1、現状
宇宙開発は、草創期には国威発揚の手段として実施されてきたが、今日では衛星放送・通信、位置情報、資源探査、災害監視、地球観測等に見られるように、多様な社会ニーズに応える基盤となっている。また、宇宙空間は強い放射線、真空状態、急激かつ大規模な温度変化、打上げ時の騒音・衝撃、修理ができないなど極めて過酷な環境にあるため、宇宙開発には高度な技術水準と高い信頼性が求められる。さらに、部品点数も極めて多く、すり合わせが必要となる。主要国は、宇宙産業がこのように高い波及効果を持ち、経済発展の基盤となる高付加価値産業である点、安全保障に密接に関連する点に着目し、重要な戦略産業に位置付けている。
諸外国の宇宙機器産業の売上高を概観すると、米国が膨大な官需を背景に約3・8兆円(2007年度)と圧倒的な規模を有している。また、戦略的な産業政策を打ってきた欧州は、特に商業分野で地位を確立し、約8700億円(07年度)の売上規模を上げている。ロシアは、弾道ミサイルをロケットに転用し、西側諸国との合弁による打上げサービスにより商業市場で地位を確立した。
今後、有人宇宙飛行を成功させて勢いに乗る中国、すでに予算規模では約1000億円近いインドの商業市場への本格参入が予想される。
他方、我が国は、宇宙機器の国内民需の受注減少や輸出の低調が影響し、売上高は米国の約20分の1、欧州の約4分の1の2264億円(07年度。07年平均為替レート〓1米ドル=117・60円、1ユーロ=1・3797米ドルで換算)にとどまっている。
2、我が国産業の強みと弱み
我が国の宇宙機器産業は、一部の技術・部品において国際競争力を有している。その例としては、トランスポンダ(通信用中継機器)、リチウムイオン電池や太陽電池パドル(電源系)、姿勢を検知する静止衛星用地球センサ、衛星搭載スラスタ・アポジエンジン(姿勢・軌道制御系)等が挙げられる。また、衛星構体に使用される炭素繊維材料など、高度な材料・加工技術についても比較優位を持つ。また、H―IIAロケットでは、液体水素、液体酸素を燃料とする世界最先端のエンジンの実用化に成功している。
一方、最大の問題は、国内外を通じた実績が極めて少ない点にある。我が国は、欧米と比較して軍需を含めた国内政府需要が少ないこと、宇宙産業の黎明期に日米衛星調達合意により公開調達において国内企業が受注できない状態が長く続いたことなどから、十分な実績を積むことができなかった。それに加え、国家戦略がなく、研究開発と産業振興の連携が十分図られてこなかったこと、利用ニーズの視点を踏まえた研究開発が不十分だったこと、海外需要を獲得するための政策支援や外交努力が十分に行われなかったことから、我が国の宇宙機器産業の国際競争力が不十分となった。
3、世界市場の展望
08年度、衛星を利用した通信・放送等、宇宙利用サービス産業を加えた世界の宇宙産業の市場規模は1500億ドルであり、今後もこの成長傾向は変わらないものと予想されている。衛星の利用においては、新興国にも拡大しており、もはや先進国だけが持つ高級品ではなくなり、アジア、アフリカ等においても国家戦略として衛星を保有する動きが加速している(世界の地球観測衛星打上げ予測〓128機(99―08)、260機(09―18))。また、衛星の利用分野においても、従来の通信・放送だけではなく、温室効果ガスの測定、災害監視等の地球観測データの利用が世界的に拡大傾向を見せている。特に、高分解能(概ね1平方メートル未満)の地球観測画像は、商業取引が進んでおり、商用衛星画像市場は10年後に4倍になると見込まれる。他方、宇宙利用に関する我が国の市場は、世界でも屈指の規模である。既に、サービスを利用するユーザー産業を加えた広い裾野を形成するピラミッド型の市場を考えると、総額約6・9兆円の規模を有しているところであり、今後もサービス関連分野における市場の一層の拡大が期待されている。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
我が国宇宙機器産業は、衛星、ロケットなどの高い開発技術を保有するものの、まだ産業競争力に十分には結びついていない。今後は、更に「売れる」技術や実利用につながる衛星情報システムの開発、宇宙システムとしてのパッケージ輸出やトップセールス等、外交努力を通じた積極的な海外需要の獲得が重要。
