世界的に環境問題への強い関心とCO2削減の機運が高まる中、工作機械・自動車・IT・公共交通などのあらゆる産業分野において、また、製造現場にとどまらず企業内の全ての活動において、エネルギー効率の向上は避けられない課題である。
省エネルギーについての取り組みを世界的に率先しているドイツでは、既に様々な企業が徹底的な環境問題への取り組みを進めている。ここでは、ドイツの産業における取り組みの事例を4分野について紹介する。独・J.G.Weisser
Shne社は、欧州を地盤に150年の歴史を持つ工作機械メーカーである。主に回転旋盤やマシニングセンタを中心とした製品を製造している。顧客からの要望は、加工精度やスピードなど加工そのものの性能はもちろん、初期コストの低減に加えて、ランニングコストの削減にまで及ぶ。
工作機械の制御装置の冷却が、ランニングコストの削減及び省エネルギー対策に重要な役割を果たすことを認識した同社は、リタールの「盤用グリーンクーラ」を採用した。この「盤用グリーンクーラ」は、従来品比で、最大45%の省エネルギー効果を実現する。空気の自然循環を活かした効率的なエアフローに加え、ファンなどの内部部品については、より省エネルギー効果の高い部品を用いて設計してあるためである。更に、凝縮器に施されたナノコーティングが、凝縮器表面への汚れの固着を防ぎ、冷却能力を保持する。また、フィルターレス運用により、フィルター交換が不要となり、ランニングコスト全般の削減を図ることができる。稼働環境に応じてサイズや冷却能力を選択でき、過酷な環境では、水冷式交換器を提供するなど、細やかな環境対応ができることも、全てにおいて高効率を追求する同社の選定理由となった。ドイツでは、自動車関連企業(自動車メーカー、部品メーカー、製造装置メーカー等)60社が共同で「イノベーションアライアンス」政策に参加している。これは、近年の原材料高騰や経済危機を鑑み、ドイツ自動車産業の競争力の保持を目的とした国家レベルの取り組みである。この中に自動車の生産工程でのエネルギー削減が課題のひとつとして挙げられ、2009年6月より3年間の計画で取り組みが開始された。
自動車生産工程は、「材料加工工程」「プレス工程」「車体組立工程」「塗装工程」「組立工程」の5つから成り立っている。特に「車体組立工程」は、組立や溶接、車体や部品の搬送などの大部分が自動化されており、その工程で使用されるエネルギーが自動車製造全体の3分の1を占める。また、この「車体組立工程」での発熱が、エンクロージャー内部の機器の寿命や装置の安定稼働に影響をもたらすため、熱対策も重要な課題である。
リタールは、「イノベーションアライアンス」に参画しており、優れた省エネルギー性能を持つクーリングユニットを車体組立装置の制御盤に組み込むことを提案、実証実験を行っている。新たな機器の採用は、一見コスト増ととらえるきらいもあるが、総合的には、自動車生産工程全体に与える省エネ効果や機器の長寿命化など大規模なコスト削減につながると考えられている。全世界的なクラウドコンピューティングの隆盛により、データセンターの増設が続いている。
また、各企業内においても、IT投資を戦略的・効率的に行い、自社の競争力増大を図る必要が高まっている。
独・ライツ社は、130年の歴史をもつ木材加工機メーカーである。木材に携わる分野であることから、もともと環境に対する意識の高い同社は、自社のデータセンターを更新する際にも、環境負荷を最小限にした、省エネルギーのデータセンター、いわゆる「グリーンデータセンター」の構築を目指した。そして、様々な検証の結果、選定されたのが、リタールの「データセンター温度管理システム」であり、空冷式の冷却より格段に高効率の水冷式冷却システムが採用された。
水冷式の冷却(LCP)と外気を活用したフリークーリングを組み合わせた最新の温度管理システムによって、同社は年間を通じた冷却比率を、LCP冷却12%、フリークーリング冷却88%にすることに成功、また従来比で55%の節電を実現している。
リタールが、冷却製品単体の販売にとどまらず、技術的なコンサルティング、データセンター全体の設計・施工・メンテナンスのサポートも含めた、総合的なデータセンター向けソリューションを提供できることも、企業全体の高効率・省エネ意識が高いドイツで、高評価を受けている理由の一つである。公共交通分野においても、環境性能やCO2削減の必要性は高まっている。
独・Meyer
Werft社は、215年の歴史をもつドイツの船舶製造会社で、主に客船を製造している。先進的デザインや優れた船内設計により、国際的に知名度が高い。
船舶は、非常に多くのエネルギーを要する機器の総合体であり、そのため、環境性能やCO2削減の取り組み効果も高いとされている。
同社は、船舶全体の熱交換機・ファン・ポンプ等の制御システムでの熱対策の改良や、蒸発器の熱を利用して飲料水を製造する放熱エネルギーシステムの構築、太陽光発電電力によるエレベータ稼働などを備えた客船、いわゆる「グリーンシップ」を開発し、通常の同規模の船舶と比較してエネルギー消費量を30%削減することに成功した。この際、開発パートナーとして、リタールが様々な省エネ技術開発に貢献している。様々な産業機械分野やIT分野で培った豊富なリタールのノウハウは、船舶の省エネにおいても最大限活用され、評価されている。産業機械分野における省エネルギーに対する取り組みは、よりスピーディー、より総合的であることが、ビジネスの競争力向上にもつながっていく。グローバル化の進む昨今では、グローバルでのサービス体制も考慮に入れる必要があるだろう。
リタールは、温度管理システムや熱対策関連の技術のみならず、拡張性に優れ、国内外用途に適したエンクロージャー、コンパクトボックス、それらの共通アクセサリの提供、また世界各地のサービス拠点体制など、省エネルギーに加え、企業全体の省コスト化・効率化にも貢献する製品・ソリューションをラインアップしている。
【筆者=リタール株式会社
マーケティング部
プロダクトマーケティング課
小松
久律氏】