国際的に地球温暖化問題がクローズアップされる中で、鉄道産業への関心が高まっている。自動車など他の交通機関に比べて大気中へのCO2排出が少ないことが背景にある。加えて、新幹線に代表される正確・安全な日本の鉄道運行技術は、世界的にも高く評価されており、日本が世界市場で展開できる産業の一つとして期待されている。自動車産業と並ぶ裾野の広さから波及効果も大きく、今後の産業活性化を図る上でも、今後の展開が注目される。地球温暖化の影響は、あらゆる面に徐々に出ているが、とりわけCO2の排出抑制は喫緊の課題として取り組まれている。省エネの推進や資源の有効活用の点からも、CO2排出の少ない鉄道が見直されている。
LRTが輸送能力や定時
運行で優れ見直される
日本では自動車の普及、過疎の進展などから地方鉄道を中心に路線の廃止が急激進んでいるが、一方でライトレールトランジット(LRT)と呼ばれる路面電車システムが見直され、富山や広島などで活躍している。路面電車40~50年前は主要都市で足代わりと利用されていたが、自動車などの普及に伴い、交通渋滞に繋がるとして次々に廃止されていった。LRTは輸送能力や定時運行などで優れており、敷設コストも鉄道の10分の1程度と言われる。バスなどに比べ揺れも少なく、乗り降りも楽である。
LRTは海外でも普及が目覚しく、特にフランスで発達している。また、中国やイタリアでも採用が進んでいる。
LRTをはじめとした鉄道の再評価傾向は、自動車王国といわれるアメリカでも、オバマ大統領がグリーンディール政策と名づけて鉄道や新エネルギーの普及方針を示している。
このように鉄道事業は、環境負荷が他の交通機関に比べて少ないという背景を追い風にして、今後も堅調に拡大していくとする見方が一般的だ。
現在の鉄道関連の世界市場は10兆円前後と見られているが、今後年率3~4%の成長が続くとすると見方が強まっており、20年後には倍増近い市場に成長することになる。
日本国内の鉄道は、リニア新幹線がビッグプロジェクトとして進行しているが、他の新線計画は一段落の状態だ。少子高齢化の影響もあり、今後は更新需要が中心となる。
これに対して、海外では新興国を中心に旺盛な計画が進んでいる。中国では2020年までに国内の縦横8路線を整備し、現在の50%増となる12万キロ以上の計画が推進している。これが実現すると、世界1の鉄道王国になる。
大規模な高速鉄道計画は、前述の中国のほか、ブラジル、アメリカ、ベトナム、インド、ロシア、カナダ、アルゼンチン、韓国、トルコ、イラン、サウジアラビア、マレーシア、インドネシアなどで進められている。
鉄道のCO2排出量は、輸送に伴うCO2排出量のわずか3%とも言われ、今後高速鉄道の敷設進展や貨物の鉄道輸送への切り替えなどが進むと、なお一層CO2削減効果の発揮に繋がってくる。
鉄道産業は、非常に幅広いシステム構造で構成されており、それだけに産業して波及する効果も大きい。
鉄道産業は大きく電気・機械製品と土木に大きく分けられるが、技術的にも構造的にも波及効果が大きいのは電気・機械製品である。
車両、信号保安、鉄道制御・管理などのシステム関連、土木を除くインフラ関連、それに鉄道に付随するサービスなどである。
例えば鉄道を運行するためには、軌道、信号、給電、通信、運行管理などが一体となる必要がある。これらをシミュレーションしてRAMSと言われる信頼性、アベイラビリティ(可用性)、保全性、安全性を確保する必要がある。
このうち、鉄道車両に関連する産業の裾野は非常に幅広い。日本には鉄道車両メーカーが10社ある。この10社は、車両システム全体を取り纏めている。
車両を構成する電機品としては、モータ、インバータ・コンバータなどの変換制御装置、変圧器、補助電源装置、集電装置、抵抗器、無線装置、放送装置、空調機器、発電機、表示機器などのほか、IGBTなどの各種半導体、端子台・コネクタ、プリント基板、ファン、冷却フィンなどの部品が使用されている。
また、機械部品・装置としては車体、台車、駆動ギア、ギアケース、ブレーキ装置、ドアシステム、ディーゼルエンジン、動力伝達装置、締結部品、ギア、車輪、車軸、ベアリング、バネ、オイルダンパーなどが、素材として鉄鋼・ステンレス鋼板・アルミ合金、鍛造、鋳物、型材、各種電線、ガラス、ゴム、プラスチック塗料、シール材、シート材などがある。