汎用インバーターの市場が依然好調に推移している。外需を中心とした省エネや新エネルギー関連需要が牽引しており、過去のピーク超えへの期待も高まっている。小型化や用途専用タイプの開発が盛んに取り組まれているが、IPMモーターなど永久磁石を組み込んだ同期モーターとの一体化した提案活動も活発化している。さらにはサーボモータやPLC機能の取り込み、セーフティ機能への対応なども目立つ。インバーター市場を取り巻く環境は現在のところ不安要素がないだけに今後も堅調な拡大が見込まれている。
汎用インバーターの市場は、経済産業省の機械統計をベースにして日本電機工業会(JEMA)がまとめている生産統計では、2009年度が523億円となっている。08年度比で約230億円の大幅減だ。しかし、10年度4月~8月までの5カ月間では261億4600万円、前年同期比164・5%と大幅な増加になっている。
JEMAでは10年度上期出荷を318億円と予測しているが、これを超えるのは確実な状況だ。通期についても124・7%増の652億円を予測しているが、インバーター各社の取材を通じての見込みは、前年度比35~40%増となっており、この予測と比べると10~15ポイントほど上振れしている。JEMAの見通しが、昨年12月頃に立てた数値であることから、当時の状況からは読みきれないほど市場が好転しているため、現在の市場の状況とのギャップが生まれている。
上期は、インバーター各社とも部品不足から思うように生産計画を立てることが出来ず、受注先行で推移したところが多い。それでも60%以上の伸びとなっている。この状況は現在、大分解消されてはいるものの、まだ完全とは言えず、依然フル生産のなかで、やり繰りしながら納期対応を行っているメーカーもある。
下期は円高の進行で外需の動きが鈍る懸念が残るものの、中国をはじめとした新興国の需要は依然旺盛で、伸びの鈍かった欧米も回復基調に入っている。予想以上の需要増で生産性も向上していることや、需要地生産の点から海外生産も増加しており、円高の影響を最小限に抑え、利益も大きく増えるものと見られる。
こうした状況から見ると、10年度の汎用インバーター市場は、700億円を突破するのは確実で、08年度の750億円も視野に入ってきたと言えそうで、まさにV字回復となりそうだ。
このようにインバーターの需要が拡大している大きな要因として、海外市場の好調が挙げられる。
中国では、旺盛な半導体や自動車工場及び、ビル建設で空調関係向けを中心にインバーター需要が伸長している。さらに、繊維機械関係向けも回復している。また、社会インフラ整備からクレーンやエレベーター向けの需要も堅調で、この傾向は中国の次に発展する市場として注目されているインドでも見られる。
新エネルギーであるソーラーや、風力といった発電周辺機器でもインバーターの需要が拡大している。
これに対して国内市場は、半導体関連やソーラーなど新エネルギー関連に動きが見られるものの、外需ほどは勢いがない。ビル建設も東京など大都市の一部で行われているものの、後はリニューアルであり波及効果は限定されている。
今年4月からの改正省エネ法では、エネルギー使用管理が、これまでの工場・事業所単位から企業全体としてCO2の使用削減目標が設定されることになっており、さらに規制が厳しくなった。温暖効果ガス排出量の大半はCO2で、なかでも工場など産業部門からの排出が40%を占めているとされる。そのうちモーター負荷から生じている割合が70%といわれ、ファンやポンプなどの空調関連機器、搬送用のエレベーターやクレーン、コンベアなどで使われるモーターの省エネ対策が大きな鍵を握っている。
モーターへのインバーター装着率は年々上昇し、現在は30%程度にまで高まっていると見られているが、誘導モーター(IM)や同期モーター(PM)にインバーターを装着することで、インバーターが自動的に最大効率運転を行ってくれるという省エネ・省力化などの効果が、徐々に評価・浸透しつつある結果といえる。
新規購入のモーターはほとんどがインバーターを装着しているものと見られることから、既設モーターのインバーター装着を促進することが普及の大きな鍵とも言えそうだ。現在のインバーターは、産業用モーターの可変速装置から省エネ機器の制御装置としての役割へ大きく変化しているともいえる。
インバーターは、ビル・工場では空調機器や各種換気用ファン、給配水ポンプ、ボイラ、それにエレベーター制御などで使われている。さらに、搬送機械や加工機械、製紙・印刷機械、工作機械などから食品機械、環境・生活関連機器、医療・健康関連機器、アミューズメント、農業機械など、産業用から民生用まで、あらゆる分野の可変速用途や省エネ用途に浸透している。新用途では、レジャー設備であるパチンコの玉搬送システムやゴルフ練習場のボールセッティングシステム、外食産業の鮨ロボット制御システムなどにも広がっている。
