「いらっしゃい」。ノック音と一緒に、明るい爽やかな声がドアから入ってきた。記者はとっさに「ご無沙汰しております」と返答し、初対面の方に対する無礼さに気付いたが、今期から高木商会の新社長を務める中山広幸氏は意に介さず、こちらへと別の応接室に案内された。
対座するや否や「会は開かれているのですか。私も参加したいですね」「あの方とは古い付き合いですよ」。業界の方々の名前をあげながら、よどみなく話は進行する。いつの間にかぐんぐん引き込まれるが、会っていて愉快さを覚える。
営業畑を歩んで、鍛え上げた気遣いと度量の雰囲気を備えている。
趣味に舟釣とマウンテンバイクをあげられ、四季節を通して出かけるそうだが、つぼを押さえる瞬時の判断と行動力、大胆さを合わせ持つ資質を垣間見た気がする。
FA制御流通業界は、日本の経済環境そのもので集約化の方向にあると見極め、これまで培ってきた独立独歩の精神を堅持しつつ会社の目指す方向と新組織体制を社長就任と同時に打ち出した。新ビジョン「人と機械/装置を結ぶインターフェース機器で産業エレクトロニクスの発展に寄与し、社会に貢献する」を掲げ、新たに制御コンポーネンツ部、ITソリューション部、電子コンポーネンツ部を設置、20人を配置した。
営業戦略は「環境、エネルギー、社会インフラ、医療機器分野など成長産業の市場」を開拓する。営業スタイルも、それまでの「提案営業」から「課題解決営業」へ変え、加えて「お客様の購買に絡む全てを代行できることを付加価値として提案」していく。23営業拠点と110人の営業社員が行動を開始し、すでに実効が出てきている。
今期売り上げ計画を、168億円に上方修正した。2012年度には現有商品で189億円を計画しているが、新規商材で上乗せを図る。
中山社長は、グローバル化に対しても明確な考えを持つ。「150億とか160億円程度のビジネスはまだまだある。国内市場を最優先に考えている。しかし、部品調達は日本メーカーにこだわる必要がなくなりつつある」と語り、視点を国内において調達の面からグローバル化に対応する。
「この5年で海外メーカー40社、取扱高が14%に増えた。これを20~25%にしたい」という。「販売拠点として中国とか海外も視野に入れている」と準備は怠らない。
新ビジョンを打ち出し出帆した中山社長は「TVの連続ドラマが終わる前に原作を読み、自分で描いたストーリーを検証して楽しむ」一面を持っている。
5年、10年後を見据えた新経営計画と実際の歩みが符合する経営手腕の発揮を見守りたい。
神奈川県出身。48歳。04年4月常務取締役、04年4月専務取締役、10年4月取締役副社長、同年6月代表取締役社長。趣味は読書、舟釣、マウンテンバイク、ゴルフ。