企業リスクマネジメント第54話 ~国際的ビジネ感覚-敵がは強か~

グローバルビジネスが加速するなか、海外企業との付き合いは不可欠である。

世界地図を広げて見ると、経済大国といわれる日本は豆粒のように小さい。ロシアの45分の1、アメリカ、中国の25分の1しかない我が国は、島国だからこそ、外敵から守られていた。陸続きの侵略がないからか、大陸諸外国に比べておひとよしが多いように思う。

しかし、この小さな島国の需要は限られており、日本企業は海外市場に進出しなければならなくなった。海外進出は情報力と体力のある大手企業のものであったが、もはや中小・零細企業も重い腰をあげて、海外販路を開拓しなければならないようだ。とはいえ、海外に精通している社長ばかりではない。ドメスティックな考えの社長は、自分の不得意分野である海外戦略を先延ばしにはできない。海外進出を考える前に、まず、社長自身が国際感覚を身につけ、会社をインターナショナルカンパニーに教育しなければならない。武器を持たずして戦地に臨むようでは、あっという間に足もとをすくわれる。

ある中小企業の例である。中国企業から1億円程の機械を受注した。注文書を受け取り、取引契約を締結した後、その日本企業は機械部材を仕入れ、製造を開始した。ところが納期間近のある日、中国から更なる値引き交渉が入った。20%を更に値引きしろ、さもないと購入しないと。社長は憤慨し悩んだが、結局値引き交渉には応じず、その注文は白紙になった。中国側は、不良在庫になるよりは利益率が減っても売るだろうと考えたのである。確かに資材調達後に売れないとなると経営的にはかなり痛い。しかし、こんな会社に足もとを見られてここで売ってしまったら、納品後にあれこれといちゃもんをつけてきて、もっと大変だと判断したそうだ。せめてもの救いは機械を納めていなかったことだと悔しい想いを語ってくれた。契約書を交わしていても関係ないお国柄、この痛手がグローバルビジネスで初めて得た経験であった。

また海外企業が日本企業に代理店契約を結ぶケースで注意しなければならないことを挙げよう。海外企業が日本進出を試みる時、代理店を設けて様子を見るのが普通である。欧米企業にとって特異に映る日本の商習慣に自信がないのと、独自展開投資リスクを見極めるために、ロングアームと呼ばれる代理店設置は、容易に市場を得るための良い手段である。しかし、欧米企業は基本的に自らがコントロールしたいと思っていることを忘れてはいけない。私も経験があるのだが、5年位すると日本市場や顧客層も見えてくる。そして「これまでありがとう」と言わんばかりに買収にかかってくる。それを拒否すると、契約を解除して独自で会社を興す動きをする。あるいは、買収交渉と同時に水面下で準備している。最悪なのは、その業務に携わっていた社員を一本釣りで引き抜こうとする。

または販売代理店はそのまま残して、××社代表事務所と本社の出先を作り、自らの活動拠点を設ける。法人ではなく、社員一人で成り立つ事務所では会社法上、収益を得られないので、販売代理店に売り上げさせて市場を監視する役割に徹する。機が熟すと代表事務所は法人となり、代理店はお役目終了となるのである。特に欧米の場合、契約書をかさにものを言ってくるのが特徴だが、訴訟を恐れる必要はない。いつも私が海外企業との契約交渉でアドバイスするのは、参照法律や裁判の場所が現地になっているものをInternational
Arbitration(国際仲裁裁判)にすることだ。そうすれば、相手は日本企業の管轄裁判所で提訴しなければならなくなり、訴えるのは一苦労になる。その代わり日本企業が訴訟をする場合も、相手国で提訴しなければならないため、裁判に臨むのは余程の体力が必要である。

海外企業とは性悪説で物事を考え、強かな駆け引き能力がないと危なくて付き合えないことを頭の隅に残しておいてほしい。
(シュピンドラー株式会社
代表取締役シュピンドラー千恵子)

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