以前、このコラムにおいてある会社が社員を解雇した決断の話をしたが、今回はその後の展開を紹介しよう。
社会人としてのマナーの悪さ、社内でのひどい言動など服務上の心得の欠如、キレやすい性格に何度となく会社は注意をしてきたが改まらないので、厳重注意をするため本人との面談を要請したが感情的に拒否され、その結果、即日解雇を言い渡した例だ。勿論この解雇は会社の都合ではなく、本人都合でもない。会社規則「懲戒解雇」規定にある「会社の命令に再三反抗し、または拒否したとき」に該当する懲戒解雇であった。「明日から来なくていい」と申し渡した直後、会社は本人の友人であるチンピラ風の男から脅迫めいた電話を何度か受け、警察に被害届を出している。その後、元社員は「会社都合解雇であること」「従って退職金を払え」と連絡をしてきたので、会社は労働基準局の斡旋申請を行うことにした。
「斡旋」とは、使用者と労働者の間で、労働上のもめ事や見解の違いなどが生じた場合、労働基準局監督署において話し合う調停の場である。そこでは、担当官が間に入って互いの言い分から折り合いをつける示談交渉を行うことができる。当会社は話し合いで解決をするため斡旋申請をしたのだが、相手方から拒否されたそうだ。あくまでも話し合いに応じず、自分の主張を貫く姿勢であった。その代わりに労働審判の申し立て書が相手方から届いた。これは労働基準監督署の調停ではなく、裁判所における調停である。
「労働審判」とは、民事訴訟とは異なり、早期解決を目的に原則3回の審理で決着をつけるものである。よって、申し立て人(この場合元社員)によって申立書が提出されると1回目の期日が指定され、相手方(会社)はその期日までに答弁書を提出する。1回目で争点や証拠の有無の確認が行われ、2回目では証拠立証が成立、協議が行われる。この間に調停が試みられ、成立しなかったら、3回目で3人の審判員によって労働審判が下されるといった仕組みである。これは通常訴訟でいう判決に等しい。3回で決着をつけるわけだから、代理人(弁護士)の出頭だけでなく、当事者が必ず出頭しなければならないことも民事訴訟とは異なる。
1回目終了後、会社側は審判官に、「元社員は企業統治のため辞めさせるべき人物ではあるが、始末書をとる、けん責事実の証拠(通知等)が不十分であるので懲戒解雇は難しいだろう」とコメントを受けたとのこと。確かに、長期の無断欠勤、会社の金品の横領、職務・会計上での不正、重大な過失による業務妨害、重大な犯罪行為などが懲戒解雇では一般的ではある。要はイエローカードをバンバン出しておく必要があったとの見解で、いきなりレッドカードは認めにくいらしい。当然のことながら会社は何度も注意してきたが、口頭注意では証拠が薄いということだ。言葉遣いが悪い、勤務態度が悪いといったことに対して、その都度始末書を取れなかったのは事実らしいが、第三者が聞いても現実的ではない。審判が下っても異議申し立てをすれば無効になり、自動的に通常訴訟に移行する。
一方、別の外資系会社では、ある社員を呼び出し、即日解雇を言い渡した。
契約では3カ月前に知らせなければならないので、3カ月分の賃金を払うことを述べ、5分で通知は終わったそうだ。「即、使用しているコンピューター、鍵、IDカードを返しなさい。私物だけ持って退社しなさい」といわれ、午後には失業者になった。この社員には何も非がなく単なる人の入れ替えであった。
雇用とは、なんだろうと考えさせられる。変な社員をクビにしても労働者の立場は強く、そうかと思えば一生懸命頑張っている社員の契約は正当に解除される。つまり雇用は手続きが整っていればいいということなのであろうか。
(シュピンドラー株式会社
代表取締役シュピンドラー千恵子)