温度調節器(計)市場が依然好調に伸長している。主要市場である半導体・液晶製造装置関連が急回復したことに加え、新規市場であるソーラーパネル関連も拡大を続けている。安定した市場である食品や成型関係も、拡大基調で推移している。部品不足から生産対応が遅れ気味であったが、ここに来てようやく解消に向かっている。製品的には、小型・薄型、高速処理化を基調に操作性や視認性の向上、取り付けや設定作業性の改良などが志向されている。中国などの海外メーカーも取り組みを強めており、今後も販売競争が続きそうだ。温度調節器(計)は、温度、湿度、圧力などの各種センサーから取り込んだ測定値を必要とする設定値と比較して、その差を修正するための調節信号を、リレーやアクチュエータなどへ出力し、対象物の温度や湿度を調節する役割を果たしている。
温度の調節はどんな製品でも必要であるが、昨今の電子機器は高密度な小型化が顕著であることから、成型品などでは微妙な調整が重要性を有している。特に、半導体やフラットパネルなどでは、歩留まり率に関係してくるだけに、高精度な温度調整を行っている。
食品などでも、味覚や品質管理上から温度調整を頻繁に行うことで、消費者の嗜好と食品の安全に応える取り組みを続けている。
現在の温度調節器(計)は、サーモスタットなどを使ったメカニカル式から、半導体技術を利用した電子式へ大きく変わっている。電子化によって温度精度が格段に向上することで、より緻密なものづくりが可能になった。半導体の搭載で価格面でも大きく下がり、需要裾野も拡大した。
市場規模は、汎用電子温度調節器(計)で約200億円、それにボード・ユニットタイプやPLCなどの組み込みモジュールタイプなどを合わせると250億円から300億円と推定される。リーマンショックの影響から温度調節器(計)各社は大幅に売り上げを落としていたが、昨年秋以降、上昇基調に転じており、再びピーク超えに挑戦している。半導体・液晶製造装置関連が回復したことで市場に活気が戻っており、食品、電子部品成型、コンビナートなど、従来から安定している分野も堅調に推移して市場を底支えしている。
ただ、温度調節器(計)のユーザーの多くは中国を始めとした外需向けが全体売り上げを牽引しており、このところの急ピッチな円高傾向もあって、温度調節器(計)などの電子機器・部品も現地調達志向を強めつつある。
特に、中国や韓国ではローカルの温度調節器(計)メーカーが価格の安さをセールスポイントにして、一定のシェアを確保するなど力をつけつつある。まだ機能的には日本メーカーなどと比べると差があるものの、早晩機能アップしてくることは確実で、今後販売競争がさらに強まってくることが予想される。
最近の温度調節器(計)製品傾向は、軽薄短小化、高速・高機能化、視認性や操作性の向上、ネットワーク化対応、入力種別のマルチ化などが進んでいる。
外形寸法は、DINサイズの96ミリ角から48ミリ×24ミリまで各種あるが、搭載機器・装置の小型化傾向に合わせ小型・薄型化傾向が強まっており、特に薄型(短胴)化が著しい。従来は奥行き100ミリ前後が多かったが、最近は60ミリを切る製品も増えており、機器の省スペース化に繋がっている。
視認性では、遠くからでも確認できるように数字表示部の大型化傾向が目立つ。表示素子はLED表示が多いが、LCDとバックライトを組み合わせた表示も増えている。LEDと同等の見易さに加え、グラフやメッセージなどの表示もできるのが評価されている。フルドットのLCD表示器を搭載することで、11セグメントのアルファベット表示機能、制御設定値やパラメータ設定、出力値アナログバーをはじめ偏差値トレンド記録表示、偏差アナログバー表示などが可能になる。視認性の高いLCDにより、5桁3段の表示も可能で、表示の情報量が増大するメリットがある。