衛星では、利用者の求める「低コスト・短納期・高性能・高信頼」を実現する手段として、小型衛星に対する需要が高まってきており、特に新興国の調達する衛星の大半は小型衛星となっている。このため、経済産業省では、小型衛星の開発を推進していく。その際、衛星のシリーズ化や設計の標準化、部品の共通化により、低コスト化や信頼性の向上を進めるとともに、日本の得意分野である小型化技術や民生電子部品を活用する。
近年は、画像取得頻度の向上や関心地域の重点観測のため、世界的に小型衛星を複数機連携させて利用する事例が増加しており、将来の国際競争力獲得のためには、日本も複数連携システムの確立に取り組む必要がある。こうした宇宙システムは、衛星、ロケット、地上局、データ利用から成り立っており、システム全体としての競争力を高めることが必要とされる。
利用面では、衛星を活用したリモートセンシング市場の成長が有望視されている。地表面の物質を詳細に特定できるスペクトル分解能を高めた光学センサ、夜間・天候の影響を受けにくく地表面や大気などを観測可能なレーダセンサ、地上の物体を精密に特定可能なセンサと解析技術は、宇宙の商業化にとって非常に重要なポイントとなる。また、今後、宇宙システムの利用を抜本的に拡大するために、川下の宇宙利用・ユーザー産業のニーズを視野に入れて、衛星の開発・運用、データ利用システムの開発等を実施する必要がある。
(2)グローバル戦略
09年度は、我が国企業の宇宙分野での商業受注の成功が相次いだ。気象庁が行った国際入札にて、三菱電機が気象庁から「静止地球環境観測衛星(ひまわり8号及び9号)」製造を受注し、三菱重工が、韓国から、H―IIAロケットでの衛星の打上げを受注した。また、三菱電機は、宇宙ステーション補給機(HTV)に搭載された近傍接近システムについて、米国の宇宙貨物輸送機「シグナス」への搭載を受注した。
激しさを増す国際競争の中、我が国が実績をあげていくためには、官民を挙げて、世界的な産業化・商業化の現実を正確に理解し、その上で国の研究開発を進めるとともに、民間は国際ビジネスの経験値を引き続き高めていくことが必要である。1、現状
情報通信機器産業は、テレビ、携帯電話、コンピュータ、複写機、電子部品、半導体など幅広い分野にわたっており、我が国を代表する産業の1つである。この産業は主に、家電、コンピュータ、携帯電話などの製品から半導体などの部品・デバイスを幅広く生産する総合電機メーカーと、得意分野に特化した専業メーカーによって構成される。
2008年度は景気の低迷を受け、多くの企業で業績が悪化した結果、不採算分野の事業の見直しを図る動きが見られた。09年度前半は前年から続く、金融危機の影響を強く受け、生産額も大幅に落ち込んだが、後半には各国の危機対策により回復基調をみせている。
日本の情報通信機器産業は、グローバル化する世界の中でも依然として大きな位置を占めているものの、原材料価格の高騰や世界同時不況、急激な円高の影響を強く受けた。また、携帯電話など日系企業が得意とする高機能・高付加価値製品は、機能を絞った低価格製品を打ち出すアジア企業に押され、海外シェアを落とした。
製品別に見れば、08年度は世界的な景気後退の影響で、あらゆる製品の需要が急減した。新販売方式導入による影響もあり、携帯電話や世界需要の高い半導体、電子部品のマイナスが顕著であった。
2、我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国情報通信機器産業は、省エネルギー技術の開発に真剣に取り組み、各製品のエネルギー効率を大幅に高めることに成功している。地球温暖化問題が世界的にクローズアップされる中で、こうした我が国が誇る環境配慮型製品へのニーズは一層高まり、これにより、我が国情報通信機器産業の国際競争力強化が期待される。
また、我が国は、世界的に市場が成長を続けるAV機器やディスプレイデバイスなど、高機能・高付加価値・高精細・省エネといった特徴をもった製品において競争力を有している。
(2)弱み
近年、アジア諸国メーカーは、「選択と集中」を実践し、大規模な投資判断を迅速に行い、世界市場でシェアを伸ばしている。
我が国情報通信機器関連企業も大胆な「選択と集中」や戦略的な事業提携が活発になってきたが、依然として多くのセグメントに経営資源を分散し、低迷する企業も存在する。
3、世界市場の展望
世界的なデジタル化・ネットワーク化の進展により、デジタル家電の世界需要は引き続き拡大することが期待される。特に、フラットパネルテレビは、世界的な需要拡大により、急速に普及することが期待される。
4、我が国産業の展望と課題
今後の競争力強化に向けた対応
