2010年版ものづくり白書 『主要製造業の課題と展望』 (9)重電産業 必要な国際競争力の強化

1、現状

重電産業は、国内外の電力産業などに用いられる発電・送変電設備及び産業用電気機器を供給する我が国の基幹産業である。1990年代頃までは、国内電力産業の定期的な設備投資や公共投資などにより一定規模の発注量があったが、電力自由化の下での設備投資効率向上への取組みや公共投資の削減などにより電力産業及び官公庁の需要は減少している。特に、国内主要電力会社の07年度の設備投資は約1・9兆円であったが、これは93年の設備投資額(ピーク時)の半分以下の水準であり、07年度以降、電力用機器は送変電設備を中心に老朽化設備に対する更新需要が増加傾向にあるものの、全体としての生産規模はピーク時から大きく減少している。

一方、近年、経済活動の活発化するアジア諸国での電力需要の高まりの中で、輸出額は04年度以降、07年度まで順調に増加している。特に中国、韓国、台湾、タイなどのアジア向けに輸出額は急激に伸びてきており、01年度以降6年間でアジア向けの輸出額はほぼ倍増している。

なお08年度については、下期に入り世界的な経済危機により国内外の経済が縮小し、輸出の減少及び国内の設備投資の抑制など事業環境が大きく変化した。特に、産業用の汎用電気機器は国内の設備投資の抑制に加えて輸出にも勢いがなくなり、生産は大幅に落ち込んだ。

一方、重電機器の受注生産品は、受注残に支えられ生産は堅調に推移した。09年度については、重電機器の受注生産品の受注残高の減少により、生産が減少に転じた。

また、産業用の汎用電気機器も第1四半期の生産が前年同期比約半分で推移し、その後、急激な落ち込みに対する反動増や中国を中心としたアジア向け輸出の回復により、底は脱したものの引き続き厳しい状況が続いている。

海外企業の動向としては、欧米企業は、特定の事業への集約化による競争力強化や現地ニーズにあった低コスト化で利益を確保しており、中韓企業は安価な人件費等による価格競争力を背景に急成長している。

2、我が国産業の強みと弱み

(1)強み

我が国には、高度な技術ニーズに応えられる高い技術力・製品開発力を有した企業が多い。具体的には、発電分野では、超々臨界圧発電や石炭ガス化複合発電(IGCC)、CO〓分離技術など、世界最高レベルの発電効率と低炭素化が強みであり、また、予防保全等の運転・管理ノウハウにより、こうした高効率・高稼働プラントを長期にわたって維持することができる。また、送配電分野では、世界最高品質の系統制御技術による高い系統信頼度、高効率・大容量の超高圧送電技術や変圧器のコンパクト化などに強みを有している。

(2)弱み

我が国重電産業は、欧米企業に比べて海外展開が遅れており、海外シェアの獲得に苦戦している。特に、欧米企業がいち早く途上国でのジョイントベンチャーを推進し、現地ニーズにあった低コスト化を志向し、一方、中韓企業は、安価な人件費等を背景とした圧倒的な価格競争力を有しており、相対的に日本企業は高い品質と技術力を有しているもののコスト競争力がなく、十分に強みを発揮できていないというのが現状である。

3、世界市場の展望

国内市場は、電力需要の将来的な伸びの鈍化や公共事業への投資抑制などにより設備需要の拡大は期待できない状況にある。

一方で、世界の発電電力量は07年の20兆kWhから30年には34兆kWhに7割増加する見通しであり、このうち石炭火力は8兆kWhから15兆kWhと9割近く増加。これに伴って、石炭火力の発電設備容量も30年までに現在から倍増すると見込まれている。

4、我が国産業の展望と課題

(1)今後の競争力強化に向けた対応

地球規模での環境配慮が国際的にも求められているなか、近年、途上国においても、資源制約や環境問題から高効率等の技術を評価する動きがあり、我が国重電産業が持つ省エネルギー、環境対策に関する高い技術の活用が期待される。

このため例えば、発電分野では高い製造技術力や優れた運転・管理ノウハウを活かした事業に重点を置いて、海外展開することが重要であり、日本の強みを顕在化させるための相手国への働きかけや公的金融支援の強化等を通じた日本企業の海外展開を支援する取り組みが必要である。

(2)アジアを中心としたグローバル戦略

成長するアジア市場に参入していくためには、現地ユーザーのニーズに的確に対応したものづくりを行っていくことが重要である。

欧米メーカーとの競争に関しては、現地生産を含むグローバルな最適生産体制を構築し、価格面、トータル・ソリューション提供の面で対抗できる能力を育てることが必要であるとともに、現地企業等、発展途上国メーカーとの競争に関しては、知的財産権の保護、技術流出防止対策などに配慮することが必要と考えられる。

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