1、現状
化学産業は、プラスチック、化粧品、洗剤、写真用フィルム、タイヤなどのゴム製品、など、広範な分野にわたって素材や最終製品を供給するとともに、電池材料や医薬用部材、などエネルギー環境問題対策や安全安心社会の実現にも貢献する産業である。
2008年度の出荷額は43兆8523億円、製造業全体の約13%を占め、付加価値額では15・5兆円、約15%と高い比率になっている。この出荷額および付加価値額は共に、輸送用機械器具に続く第2位で、直接的には92万人の雇用を支えている。
国際的な位置付けでは、米国、中国に次ぐ第3位の規模を誇っているが、個々の企業業績を比較すると、欧米企業が上位を占めており、我が国企業の規模は大きくない。近年は従来のような、欧米の大手企業との競争だけでなく、保有する資源を活用して成長を続ける中東や、大消費地を国内に持つ中国との競争も激化している。
2、我が国企業の強みと弱み
(1)強み
自動車、電子機器などの重要なユーザー産業の高い要求に対応し、素材を幅広く提供してきたことにより、高品質な製品を生産する技術力が蓄積しており、液晶ディスプレイ用材料、半導体用材料などの高機能材料における世界市場で高いシェアを占めるに至っている。さらに、今後高い成長が期待されるリチウムイオン電池や太陽電池などの分野についても、これまでの技術力を基礎として、高機能材料を提供しており、中長期的にも世界市場での成長が期待される。
(2)弱み
石油化学汎用品においては、生産設備が相対的に小規模であること、原材料調達コストが高いことなどにより、国際競争力は高いとは言えない。
特に、差別化余地の乏しいポリ袋などの汎用品については、安価な天然ガスを利用できる中東地域に生産拠点を持つ企業や、大規模に事業展開する欧米・中国の化学企業などと比較して、劣位にあると考えられる。
3、世界市場の展望
世界の化学産業の間では、中東・中国拠点を中心に生産能力の拡大が続けられており、競争は更に厳しくなることが予想されている。このような中で、競争力・収益性強化を模索した買収などの動きも活発になっている。経済産業省で公表している「世界の石油化学製品の今後の需給動向について」によれば、13年までの世界全体におけるエチレン系誘導品の需要の伸びは年平均2・3%と予想される一方で、供給の伸びは中東、中国およびインドにおける大規模プラントの新増設により年平均で2・9%との見通しを示している。このため、供給超過構造となることも懸念され、国際競争が激化することが予想される。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
将来にわたって化学産業の国際競争力を維持、強化していくためには、収益力の高い製品開発の強化、コンビナート全体での効率化を見据えた生産体制の整備など、化学産業がより高収益体質となっていくための体制の構築が重要である。特に、水島、千葉など一部の地域においては、隣接するコンビナート間での連携の検討も始まっている。
また、低炭素排出に関する社会的要請が高まる中で、化学産業においても排出削減努力や、排出削減に効果のある素材(炭素繊維やバイオ原料素材)或いはエネルギー環境分野への素材供給(蓄電池材料など)など、低炭素排出社会への対応強化が求められている。
(2)グローバル戦略
我が国の化学企業はそれぞれが独自の戦略により、一層のグローバル化を目指している。特に、安価な原材料を目指した産油国への立地、新興市場を指向した消費地立地の動きが進んでいる。例えば、住友化学(株)では、サウジアラビアにおいて世界最大規模の石油精製・石油化学統合コンプレックス事業、「ペトロ・ラービグ」への投資により競争力のある原料を確保して、スケールメリットを最大限に活かした収益力の強化に取り組んでいる。その他の化学企業において中国、インド、タイなどへの立地の動きもある。