近年、全国各地で落雷が増加、停電や火災、さらに家屋や人への被害が増加している。落雷や停電の被害は、コンピュータなどの半導体使用機器が大幅に増えている現在では、その被害が深刻化している。
気象庁が2005年に行った全国の自治体、電力会社、鉄道会社、病院、学校などを対象とした落雷による被害状況や被害額などのアンケート調査によると、物的被害額が最も多かったのは工場で約343億円、次いで一般住宅約126億円、オフィス約30億円と直接的な被害だけでも約500億円で、その他を合わせると1000億円を超えている。
被害状況を見ると、ADSLなど通信線からの雷の高電流(雷サージ)が侵入し、パソコンのデータが消失する被害が目立つ。
雷被害額については、電気学会が損害保険の支払われた額から試算したところ、1000億円以上となっている。雷害対策機器の市場は機器に工事、メンテナンスなどを加えると1000億円前後と見られている。
機器の設置工事やメン
テナンスも大きな需要
雷害対策機器市場は、公共・民間の新築物件への新設分野と、既存物件のメンテナンス需要に大別される。
地球温暖化などの影響で雷の発生日数も増加傾向で、一般家庭にもコンピュータのネットワークシステムが普及しており、雷被害はさらに拡大する恐れがある。この傾向は日本に限ったことではなく、世界的にも雷被害は拡大している。
中でも、パソコンは高密度、かつ省電力型の電子精密機器として、一般の家電製品と違い、ごく僅かな電流の変化で電気信号が流れ誤作動を起こしたりする。
パソコンが故障する原因で、落雷によるものは夏季(7~9月)で全体の約40%、年間では同約20%に達しているという統計もある。
落雷時に誘導雷がコンセントなどから侵入した場合、過電流がパソコンの電源ユニットを経由し、CPU、メモリー、さらにモニタやプリンタにまで被害が及ぶ可能性がある。
落雷の被害を避けるためには避雷針を設置するほか、大規模な工場では低圧避雷器の取り付け、建物の外部から内部へ引き込む通信線や信号回路・制御回路用には耐雷機器、過電圧に敏感な機器は耐雷変圧器の取り付けなどの対策が考えられる。
雷害日数と雷被害件数については、一般的に太平洋側では夏に、日本海側は冬に多く発生することが知られている。このことから雷被害数は雷雨日数や落雷数に関係があると見られているが、あまり公にはされていない。その理由は、雷被害数について、確立された方法で統計的に処理している機関が少ないためである。
雷害対策機器メーカーが行った高圧自家用電気工作物の波及事故件数のデータを基にした、雷雨日数と雷被害数の関係の分析によると、雷雨日数と落雷数の関係について次のような報告がある。
日本における雷雨日数は、気象庁の気象観測所において雷鳴を聞いた日数をカウントし毎年公表されている。また、落雷数は落雷カウンタや落雷位置評定システムなどで計測されているが、公表はされていない。こうした一方、70年から80年代にかけて、これらの関係式が各国で多数提案されている。
IECでは、84年に提案されたデータと関係式を採用している。このデータは、南アフリカの62カ所で測定されたもので、雷雨日数は4~80日、落雷数は0・2~13(回/年/平方キロメートル)で、72年に当時のソ連から発表されたデータと関係式がほぼ同じであった。
このことから落雷数(密度)は、一定の法則で増加することが明らかとなった。
被害の80%を占める
気中開閉器への落雷対策
また、雷雨日数と雷被害数の関係では、高圧電気工作物が原因となった電力供給支障事故(波及事故)は、自家用電気工作物の設置者が、48時間以内に所轄の保安監督部に報告することが義務付けられている。
比較的雷が多い埼玉県で行った99年から08年の10年間のデータによると、事故件数はほぼ雷雨日数に比例し、雷雨日数が10日以上になると件数が多くなる傾向が見られる。
ただし希に、比例しない年もあり、これは雷による過電圧が落雷電流の大きさに比例するためで、気象現象により落雷電流の大きさが変化したものと考えられている。
さらに、雷雨日数が10日より少ないと、同様に被害件数が減少している。雷被害にあった機器・設備は、04年から08年までの5年間の調査によると、「避雷器を設置していない1号柱のPAS(気中開閉器)」が、全被害39件中32件(81%)となっており、PAS近傍への避雷器の設置や、避雷器内蔵型PASの採用が重要であるとしている。
「落雷情報」のメール
サービスも好評
一方、落雷による被害を少なくするために、関西地区ではNTTや関西電力が「落雷情報」についてメールサービスを行うなど、一般市民向けに落雷情報を提供し好評を得ている。こうしたこともあり、落雷についての一般市民の関心は高まっており、雷害対策機器市場拡大の後押しとなっている。