1現状
鉄鋼産業は、広範な産業分野に、粗鋼ベースで年間約1億トンの鉄鋼材料を供給する基盤産業である。2009年前半の鋼材需要は、60年代以来の低い水準にまで落ち込み、鉄鋼各社は厳しい減産と在庫調整を迫られたが、その後、経済対策の効果などにより自動車産業を中心に国内需要が順調に回復したほか、アジア向けを中心に輸出が高い水準で推移しており、後半は年率換算で概ね1億トンレベルの粗鋼生産にまで回復した。
2我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国鉄鋼産業は、自動車向けの高張力鋼板、エネルギー開発に不可欠な継目無鋼管、高速鉄道用の高級レール・車輪などの高級鋼分野で、技術的に高い競争力を有している。さらに、製鉄プロセスでの省エネルギー技術も世界最高水準である。
(2)弱み
我が国鉄鋼産業は、主要な原料である鉄鉱石や原料炭の輸入を、豪州(鉄鉱石、原料炭)、ブラジル(鉄鉱石)、カナダ(原料炭)などに大きく依存しており、上位2カ国からの輸入割合が、ともに約8割を占める。こうした中、近年これら原材料価格は上昇傾向にあり、製造コストに与える影響が増している。
3世界市場の展望
世界の鋼材需要を粗鋼換算ベースでみると、00年以降堅調に増加し、07年、08年は13億トンを上回ったが、09年は世界的な景気悪化の影響により、12・1億トンと大幅に減少した。しかしながら、今後は、中国、インド、ASEANなどの新興国における鉄鋼需要の拡大から増加が見込まれる。特に、中国の粗鋼生産量は、09年には5・7億トンとなり、97年から14年間連続で世界第1位となっている。
4我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
国内外の厳しい環境変化に対応し、我が国鉄鋼産業が今後とも国際競争力を維持するためには、生産体制の更なる合理化・効率化を図り、技術開発・設備投資などによる商品の高付加価値化及び新興国等の成長市場の獲得といった取り組みを不断に続けていくことが必要である。
(2)資源問題への対応
鉄鉱石価格をはじめとする資源価格は、08年に急騰し、中長期的には、中国、インド等の新興国における旺盛な鉄鋼需要を背景とした鉄鋼原料価格の高騰が見込まれる。また、ヴァーレ、リオ・ティント及びBHPビリトンの3社で世界の鉄鉱石貿易量の7割超を占める寡占状態となっている。こうした状況から、我が国企業による鉄鉱石鉱山の権益確保に対する支援や、低品位製鉄原料の利用拡大による資源対応力の強化を図る技術開発の推進に努めていくことが重要である。
(3)通商問題への対応
近年、世界的な景気の悪化を背景に、各国において自国産業への支援や雇用の確保のためと思われる保護主義的措置が相次いでいる。とりわけ、東アジア地域の一部の国においては、消費者保護や安全確保を名目とした強制規格(特定製品について国家規格との適合性評価を義務付けること)や船積み前検査等の措置を導入する国も増えてきた。これらの措置は、過度に貿易制限的な面があり、自由貿易体制の維持に重大な影響を与えかねない。我が国としては、2国間協議や国際会議等を通じて、これら貿易制限的措置の廃止や導入見送りを各国に働きかけ、それを実現してきた。今後も引き続き、各国の保護主義的な動きに対して、最大限の注意を払っていくことが重要である。
(4)温室効果ガスの大幅削減に向けた対応
我が国鉄鋼産業は、京都議定書目標達成計画の一環として、自主行動計画を策定し、10年度の鉄鋼生産工程におけるエネルギー使用量を、基準年の90年度に対し、10%削減する目標を掲げている。
08年度のエネルギー消費量は、これまでの省エネ努力に加え、急激な活動水準の落ち込みのため、90年度比11・5%減と単年度では目標を上回った。しかしながら、足下の粗鋼生産は回復傾向にあり、今後とも、省エネに対する取組の強化や、京都メカニズムクレジットの活用等を通して、最大限努力することとしている。
また、50年における大幅なCO〓排出削減を実現するため、「Cool
Earthエネルギー革新技術計画」の中に選定されている革新的製鉄プロセス技術開発を着実に推進していくことが必要である。