1、現状
工作機械は金属などの材料から切削、研削などによって不要な部分を取り除き、必要な形状に作り上げる機械である。金属製部品や金型の多くが工作機械で加工されており、機械を作るために必要な機械であることから、工作機械は「マザーマシン」とも呼ばれており、工作機械産業は我が国製造業の基盤となる産業となっている。
我が国の工作機械の生産額は1982年から08年まで27年間連続世界第1位となっていたが、09年は08年後半からの景気減速の影響を大きく受け、中国、ドイツに続く第3位にとどまった。
工作機械の市場は企業の設備投資と強い関連を持つため、景気の変動によって大きな影響を受ける。我が国工作機械メーカーの受注額は、93年の5319億円、02年の6758億円と、それまで過去最高であった90年の半分以下まで縮小した。しかし、03年以降、自動車産業や金型をはじめとする一般機械器具産業の生産能力の増強や老朽設備の更新及びIT産業向けの設備投資が活発であったことなどから国内の需要が回復するとともに、中国をはじめとする新興国の市場拡大や欧米市場の景気拡大による海外需要の広まりにより順調に回復し、06年には1兆4360億円、07年には1兆5900億円となり、2年連続で史上最高額を更新した。08年9月までは一般機械器具製造業や重厚長大産業が好調であり、欧米・アジアなどの海外需要も非常に旺盛であり、堅調な受注を続けた。しかし、米国の金融危機に端を発した世界同時不況の影響により、08年10月以降受注が大きく落ち込み、受注額は1兆3011億円と6年ぶりに前年を下回った。
09年1月に受注の底を迎えたが、国内では、主要産業である自動車産業をはじめ、すべての業種で設備投資の抑制が継続した。海外では、中国を中心としてアジアでは回復の動きが見られたものの、欧米が国内同様に低調に推移した。このため、月を経ても回復は非常に弱く受注は微増にとどまり、09年受注額は4118億円と79年以来、30年振りの4000億円台と非常に厳しい結果となった。
受注の減少に伴い、ヤマザキマザックやオークマ、森精機製作所を始め、多くの工作機械メーカーは、生産体制の見直しや、調達体制の見直しを行い、固定費の削減に取り組むとともに、風力発電向けなどで需要のある大型機や、早期の回復が見込まれる新興市場向けの中低級機への生産シフトなどの対応をしている。こうした動きに加え、シチズンホールディングスによるミヤノの連結子会社化、小松製作所(コマツ)の日平トヤマに対する完全子会社化、森精機製作所のギルデマイスター(独)との資本・業務提携などの経営資源の相互利用を目的とした企業間連携の動きも見られる。
2、我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国の工作機械産業は、NC旋盤、マシニングセンターに代表されるNC工作機械の高級・中級機分野で競争力を有し、保守・補修などのアフターサービス体制が充実していることから、国内外のユーザーからの信頼も高い。
また、優れた技術力を基盤とした高い開発力を有しており、既存の大きなユーザーである自動車産業やIT産業に加え医療や航空機など新興市場のユーザー業界とも緊密に連携しながら、新しい技術開発に取り組んでいる。
(2)弱み
海外市場においては、低級・中級機分野で競争力を有する中国、韓国、台湾メーカーの躍進がめざましく、価格競争力を背景として、アジア市場を中心にシェアを拡大している。また、欧州メーカーのアジア市場への参入も進められていることにより、海外メーカーとの競争は激しさを増しており、我が国工作機械メーカーはより一層の競争力強化を求められる状況となっている。
一方、国内の受注規模を見ると、これまで年間で7000億円程度の国内市場が09年は1500億円程度に縮小した。国内には、大小100社以上の企業が存在しており、市場をめぐり競争が激しく、各社が投じた経営資源の有効活用が必ずしも適切とは言い難い状況にあり、今後の課題と言える。
また、業界の研究開発費の状況を見ると、縮減傾向に加えてこの度の世界同時不況の影響があり、国内外ともに十分な経営資源が投じられているとは言いがたいことから、将来の競争力強化に向けた更なる投資も必要と思われる。また中型で汎用の旋盤やマシニングセンターを製造している会社が多く、特色のある製品作りが求められている。
3、日本市場及び世界市場の展望
08年後半の金融危機の影響により、09年に入っても、自動車産業をはじめ、全ての業種で受注環境が停滞し、僅かな回復にとどまったことから、国内向け工作機械受注額は大きく減少し1596億円(対前年比71・8%減)となった。
また、世界市場は、国内同様に悪化したことにより、欧米で大きく減少した。中国を始めとするアジア市場については、前半は低調に推移したものの、夏以降は電子機器、小型自動車、エネルギー・鉄道と言ったインフラ関係の需要があり、ピーク時の水準に回復するまでに至った。しかし、全体としては、欧米の不調が大きく足を引っ張り、海外向け受注額は2522億円(対前年比65・7%減)となった。今後は、しばらくは厳しい受注環境が続くと見られるが、新興国のインフラ需要などを中心に回復し、日本、欧米の市場も少しずつ回復に向けて動きだすとみられ、中長期的には全世界での市場は拡大していくものと見込まれる。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
国内製造業の海外展開が進展する中、多様化するユーザーニーズ、変革スピードの加速化に対応する開発力の保持が事業発展の鍵となっている。今後ますます要求が高まる超精密微細加工、セラミックスや複合材料等の新材料加工、生産準備段階まで含めたトータルリードタイムの大幅削減に向けた多軸・複合工作機械の開発等の技術開発を進める必要がある。また、団塊の世代の大量退職により優れた技術を持つ技術者や技能者が退職していく中、それらの技術を受け継ぐ人材が不足している。若い人材の確保とともに、技術や技能の伝承を効率よく行う体制づくりなど人材育成が重要となっている。
(2)グローバル展開
我が国工作機械産業の外需比率をみると、受注額で過去最高水準を示していた90年には26・4%と3割にも満たない状況にあった。その後、経済のグローバル化と新興市場の急速な発展により、旺盛な設備投資が見られ、1兆5900億円と90年のバブル期を越える受注を記録した07年には56・4%と5割を超え、00年では70・7%と外需比率が7割まで上昇した。こうした外需を世界の主な市場毎に見ると、98年には2割弱であったアジア市場は成長を続け、09年のアジア向け受注は、外需全体の54・7%を占めるまでに至り、北米、欧州といった需要地を抜き最も大きな市場になっている。また、BRICsに代表される新たな市場も中長期的に拡大傾向にあり、今後も低級・中級機を中心とした継続的な需要の成長が見込まれる。
また、我が国の自動車、家電産業など工作機械のユーザーも中国やASEANを中心に生産拠点を構築しており、オークマ、ヤマザキマザック、牧野フライス製作所、ツガミ、ソディックといった工作機械メーカーは現地生産を充実させ、その他のメーカーもサービスセンターや販売拠点などの整備に努め、アジアでの市場拡大を進めている。