インバーターは、直流を交流に変換することで、モーターの可変速制御を実現する。要求される負荷の種類によって最適なモーターを選定することで、省エネ効果がさらに発揮できる。クレーンなどでは回生エネルギーの処理が省エネに繋がり、負荷に応じてモーターを高効率運転することでも省エネ効果を生み出す。いま太陽光発電用などに使われているパワーコンディショナの出力制御部にはインバーターが使用され、新たな需要を生み出している。太陽電池モジュールから得られた直流電圧を交流に変換制御する役割を果たしているが、この時のパワーコンディショナに内蔵されているトランジスタへの負荷低減や、電磁ノイズの低減、出力リアクトルの小型化などにも繋がっている。最近のインバーターは、性能の向上とともに誰でも扱える操作の簡便性や小型・軽量化、低騒音化、安全性、ネットワーク対応などがあげられ、なかでも使い易さと省エネ性の向上は重視されている。
周波数やパラメーター設定がジョグダイヤル式コントローラーを回すだけでできる機種が一般化しているが、一方でこうした複雑で面倒なパラメーター設定を不要にしようと、ファン、ポンプ、コンベア、昇降機などの用途を選択するだけで、自動的に最適なパラメーターに設定できる製品もある。また、配線を簡単にするための着脱式制御端子台の採用も一般的になっているが、最近はパラメーターバックアップ機能付きの端子台を採用した製品もあり、ユニット交換時に制御配線とパラメーター設定が不要になることで、作業工数が従来品比で約5分の1になるといわれ、メンテナンスの省力化などに大きく繋がる。端子台も、日本はねじ式が一般的であったが、最近は欧州方式と言われている圧着端子を使わないスプリング式が増えている。
スプリング式は、配線ケーブルの皮むき作業が不要で、端子台にケーブルを差し込むだけで配線が完了することから、配線作業時間が大幅に削減できる。スプリングによる配線保持機能で、振動による緩みでの接触不良も防止でき、メンテナンス作業が省ける効果もある。海外向けは、こうしたスプリング式タイプがほとんどであるが、国内ではユーザーによって両方が使われている。このためインバーターメーカーの対応も、すべてスプリング式にしているところと、2方式を併用販売しているところに分かれている。
インバーター各社とも良好なトルク特性をアピールしており、短時間最大トルクを3・7kw以下で駆動周波数1Hz150%から0・5Hz200%が増えている。短時間過負荷耐量も200%で0・5秒から3秒にアップさせ、過電流トリップになりにくくねばり強い運転を可能にしている。しかし、こうしたなかで過負荷定格を、軽負荷と重負荷に分けることで定格出力電流を調整し、最大適用モーター容量の拡大によるインバーターサイズの小型化使用を可能にしている。
インバーターとモーターの関係も変化している。インバーターで駆動するモーターも、標準三相モーター、高性能省エネモーター、回転子に強力な磁石を埋め込んだIPMモーターなどがある。特に、永久磁石埋め込み形同期モーター(IPM)や表面永久磁石形同期モーター(SPM)を使った製品が市場に投入されてきており、誘導モーターより7~10%効率が良くなるといわれている。しかし従来、こうした高効率モーターの駆動には専用のアンプが必要であったが、これをインバーターのアンプを使い、誘導モーターと同期モーターのどちらでも駆動できるインバーターが各社から発売され始めた。設定の切り替えで両方のモーターに対応できることで、インバーターが1台で済み、導入にあたっても予算に応じてモーターを段階的に購入していくことも可能になる。
00年には「JIS
C
4212高効率低圧三相かご形誘導電動機」規格が制定された。ここでの高効率モーターは、損失が標準モーター比約20%低減されて省エネ効果が得られるほか、温度上昇も小さく長寿命・高信頼性にも繋がる。長時間使うことで省エネ効果も高まり、ランニングコストの軽減も図れる。JEMAの資料によると、高効率モーターは標準モーターに比べてイニシャルコストは30%ほど割高であるが、消費電力が節約できるため、稼働時間が長くなるほど電気料金が割安になり、初期の設備経費増加分を短期間で回収できるとしている。
IEC60034―30では、モーターの効率クラスが規定され、効率の低い順に、IE1(標準効率)、IE2(高効率)、IE3(プレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)となっている。09年度からは、高効率モーターを搭載した空調用機器の送風機及びポンプを公共工事の調達の際にグリーン購入法で指定された。
