ITバブル崩壊、リーマンショックと、ここ10年で2回の大きな景気落ち込みの波を受けたサーボモータ市場は、昨年6月頃を底に回復に転じた。半導体・液晶などのFPD製造装置を先導役にして、建設機械、電子部品実装装置、工作機械と徐々に回復の波に乗り始め、09年2~3月頃の前年同期比70~80%の大幅減少から脱しつつある。
経済産業省の機械統計によると、サーボモータの生産は07年で数量が329万6600台(対前年比7・7%減)、金額が1828億円(同1・3%減)、08年は台数が355万台(同7・7%増)、金額が1739億円(同4・8%減)となっている。09年も8月頃まで、まだ低迷していたことから9月以降回復傾向になったものの、通年では数量が146万台(59・1%減)、金額が697億円(60・0%減)と大幅なマイナスとなっている。
日本電機工業会(JEMA)がまとめている09年度(09年4月~10年3月)の生産実績も、前年度比32・9%減の934億円と大幅な減少となった。10年度は、同48・8%増の1390億円と、大幅な増加を見込み、1000億円台の回復を見込んでいる。
JEMAでは、今年4月から重電機器の受注品と産業用汎用電気機器の出荷を毎月独自にまとめて公表している。
それによると10年4~6月のサーボモータ・アンプの出荷実績は、前年同期比432・5%の403億5200万円となっている。仮にこのペースが今後も維持されると、10年度の出荷は1600億円を超え、09年より約1000億円増えることになる。PLCやインバータなど他の産業用汎用電気機器が同160~180%ぐらいであるのに対し、サーボモータは突出して増加している。ある意味でそれだけ落ち込みも大きかったとも言えるが、回復に繋がる市場に急ピッチで戻っていることを裏づけている。
実際にサーボモータ各社の生産状況を聞くと、金額的には過去のピークを超えているところはまだないが、数量的には過去最高ペースとなって、今年度は確実に超えると見ているところが出てきている。パワー半導体やコネクター、電源などの電子部品や、メカ部品でも生産が間の合わないものも出るなど、今回の需要増加が予想外であったことがわかる。このような需要増加に対して、部品メーカーはリーマンショック時の在庫整理に苦慮した経験から、パワー半導体など一部の部品を除いて、増産投資に対しては慎重になっている。なるべく現有の設備と、人員で対応しようとする姿勢が強い。
またサーボモータメーカーも、円高傾向が続いていることや需要の中心が外需であることから、国内での増産投資には慎重で中国など産地に繋がる地域での投資を重視する姿勢が強い。
現在のサーボモータ需要を支えている需要先のひとつである半導体・液晶製造装置も、販売先は中国や韓国、台湾が多く、日本国内での販売は少ない。
工作機械も同様で、中国市場向けに日系企業や中国ローカルの工作機械メーカーへの販売になっている。工作機械の生産は、09年に中国が日本、ドイツを抜いて世界一になった。中国の工作機械は性能的には日本、ドイツなどの製品に比べると劣るものの、そこそこの性能が発揮できて、価格が安ければそれで十分だというニーズも多く、販売を伸ばしている。こうした中国ローカルの機械メーカー向けのサーボモータについてもやはり、機能は落としてもローコストなものを求めており、サーボ各社はこれに応えるような対応が必要になっている。
現地生産と現地での資材調達で、為替リスクと生産コスト低減を図ろうとする動きは、今後さらに強まるのは確実な情勢だ。電子部品実装装置、建設機械なども同様に中国を中心としたアジア市場が牽引役となっている。
これに対して、ロボットやエレベータは回復が鈍い。ロボットは自動車の設備投資がまだ本格回復しておらず、エレベータも日本国内や中国を除く他の地域でビル建設などが伸びていないのが大きく響いている。日本市場もエコカーやエコポイント減税施策による消費刺激策で、家電製品やハイブリッドカーが好調を持続し、電気自動車関連、電池製造関連、新エネルギー関連など、環境・省エネをキーワードにサーボモータの需要増が続いている。また、市場規模は小さいものの、食品製造、包装関連も安定した需要を継続している。
サーボモータの用途は、工場の外でも年々拡大している。駅ホームの安全ドア開閉や自動改札機、ETCのゲート開閉、介護用ベッド、乗り物用シミュレータ、回転鮨のベルトコンベア制御など身近な日常生活のなかにも採用が進んでいる。ロボット向けも、産業用に加え、警備や案内、掃除などサービス用途向けでの用途拡大も期待されている。
近年の機械は著しく小型・軽量化が進んでいるが、このことで省スペース、省資源、設置・搬送などでの利点が生まれる。機械の小型・軽量化の点から言えば、トルクの伝達・変換などの構造を排除して、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するようにすれば、機構が単純になってコンパクトな機械にできる。故障の発生や外的からのトラブルの要因も減らすことにつながり、コストや省資源という点からもメリットが大きい。
近年のサーボ技術は高速化、高性能化、高機能化、小型・軽量化、操作性の向上などが著しく進んでいる。高速化では、速度周波数応答2・0kHz、20ビットロータリーエンコーダーの標準搭載で100万パルス/revを超える高分解能を有しており、位置決め整定時間を大幅に短縮して、高精度な位置決めや微細加工を実現している。整定時間を短縮することは、業務の効率化に繋がり、機械・システムの生産性が向上する。
また、「サーボモータはうまく調整しないと機能を活かせない」というユーザーからの意見に応え、サーボを繋げば誰でも簡単にすぐ使える操作性を実現するために、セット時間を短縮できる簡単なパラメーターの設定と、オートチューニング機能を組み合わせることで、サーボ調整の手間と時間を大幅に短縮できるようになった。これで、職人技といわれる調整で、その機械・システムに合った最高の性能を引き出すことが可能になる。
低剛性への対応もポイントで、特に高速応答の必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどが重要視されている。一般的に低剛性の機械にサーボモータを搭載する場合、ゲインチューニングが困難だが、モータを搭載する機械の剛性にかかわらず、精度の高い自動ゲインチューニングが可能となる。こうしたニーズでは、機械を振動しないようにしてサーボモータを動作させる技術が求められるだけに、各社とも独自のノウハウで振動を抑える制振制御技術を展開している。昨今は熟練労働者の退職などで、ベテランの持っている技能伝承が難しくなっているが、サーボモータの操作技術も、こうしたチューニング技術の向上によりかなりの部分がカバーされようとしている。
昨今サーボモータも、環境問題を背景に省エネ・高効率化が重要視されつつある。例えば、アクチュエータを空気圧や油圧から置き換えて電動化する傾向が強まっている。油圧シリンダなどのアクチュエータは、形状が大きく油を使うことで、クリーンな使用周囲環境の確保という点に加え、消防法上でも制限がある。自動車車体のプレス加工の場合、均一かつ強力な圧力を加える必要があるが、油圧に比べ、サーボモータを使った電動プレスは、同期したツイン制御によって上下から静かにプレスすることが可能になる。自動車の車体は、燃費向上と材料費削減のため軽量化に取り組んでいる。材質の薄型はこの一環であるが、電動プレスはこの点からも置き換えが進んでいる。同様に射出成型機でも電動化への置き換えが見られる。プレスや射出成型機に使うサーボモータは大型タイプが多いことで価格も高く、サーボモータメーカーにとって利幅も大きい。