表示色も赤、緑、黄などカラフルになっており、状況判断をしやすくしている。この表示色を変化させることで、安全性向上を図っているタイプもある。例えば、警報動作や制御の状態に応じて測定値表示部の色を緑色や赤色に自動で切り替える。色の変化は緑から赤、または赤から緑を選択できるもので、制御の状態が一目でわかる。
各社独自のアルゴリズム
で制御技術をアピール
高速処理化は、各メーカーとも特徴を出した独自のアルゴリズムで制御技術をアピールしている。
例えば「RSS(ランプ・ソーク・スタビライザー)機能」では、ランプ制御開始時の追従性向上とソーク制御移行時のオーバーシュート抑制を同時に行うことで、プログラムの制御性を一段と向上させている。
また、植物のザゼンソウを有するフィードバック形発熱制御の特性などを応用して、省エネ化などに繋がる制御アルゴリズムも開発されている。
操作性ではダイレクト操作が可能なキーの搭載や、サポートソフトウェアの充実を図り、保守性の簡単化では長寿命のリレー出力により、メンテナンスサイクルの長期化や、予防保全をサポートする制御出力のON/OFF回数のカウント機能などを備えている。
選定の簡単化では、アプリケーションの違いで入力センサーが異なる場合でも対応が容易なマルチ入力機能や、各国の船舶規格に対応するなどグローバルなサポートサービス体制の強化などが挙げられる。
製造現場の熱処理工程は、工業炉をはじめ、多様な分野での高度な温度制御が製品の品質を高める重要な要素と位置付けられ、温度調節器や周辺機器の用途拡大につながっている。半導体やFPDの製造工程では、ステッパー、コータ・デベロッパーの高安定温度制御、チャンバーの高応答温度制御、ワイヤボンダーの温度制御、FPD焼成炉の多点温度制御、ウェットステーション薬液の温度・レベル管理、拡散炉の温度制御などに温度調節器が使用されている。
例えば、半導体の微細化進展の中で、温度計測精度の向上など温度制御に対する高性能な温度調節器の役割が求められ、製品の歩留まりを大きく左右している。
さらに、シリコンウエハの熱処理が可能な拡散炉は、多数枚のウエハを処理容器内に収納し、ヒータで加熱して1000℃前後の熱処理をする。しかも炉内の温度分布を均一にする必要から複数のゾーンに分けて、面としての温度制御が必要だ。
ステッパー、コータ・デベロッパーには、1000分の1℃の分解能を持ち、電源電圧のわずかな変動にも対応する温度調節器が使用されている。
これらのハイテク分野の製造工程だけでなく、恒温恒湿の状態を保つための温度制御は、産業界で品質を向上させながら生産性を高めるものづくりに欠かせなくなってきている。
包装機械も、原料に対するヒータによる加熱温度の調節・管理が重要だ。ファジィ制御とPID制御で温度を安定させるため、デジタル入力によりオートチューニングの開始・停止指令を行っているほか、ヒータ断線警報、温度警報機能が付いており高品位な成形が可能となる。
こうした直接的に機械制御で温度調節器(計)が活用されるほかに、温度調節をすることで間接的に装置の稼働を支えた使い方もある。例えば、設備・装置の配管などを加熱することで生成物の付着を防ぐアプリケーションでは、配管の周りに一定間隔で温度調節器(計)を設置して、ヒータの熱を制御している。生成物の発生を防止することで、清掃やメンテナンスなどの回数を減らすことができるメリットが生まれる。
近年は、地球温暖化対策から省エネ化対策が顕著であるが、温度調節の分野でも求められている。
工業炉や食品機械などでは、予熱管理や待機電力などが生じるが、この効率化が出来るかどうかで大きなエネルギー低減効果に繋がる。これの実現へ、通信機能の搭載も一般化してきた。イーサネットやModbusに対応し、PLCやコントローラなどの装置間のネットワーク化を図っている。
温度管理を装置ごとに連携して制御することで、装置ごとに最適なタイミングで温度調節が可能になり、余分な電力消費などが防げる。ここでは、イーサネットなどのネットワーク通信を駆使した制御が大きな役割を果たす。イーサネットに接続できない機種でも、ゲートウェイ機能を内蔵し容易にネットワークを構築できるタイプもある。