情報爆発によるIT・エレクトロニクス機器による消費電力の急増は、今後、重大な問題となる可能性が指摘されている。革新的な省エネルギー技術の開発を通じ、我が国のIT・エレクトロニクス製品の競争力強化を進める必要がある。我が国情報通信機器産業では、リサイクル制度の確立など、環境に配慮した企業活動が行われている。エコポイント制度による省エネ製品の普及促進策やCO2の見える化等、企業による環境貢献を適切に評価する手法を確立することで、企業価値の向上を実現していくことが必要である。
企業の経営戦略としては、得意分野に経営資源を一層集中していくことが肝要であり、今後世界市場において成長の見込まれる製品に対する大胆な設備投資を支援する施策もますます重要となってくる。1、現状 半導体は、コンピュータ、情報家電などのエレクトロニクス製品の付加価値(性能、機能等)を決定づける重要部品であるとともに、自動車電装品、産業機械、医療機器等の幅広い製品に使用され、半導体の性能やコストがそれらの製品の競争力に直結している。今後も、最終製品の競争力の源泉を持つ基幹部品としての半導体産業の重要性はますます高まっていく。我が国半導体産業は、2008年のリーマンショックに端を発した全世界的な景気減速の影響により、厳しい状況に陥った。特に、DRAM、フラッシュメモリなどのメモリー事業は供給過剰による価格の急激な下落により、独ではキマンダが破たんするなど大きな影響を受けた。ただし、民間調査会社各社によると、09年はマイナス成長であるが、10年からは回復基調に戻り、成長を継続するものと予想されている。 一方、システムLSI事業は、製品の企画・設計力がその競争力を決定する大きな要因であり、海外では米国中心のファブレス(企画・設計特化型)企業と台湾中心のファンドリ(製造特化型)企業の分業体制が構築され、ファブレス企業に製品競争力が集中したことで、米国企業が強い競争力を有している。 2、我が国産業の強みと弱み (1)強み 我が国半導体産業は、最先端の製造開発能力があり、高品質の製品を提供していくことが可能である。先端技術を駆使したフラッシュ・DRAMなどのメモリー分野ではモバイル用途等高い技術力を求められる用途で一定のシェアを維持している。また、材料・装置技術などの強い国内周辺産業の存在により、半導体産業を支える優れたものづくりの基盤技術力がある。 (2)弱み システムLSI事業についてみると、我が国企業は各社とも多くの製品を手掛け、少量多品種生産となることから生産コストが割高となり、利益率が低い。また、成長しているアジア・太平洋市場における市場開拓は進んでおらず、シェアは低い。 海外企業は高い利益率からスケールメリットをいかした大規模投資が可能であり、それが開発力向上に結びつくという好循環を実現させている。 一方で、我が国企業は低収益により、投資体力が不足するという悪循環となっている。 また、外部リソースの積極的な活用(M&A戦略、グローバルな人材獲得など)も十分とはいえない状況にある。 3、世界市場の展望 世界の半導体市況は、リーマンショックによる大幅な市場縮小があったものの、コンピュータ・携帯電話等、半導体の需要産業が広がってきていることから、今後も引き続き伸びることが予測されている。各地域市場の動向としては、世界半導体統計(WSTS)のデータによると、半導体市場全体においては08年から11年まで2・8%の年成長率であり、特に中国を中心としたアジア・パシフィック地域の伸びが著しく、今後も更なる伸びが予想される。 4、我が国産業の展望と課題 (1)今後の競争力強化に向けた対応 我が国の半導体産業の競争力強化には、高い製品の企画・設計力が必要であり、デファクトとなる製品・プラットフォームとなる製品を提供していくことが必要である。このためには、製品ポートフォリオの選択と集中を高め、リソースの集中投資を行う必要がある。 また、半導体微細化技術の進展に伴って研究開発費と設備投資費のコストが急増している。我が国半導体産業においても、一部では企業間の連携が進められているが、更に加速化させる必要がある。また、メモリー事業においては、微細化を中心とした製造技術の高度化が必要である。 (2)東アジアを中心としたグローバル戦略 世界市場において競争力を高めていくためには、国内における過当競争構造から脱却し、海外マーケットの開拓、世界に通用するグローバルスタンダード製品の創出、マーケティング力・システム設計力の強化を進め、ボリューム市場であるアジアを攻略することが必要である。