2010年モノづくり白書「主要製造業の課題と展望」⑮航空機産業次世代環境航空機の拠点構築

1、現状

航空機産業は、今後20年間で民間機市場において約300兆円規模の需要が見込まれている成長産業であると同時に、その発展は部品・材料産業の高度化を通じて我が国製造業全体の高度化をもたらすなど、我が国の戦略産業の一つである。また、航空機は重要な防衛装備の一つであることから、航空機産業は我が国安全保障基盤の一翼を担っている。

我が国においては、戦後7年間の空白期間を経て航空機産業の活動が再開され、以来半世紀余りが経過した。この間、我が国航空機産業は、先進諸外国へのキャッチアップに努めた時代に始まり、国産旅客機開発に挑戦した時代を経て、1980年代以降は国際共同開発に参画する時代へと着実に発展してきており、生産額が1兆2000億円規模まで拡大している。また、初の国産ジェット旅客機の開発も行われている。防衛予算が伸び悩む中、航空機産業の成長は民間部門がけん引しており、民需比率は現在では50%を上回る水準にまで拡大してきている。

90年代以降、世界の航空機産業の大幅な事業再編の結果、100席クラス以上の中大型機市場はボーイングとエアバスの2社、100席以下の小型機市場はカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルなどによる寡占市場となったが、近年、我が国のほか、中国・ロシア等が新規に参入する動きが見られる。また、航空機エンジン市場は、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)、P&W(プラット・アンド・ホイットニー)、英国のRR(ロールス・ロイス)などによる寡占市場となっている。

2、我が国産業の強みと弱み

(1)強み

我が国はこれまで、中大型機の国際共同開発でシェアを拡大してきた。B787では機体構造の35%に参画、エンジン部門でも国際共同開発においてモジュール単位で分担を行っており、高品質を要求される部位を日本に発注するパターンが定着してきている。部品・素材では、炭素繊維複合材関連等で競争力を有し、米・欧とも、競争力のある機体を開発するために日本の技術力に期待している。

(2)弱み

航空機分野は中長期的には成長が見込まれ、将来にわたり一定以上の需要があるため、短期的には大きな危機に直面する可能性は低いが、他方で、「部品供給・モジュール分担」にとどまる限り、飛躍的な成長は困難であり、採用する技術や部品、サプライチェーンに関する判断も自律的に行えない。また、マーケティングやプロダクト・サポート、巨額の開発資金・長期の投資回収期間に対応したファイナンス・スキームなどの面においても海外メーカーと比べると十分な経験を有しているとは言えない。

3、世界市場の展望

航空需要は世界同時不況の影響により一時的に減少しているが、世界全体の航空旅客数の伸び率は、中長期的には年平均5%程度という予測がされており、航空機市場は着実に拡大すると見込まれる。中大型機では、20年代前半にもベストセラー機のB737やA320の後継機の市場投入が予想されており、我が国が参画する観点からは最大の「市場」であるが、後発国も生産分担の獲得競争に参画してきており、競争が激化している。

リージョナル機は、航空機のダウンサイジング化もあって急速な市場の拡大が予想されている。リージョナル機の市場は、従来カナダとブラジルの寡占市場となっていたが、日本・中国・ロシアが参入を目指しており競争が激化している。エンジン分野においては、大幅な燃費改善を実現する次世代エンジンの開発が見込まれており、欧米の主要メーカーを中心に、各国との連携による開発・生産が模索されている。

4、我が国産業の展望と課題

新興国を含め、各国とも戦略産業として航空機産業を育成している中、我が国は、次世代環境航空機の世界的拠点として航空機産業を高付加価値化することが必要である。即ち、単なる「部品・モジュールの分担」から脱皮し、(1)国産旅客機事業の成功を通じて、取りまとめ企業としての実績をつくり、実績・経験を更なるシェア拡大に結びつけること(2)コストを武器に新興国が追い上げる中、クリティカルな技術を握り、モジュール単位で供給すること(3)単発の部品や技術ではなく、「環境」「技術」「素材」を基点にしたソリューション提供型の戦略を構築すること、などが必要になっている。

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