さらに赤外線通信で簡単にセットアップでき、各種パラメータの読み書き、CAV形式でファイル保存などの便利さが増している。光通信機種も発売されている。一方、高度な温度制御要求に対応するため、目標温度変更時の時間短縮、外乱発生時の整定時間の短縮、安定性の向上、目標温度への追従性向上、立体の温度の均一性向上などが図られている。機能の向上と同時に操作がし易く使い勝手の良さが追求され、汎用標準品のほか、ボードタイプ、モジュールタイプ、特殊仕様品など製品幅が広がっている。特にモジュールタイプは、視認性が高くオペレーターのミスを防ぐほか、集中管理がしやすい特徴を持つ。警報、偏差値、測定値に連動したり、表示色を固定することで、到達信号の判別に利用したりといった多様な使い方が可能になる。
また、温度の記録・監視機能を一体化した機種もある。温度の履歴が、容易に監視できる利点がある。
メモリーカードタイプは、製品ごとの温度管理を統一でき、工場や機械、製造日が異なっても常に共通の温度管理での運用が可能になる。
温調ボード、シーケンス制御とプロセス制御を組み合わせたシステムボードなども開発されている。温度調節器(計)のパラメータ設定や管理などを、パソコンで行うことも一般化している。
温度調節器(計)のパネル前面は、PV(測定値)表示部、SV(目標設定値)表示部、LCD表示部(SVNo〓出力・チャンネル・各種設定パラメータなど)、ステータスランプ表示部(制御動作非実行・勾配制御実行・手動調整実行・リモートSV実行・イベント出力・外部制御出力・外部SV切り替え設定・通信モード・オートチューニング実行・調節出力モニターなど)、キースイッチ(画面変換・変更設定パラメータの選択・数値の増減・数値データの登録・手動調節モード切り替えなど)、赤外線通信部があり、高度な制御設定を容易にしている。
制御演算にはPID(比例・微分・積分)設定で制御性を向上させているが、ファジィ推論、ニュートラルネットによってPIDをベースにより理想に近い温度制御を可能にしている。また、繰り返し運転で制御対象をより深く把握し制御の緻密化を高めている。
熱電対や測温抵抗体などのセンサーからのマルチ入力による温度制御が増加しており、入力種別によるマルチ化が進んでいる。直流電圧、直流電流にも対応できるようになっており、湿度や圧力のアナログ量の制御を始め、タイマー動作、ヒータ断線検知・警報、操作端短絡検知・警報機能、さらに多点制御、カスケード制御、比例制御が可能になり市場拡大につながっている。
温度管理はセンサーで計測し、調節器で制御演算し、アクチュエータで出力する制御系のループ。そのため温度管理でも「計測」「制御」「監視」は三位一体で構成されており、最適な機種選定が必要である。
このところ温度調節器(計)メーカー各社は、高品質な温度制御を、顧客別に実現するソリューション提案型営業を強化している。
温度調節器(計)だけでなく、熱電対・白金測温抵抗体・温湿度センサーなどの入力機器、ソリッドリレー・電力調整器・サイクルコントローラの出力機器、ソフトウェア・各種警報器などの周辺機器もそろえながら、用途に最適な温度制御を提供している。また、汎用タイプでありながら、高機能な温調ニーズに応えるため、アナログ入力タイプや3相ヒータ断熱検出機能などを搭載し、圧力、流量、レベル、湿度、重量など、温度以外の制御にも使用できるタイプも伸長している。このほか、配線作業の効率化を図るため、欧州タイプの圧着端子レス端子台を搭載するメーカーも増えている。
温度調節器(計)市場は、今後ますますグローバル化が進むものと思われ、これをサポートする体制も重要になってくる。各社ともWEBの充実や販売代理店の拡充などでサポート面の充実に取り組んでおり、製品の機能に加え、こうした総合的な取り組み力で新たな展開を目指している。