指令を行っているほか、ヒータ断線警報、温度警報機能が付いており高品位な成形が可能となる。
近年は、地球温暖化対策から省エネ化対策が顕著であるが、温度調節の分野でも求められている。工業炉や食品機械などでは、予熱管理や待機電力などが生じるが、この効率化が出来るかどうかで大きなエネルギー低減効果に繋がる。これの実現へ通信機能の搭載も一般化してきた。イーサネットやModbusに対応し、PLCやコントローラなどの装置間のネットワーク化を図っている。
温度管理を装置ごとに連携して制御することで、装置ごとに最適なタイミングで温度調節が可能になり、余分な電力消費などが防げる。ここではイーサネットなどのネットワーク通信を駆使した制御が大きな役割を果たす。イーサネットに接続できない機種でも、ゲートウェイ機能を内蔵し容易にネットワークを構築できるタイプもある。
さらに赤外線通信で簡単にセットアップでき、各種パラメータの読み書き、CAV形式でファイル保存などの便利さが増している。光通信機種も発売されている。