為替レートは今年5月時点で、1米ドル=94円、1ユーロ=125円であったが、5月以降急速に円高が進行し、8月20日現在、1ドル=85・4円、1ユーロ=109・4円となってい
る。
急激な円高現象は、輸出をメインとする国内企業に大きな打撃を与えつつある。みずほ総研によると、1ドルを100円とした場合、輸出をメインとする企業の経常利益は、85円になると5・9%減益、75円になると9・8%減益に転じるという。75円になれば、ほぼ10%の減益ということになる。
ある大手制御機器メーカーでは、期初計画において対米ドル及び対ユーロの平均レートをそれぞれ90円/125円に設定していたが、第1四半期の平均レートをそれぞれ91・5円(前年同期比5・3円の円高)、116・9円(同14・6円の円高)に設定し直した。
さらに、第2四半期以降も円高傾向が継続すると見込み、業績予想における第2四半期以降の為替レート前提を1米ドル=85円、1ユーロ=110円に改めて設定し直した。
この制御機器メーカーは輸出を多く手がけており、ドルが1円円高になることで営業利益が9億円のマイナス、ユーロが1円円高になることで、同4億円のマイナスになるとしており、円高問題が深刻化している。
一方、現在の円高状況は欧米の経済状況から察すると「円高というよりドル安・ユーロ安、消極的な円高」という見方が強い。一説によると、欧米が金融を安定化させるために円を買うパターンが多いということである。
また、米国の輸出企業はドル安になった方が利益が出るので、当然ドル安状態が有利になる。しかも米国内は依然として経済面、消費面での回復が遅れており、こうしたことからますますドル安に振れるという見方が強く、ドル安=円高傾向が当面続くと予想されている。
日本は依然として輸出主体のメーカーが多く、これ以上の円高は、企業の死活問題になってくるだろう。日本政府の積極的な対応策を期待したいところだが、未だに具体的な解決策が出されていないのが実情である。
ところが、この円高傾向を逆に味方に付け、米国企業のM&Aに踏み切るメーカーも増えている。
先日、日本電産が米国の産業コングロマリット、エマソン・エレクトリック(Emerson
Electric、本社ミズーリ州セントルイス)から、家電や産業機器のモーター部門を買収すると発表した。買収額は非公開だが、買収資金は現預金で手当てし、今年9月末までに買収を完了するという。
同社が買収するエマソンの産業用・空調用・家電用モーター事業は、米国・メキシコ・英国・中国に工場や研究開発・販売拠点を有しており、6000人の従業員体制で、09年9月期の同事業の売上高は8億3600万ドル(約710億円)に達している。
同社では家電に加え、産業用の大型モーターを持つエマソンのモーター部門を買収することで、グローバル展開を加速させるとしており、今後大いに飛躍することが予想される。
円高問題が長引けば、このように海外企業をM&Aする企業が増えることも予想され、制御機器業界でも長引く円高を逆手に取り、グローバル展開を推進する企業が出てくるかもしれない。