FA・制御機器流通市場は昨年秋以降のV字回復で活況を見せている。各商社の売り上げも前年同期比30%から高いところでは60%ぐらい伸びている。前年同期が低いという背景があるものの、一時の悲壮感からは大きく転換している。現況は受注消化でさほど不安感はないものの、先行きに対する警戒感は日増しに強まっている。円高、産業の空洞化、販売単価の低下などが背景にあり、的確な対策が必要になっている。国内のFA・制御機器流通市場の現状と3大市場の動向を探る。FA・制御機器流通市場にとって2008年秋のリーマンショックは、大きなダメージとなった。各社の売り上げは軒並み20%から多いところでは50%近く減少し、赤字に陥ったところも多かった。それから約2年が経過し、その後遺症は徐々に癒えつつある。今期も売り上げは2桁以上伸びているものの、FA・制御機器メーカー同様、売り上げは依然ピークには戻っていないところがほとんどである。
FA・制御機器メーカーや素材メーカーなどの生産体制が元に戻っていないことなどもあり、品不足がしばらく続いたことで、売り上げ計上が出来ないという状況があったものの、ここまでは概ね順調に回復してきたと言えるだろう。品不足は一部の製品でまだ続いているものの、基本的には解消しており、今後は実需にリンクした売り上げを行っていくことになる。
こうした中、国内のFA・制御機器業界にとって今年大きな動きがあった。それは大手FA制御機器メーカーの流通再編である。これまでFA・制御機器メーカーの多くは、販売店を経由した間接販売を基本にしながらも、その販売ウエイトや販売店数を絞る傾向が見られ、ユーザーと直接取引きする、いわゆる中抜き現象が強まっていた。FA・制御機器メーカー資本系列の販売店を増やしたり、地域別に売り上げの多い販売店だけに数を絞って、他は大手販売店の2次店扱いや特定商品のみの販売契約などに変更する傾向がここ10年ぐらい顕著に進んだ。
ところがここに来て、この傾向が大きく変化し、大手FA制御機器メーカーを中心に再び販売店の数を増やし始めた。2次店から1次店扱いに変更したり、新たな販売店と契約を結ぶなど、間接販売重視の姿勢を強めつつある。解散していた販売店の組織を再び結成するメーカーも出ている。
こうした動きには、二つの大きな背景がある。
一つは、国内のFA・制御機器市場の成熟化と海外市場の拡大がある。
日本国内のFA・制御機器市場は、旺盛な設備投資を背景にここ30年来大きく拡大し、FA・制御メーカー、商社とも大きく売り上げを伸ばし成長してきた。しかし今後、国内ではこれまでのような大規模な設備投資は期待しづらく、FA・制御機器メーカーにとって、海外市場の開拓に人的にも資金的にも投資が必要になってきたことである。ただ依然、国内市場は大きな規模を有しており、維持していくことも重要であることから、その役割をFA・制御機器商社に求めたと言える。
もう一つは、FA・制御商社自体の変化である。従来、メーカーの販売代理店として安住していた商社が多かった中で、FA・制御機器メーカーの直販志向の強まりは、FA・制御機器商社にとって、経営的に大きな影響を受け始めた。メーカーの期待に応えることができる販売に取り組まないと存在がなくなるという各商社の危機感が生まれたことで、商社の意識も大きく変わり、真にメーカーの代理ができる営業姿勢を強めることに繋がってきた。
こうしたFA・制御機器メーカーと商社の狙いが一致したことが、再び商社の重要性をクローズアップすることになっている。
国内のFA・制御機器を取り巻く環境も、現状は回復基調にあるとは言え、けっして楽観はできない。ものづくり全体が空洞化し始め、少子高齢化なども懸念される。大手のFA・制御機器流通商社はアジアや欧米などに拠点を構え、外需のフォローに取り組んでいるが、中堅以下の商社はそのための人材や資金的に限界があり、簡単に海外に出ることはできないのが現状だ。国内での市場創出と、それに対応できる販売製品の開拓が早急に求められる。
省エネや社会インフラ関連での市場開拓をターゲットにしている商社も多い。営業の視点を工場中心から少し外すことも必要になってくる。
FA・制御機器メーカーが代理店販売を重視し始めている今こそ、ユーザーも含めた三位一体での市場創出が重要な意味を持ってくると言えそうだ。関東地区のFA・制御機器流通市場はV字回復を見せており、各商社の顔も一様に明るい。前年同期比30~40%前後伸ばしているところが多いが、60%近くの商社もある。半導体・液晶製造装置やソーラー・LED関連などの恩恵を受けているほか、エコポイントに伴うパソコン、携帯電話、デジタル家電、エアコンなどの需要増による効果も大きい。関東地区に機械メーカーは少ないが、内外で堅調に拡大する工作機械関連需要の盛り上がりも波及を見せている。
また、省エネビジネスも成果を上げつつある。省エネ法の改正で、工場だけでなくビルなども省エネに本腰を入れ始めており、エネルギーの見える化や削減に繋がる機器の引き合いが増えている。
アミューズメント関連もパチンコ・パチスロが11月に横浜で開催されるAPECに絡んで、9月頃まで旺盛な引き合いを見せていた。今はいったん休止しているが、12月頃には再び動き出す期待が高まっている。
国内のものづくりの空洞化が心配される中で、社会インフラがらみの需要も拡大が見られる。原子力や発電タービンなど電力関連に加え、鉄道車両関連も堅調な拡大を続けている。
春先に深刻であった品不足も回復傾向を見せているものの、リレーや電源、表示器などの一部では依然納期がかかっている。
再び流通商社を活用しようというメーカーの動きが強まる中で、それに応える人材育成への取り組みも始まっている。FA・制御機器市場の成熟化が心配される中で、それに代わる新市場の開拓は簡単に海外へ出ることができない商社にとって重要なテーマだ。
既存市場の掘り起こし、新市場のシーズ発掘などは、商社の営業、技術を問わず求められる。その才覚を育成するうえからも、社員教育に力を入れる商社が多い。中止していたメーカーの販売店の社員教育も、ここに来て復活の動きが出始めるなど、社員教育の動きは強まっている。
急速に進む円高を利用して、海外製品の輸入販売の動きも出ている。中国、韓国、台湾製品の品質レベルも向上してきており、コスト重視の市場では一定の需要を見込める。
そして最も重要視しているのは、選ばれるためのソリューション提案ができるかという点である。
コスト競争を避けて、商社の存在価値をアピールする意味でも重要で、メーカーと一体となった取り組みや、商社間での連携などもますます必要になって来そうだ。