1、現状
我が国セメント産業の2009年の販売数量(輸出を含む)は5423万トン(前年比11・6%減少)となり、その出荷割合を見ると、生コンクリート57%、輸出19・8%、セメント製品10・5%となっている。
我が国におけるセメントの国内需要量は、公共投資の削減や民間需要の低迷によって04年度に5757万トン(90年度、ピーク時の約67%)まで減少した。05年度から06年度にかけては災害復旧に伴い一時的に需要が回復したが、世界的な景気悪化に伴う民間需要の減少により、08年度は5009万トンまで減少した。09年度については、08年以降の世界的な景気悪化にともなう需要減少が続き4~
12月で3266万トン(前年同期比15%減少)となった。
一方で、08年の全世界のセメント需要量は約28億トンと推定され、01年以降中国やインドなどの新興国での急激な需要増加により、世界全体では需要量が毎年増加している。特に中国では、全世界のセメント生産量の半分を占めるまでになっている。
このような中、ラファージュ(仏)、ホルシム(スイス)、ハイデルブルグ(独)、セメックス(メキシコ)及びイタルチェメンティ(伊)の海外セメントメジャー5社による寡占化が進んでおり、5社が占めるセメント販売数量の世界シェアは約19%にまで達している。
2、我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国セメント産業は、高品質のセメントを安定的に生産・供給し、また、世界でも率先して工場設備の近代化、省エネルギー化、廃棄物の受入れに取り組むなど、世界トップクラスの技術力を有している。省エネルギー化については、更なる改善の余地はほとんどないと評価されているほど、我が国セメント産業の省エネルギー技術は世界最高水準にある。
また、セメント産業は社会的要請の下、廃タイヤや下水汚泥などの廃棄物等を積極的に受入れ、セメント原燃料として再資源化することにより、資源循環型社会の形成に貢献している。2010年度におけるセメント生産1トン当たりの廃棄物等使用量を400キログラムに引き上げる目標を設定したところ、04年度時点で401キログラムに達した。08年度には448キログラムと更に増加させ、5年連続で目標を達成している。
(2)弱み
我が国セメント産業は、原料である石炭を輸入に依存しており、石炭の価格も含めた安定確保が課題となっている。
また、我が国セメント産業の収益率は、海外メジャーと比べ低水準にある。その背景には、国内市場における過当競争が挙げられる。我が国セメント産業は92年頃から需要に対して設備過剰状態となっていることに加え、生コンクリート業界(セメントの国内需要の約7割)は参入障壁が低いため、過剰設備となり、過当競争を生んでいる。
このような状況の下、07年度から08年度にかけて、石炭価格が1トンあたり55・5米ドルから125米ドルに高騰したが、価格高騰分に見合った価格転嫁が十分に行えず、景気悪化による急激な需要減少と相まって、各社の経営状況は厳しいものとなっている。
3、世界市場の展望
近年、中国、インド及び東南アジアのセメント需要量が急増しており、今後も同地域を中心に着実な増加が見込まれている。08年の世界のセメント生産量は約28億トンと推定されているが、その71・2%はアジアで生産されている。特に世界一の需要量を誇る中国においては、世界生産の約49%を占めるまでとなっている。
中国に続いては、インド、米国、日本、韓国の順となっている。有望市場とされる中国では、需要の急増に伴って最新鋭の高効率施設が増加したものの、いまだ非効率な小型の竪窯も多く使用されており、中国セメント産業全体の
高効率化が引き続き課題となっている。そのため、今後も非効率な小型の竪窯の廃棄と最新鋭の高効率施設の新規立地が見込まれている。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
我が国セメント産業は、設備過剰や過当競争により適正な利益を得にくい業界構造となっており、川下産業(生コンクリート業界)を含め、大規模な構造改善が必要と考えられる。さらに、一層の物流効率化や製造工程での更なる廃棄物処理の受入れなどの対策を行うことも求められる。
一方で、我が国セメント産業の世界最高水準の省エネルギー技術は、地球温暖化対策の重要性が高まる世界において、強みを発揮できる分野と思われる。我が国セメント産業が独自の強みを発揮するためにも、一層の省エネルギー化、二酸化炭素削減を目標とした技術開発が期待される。
(2)グローバル戦略
中国やインドなどアジア諸国が有望市場とされる中、同地域ではセメントメジャーが先行投資を行っており、中でも東南アジア各国の生産能力のうち、セメントメジャー5社が占める割合は、既にインドネシアで94%、フィリピンで89%、タイ55%、マレーシア45%となっている。我が国セメント産業の海外進出状況については、08年末時点では韓国、中国、米国を含む6カ国18工場(粉砕工場含む)となって海外メジャーとの差には開きがある。
しかし、世界的に省エネルギーや環境対応力への要請が高まる中、今後、我が国セメント産業が強みを発揮し国際展開を図っていくことが期待される。