チューニングの技術も進んでいる。オートチューニング機能では、調整項目を自動化し、加速時間や減速時間の調整、出力電圧の調整、さらに加減速パターンや上限周波数の調整まで自動的に行えるものもある。停電時にモーターが暴走しないように素早く安全に停止させる減速レートや、設定したモーターパラメータと実際値を近づけて補正の自動調整を行うチューニングもある。
こうしたチューニングが簡単に行えるようにすることで、機械・機器にあまり熟練していない人でもインバーターを容易に扱える環境が整いつつある。
省エネ化への貢献というインバーター化ニーズに応え、省エネ度を数値で表すことができる省エネモニターが搭載されている。
省電力率、省電力量、省電力平均値などの省エネ関係の数値が、インバーターの操作パネル上のほか、出力端子やネットワーク経由でも確認でき、省エネの効果が一目瞭然となる。設備メンテナンスの点から、モーター累積運転時間やインバーターの運転・停止などの起動回数を、自動的に積算できる機能を内蔵している。インバーターは、セットメーカーの機械に組み込まれて海外で利用されることも多いが、制御ロジックのシンク/ソースの切り替えができ、グローバル対応が可能な機種も数社から発表されている。
小型・軽量という面では、盤や機械の省スペース化に対応した小型機種が、各社から豊富にラインアップされている。
シンプル構造の名刺サイズのものもあり、スピードコントローラーの置き換え需要などとしての搬送用途などが増加している。異なる容量でも高さ・寸法を統一することにより、盤内のレイアウトの容易さを図った機種や、取り付け場所に合わせて「サイド・バイ・サイド」で密着して取り付け設置が可能な製品も一般化している。
需要が拡大している空調用途では、不可欠である力率改善DCリアクトルや零相リアクトルと容量性フィルターを1つのユニットにしてフィルターパック化して標準で装備し、配線工数と配線数の削減、省スペース化の実現を図っている機種もある。
また、ユーザープログラム機能を搭載したオプションカードや、簡易PLC機能を内蔵することで、パソコンを使ってインバーターのカスタマイズ化が図れる製品も登場し注目されている。インバーターを含めた、機械・装置の付加価値向上と周辺機器の簡略化にも繋がる。
最近は、USBコネクタをインタフェイスに採用したインバーターが増えている。パソコンからインバーターのセットアップソフトウェアを起動させて設定の支援を行ったり、高速グラフ機能によるサンプリング、ユーザープログラムのコピーユニット機能などが活用できる。さらに、ラインシステムなどでベクトルインバーターとシステムコントローラーの演算制御部分を統合化した新コンセプトの商品も登場した。これによって、ベクトル演算やライン全体の協調制御を集中処理することが可能になるとともにネットワーク間の通信無駄時間の排除や、制御盤への実装スペースの削減にもつながるなど大きなメリットが生まれる。
インバーターの長寿命化に向けて、コンデンサーや冷却ファンなどの部品寿命の長時間化設計も進んでいる。特に空調ファン、ポンプなどに使うインバーターは設置するとリニューアルするまでの期間が長く、より一層の長寿命製品を求めている。各メーカーとも主回路のコンデンサー寿命は10年前後を目安にしているが、15年の長寿命をアピールしているメーカーもある。静音化では、キャリア周波数を高くして低騒音運転を行える機種もある。素子レベルの開発も各社で進められてきており、最近発表されたものではマグネットやブレーカーに影響を及ぼさない製品などもある。
ネットワーク化も、RS422/485通信は各社標準で内蔵しているが、オープンなネットワークにもオプションカードの装着で可能になってきている。
インバーターでもセーフティ機能の搭載が増えてきた。従来、地絡保護や瞬時停電時の自動再始動などに対して、コンタクターなどを周辺配置して対応するのが一般的であったが、この機能をハードワイヤベースブロック内蔵で、安全規格のEN954―1のカテゴリー3などに対応させた。
誤操作などを防ぐためにインバーターにパスワードを設定して、パラメーターの読み出し・書き換えを制限できる製品もある。メーカーが、出荷後の調整をできないようにする狙いもある。
インバーターは、省エネ効果に繋がることで需要が伸びているが、さらなる省エネ対応ではエネルギーの回生効果の大きいマトリクスコンバータの市場創出も期待されている。インバーターの未使用の用途は、まだ多いだけに市場拡大はしばらく続きそうだ。