オムロンは、MEMS技術を用いた高感度の非接触温度センサ素子を開発した。この高感度化したセンサ素子をアレイ化することで、広い空間でも人のセンシングが可能なMEMS非接触温度センサが実現できる。
非接触温度センサは照明環境に強く、静止している人をセンシングするというように、カメラや焦電センサにはない特徴を持つ。しかし感度が低いため、センシングエリアを狭める必要がある。さらに、広い空間をセンシングするには、非接触温度センサ自体を動かす機構や、センサが複数個必要なことから一般には普及していない。
一般的に温度検知原理は、人や温度を有する物体から放射される赤外線を、赤外線吸収膜で吸収させると熱に変換され、発生した熱により温度差が発生する。一方、2種類の異なる導体の両端を接合し、両接合部に異なる温度を与えると起電力が発生するゼーベック効果により、電子回路で利用可能な電圧の変化として表れ、温度を検知する。
今回、同社が開発したセンサ素子は、赤外線を効率良くセンシングする技術としてマイクロミラー構造を採用した。従来の一般的な構造では赤外線の透過により、赤外線吸収膜で十分に赤外線を吸収できないため、小型化するとさらに感度が低下した。
同社では、液晶用バックライトの開発で培ってきた光波制御技術により、赤外線を赤外線吸収膜に集光させるマイクロミラーを開発、高感度化することに成功した。さらに今回、NEDOの「FineMEMSプロジェクト」の中で、東京大学下山研究室との共同研究により、従来困難であったシリコンウエハ上に自由曲面を作製することに成功したもの。
また、ウエハレベル真空接合により熱絶縁構造とすることで、従来比7倍の高感度化を実現した。マイクロミラーをシリコンウエハ上に形成することで、センサ素子とミラーをウエハレベルで真空接合、空気への熱の逃げを減少させ感度を向上させた。これにより、従来の応答速度を維持したまま感度を7倍に向上するとともに、センシングエリアも7倍に広げることが可能となった。
具体的な応用展開では、店舗や駅構内など、人の混雑状況をリアルタイムにセンシングすることで空調制御などへの活用や、夜間の人の侵入センシングなど防犯対策への活用が可能となる。
同社では今後、MEMS非接触温度センサの製品化を推進し、センサネットワークへの接続など、より安心・安全、快適に配慮した環境づくりを提案していく方針である。
なお、同社が開発したセンサ素子は、サイズ150μミリ角で、センサ素子を16×16にアレイ化した場合のチップサイズは6ミリ角と、業界最小クラスである。感度は350V/W、応答速度は約3ミリsで、10月5日から9日まで、幕張メッセで開催された「CEATEC
ジャパン2010」で紹介され、来場者の関心を呼んだ。