防爆関連機器を必要とする危険個所は、石油製品生産工場、石油精製プラント、トンネル掘削工事現場、原油基地、LNG基地、塗装工場、火力発電所、石油・天然ガスなどの備蓄・貯蔵場所などがあり、防爆による安全対策の高まりから着実に市場が拡大している。加えて既存設備の老朽化に伴うリプレース需要や、半導体関連や食品・医薬品分野でも需要が伸長しており、市場規模は約50億円と推定される。
このほど政府が防爆機器に対して新しい指導・通達を出したことで、さらに新たな需要や市場が創出することを期待する声も強い。
市場のグローバル化で
国際防爆指針検定増加
その1つは、厚生労働省が防爆構造規格に関して、労働基準局長通達として今年8月に防爆性能基準、10月に型式取り扱いを出したことだ。防爆構造規格は実質2つが存在するが、そのうちの1つであるIEC規格に基づく「技術的基準」を廃止し、代わって「国際防爆指針」が適合された。この通達により、防爆機器メーカーは今後、市場のグローバル化に対応し国際防爆指針の検定を増やすものと見られる。
8月に出された通達は「電気機械器具防爆構造規格における可燃性ガスまたは引火性の物の蒸気に係る防爆構造の規格に適合する電気機械器具と同等以上の防爆性能を有するものの基準等について」、10月に出た通達は「防爆構造電気機械器具の型式の取扱いについて」である。
防爆構造基準は、「電気機械器具防爆構造規格」と「国際規格(IEC規格)」の2つの体系が実質的に存在する。今回の通達内容は、防爆構造規格は一つとされているが、規定の規格に適合しない電気機械器具についても、IEC規格準拠の物は適合すると見なしている。
IEC規格基準としては、1988年以来「技術的基準」があるが、8月の通達で廃止され、同日付けで「国際防爆指針」に適合するものが構造規格に適合するものとして扱われるようになった。ただし、11年2月23日までは「技術的基準」による新規申請が可能である。
今回の構造規格のIEC整合に伴い、曖昧な「型式ごと」の文面を明確にした。防爆機器メーカーは、依然として「構造規格」と「国際防爆指針」のどちらかの規格に基づく検定を受けることになるが、市場のグローバル化に伴い輸出するケースを前提に、今後は「国際防爆指針」の適用が増えるものと見られる。
さらに、今年はもう1つの大きな動きがあった。昨年大手クリーニング業者が、建築基準法により住宅・商業系地域で使用が禁じられている引火性溶剤を、同地域で使用していたことが指摘され問題になった。
事態を重く見た国土交通省が、全国のクリーニング業者を対象に実態調査を行った結果、実に50・2%の工場に用途規制違反があった。
ウールや合成繊維素材は、形崩れや縮みを起こさないよう、引火性の有機溶剤で洗うドライクリーニングが行わている。引火性の有機溶剤を用いるドライクリーニング工場は、建築基準法第48条により立地規制があり、住宅系・商業系用途地域での立地が認められていない。
調査結果を受け、同省では今年9月に違反業者に営業継続を認める条件として、ドライクリーニング工場について電気設備に防爆措置を行うこと、溶剤を保管する部屋に換気機能を設けること、さらに引火した場合、自動停止する装置を備えるなどの防火対策の技術的助言・指導を打ち出した。
具体的には、引火性溶剤の使用に伴う火災の危険性に対する安全性を確保する基準を規定することとし、引火性溶剤の保管方法や、洗濯機・乾燥機の安全対策、作業場の防爆措置、ソフト面での安全対策などの技術的基準である。
この中で、溶剤を保管する容器の設置場所から水平方向1メートル以内の電気設備は防爆措置を行うことや、容器が設置されている部屋に換気設備を設けること、洗濯槽内の酸素濃度を爆発濃度以下に制御する機能を付加、引火の恐れや静電気が発生する場合、機械が自動停止する機能があることなどが挙げられている。
特に防爆に関しては、危険場所の分類がIEC規格のゾーン1「通常作業において、ガス・蒸気爆発性雰囲気となる可能性が時折ある場所」に該当し、防爆型コンセントや防爆型換気扇などの防爆機器が対象となる。
なお、同省では、業者がこれらの是正を行う期間について規模の小さい業者のことも考慮に入れ、合理的な猶予期間を確保することを挙げている。
この動きを受け、関連する防爆機器メーカーでは、今年12月に東京ビッグサイトで開催されたクリーニング業界の総合展示会「2010東京国際クリーニング総合展示会クリーンライフビジョン21」の「モデル店舗ゾーン」に最新製品を出展。クリーニング業界に向け、防爆機器の普及啓発活動と製品のPRを行った。出展した防爆機器メーカーや関連する機械・装置メーカーでは「新たな市場が創出される」と期待しており、今後の動向が注目される。
一方、防爆関連機器を必要とする危険個所は、08年3月に改正された労働安全衛生法で「爆発のある濃度に達するおそれに」という文言が追加され、危険物や可燃性物質、高圧ガスなどを取り扱う事業所は、大規模な事業所から半導体製造工場や燃料電池関連などの先端事業所、ガソリンスタンド、LNG・LPG充填所、塗装作業所、さらに有機溶剤の取扱所など小規模なものまで法改正の対象となっており、防爆関連機器を必要とする個所が拡大している。
また、同法改正により、危険場所の区分が法的にも義務付けられ、既存のプラントでも法改正の影響を受けることになった。さらに、海外では以前から使用可能であった防爆構造のものも、日本で防爆検定を受けて使用できるようになった。
このような危険個所では、爆発事故などを防ぐため電子・電気機器を隔離しなければならない。例えば、危険個所では石油などは常温でも気化し、その蒸気や温度によってはスイッチなどの開閉に伴う微小の電気火花や静電気による火花でも引火や爆発する恐れがある。
事故件数増加で電子・電
気機器の防爆対策急増
最近は危険個所の工場・設備もエレクトロニクス化やオートメーション化が進み、電子・電気機器が原因となって火災や爆発が起こるケースも少なくない。特にここ数年は、設備の更新遅れや熟練の保守点検要員の退職といった理由から、高圧ガスの製造事業所での事故件数が急激に増加しており、電子・電気機器の防爆対策に対するニーズが急速に高まっている。
製品別では耐圧防爆構造、本質安全防爆機器の動きが顕著になっている。半導体製造関連分野、有機溶剤を取り扱う自動車塗装関連分野などでは、本質安全防爆機器の採用が広がっている。さらに、新たな市場として半導体製造関連分野のほか、食品業界や薬品業界といった業界にも防爆関連機器採用の動きが活発化している。
防爆製品は大きく、FA制御機器分野、モータ分野、照明分野、計測機器分野の4つに分かれるが、FA制御機器分野の市場規模は約50億円で市場は着実に拡大している。FA制御機器分野の防爆機器は日本電気制御機器工業会(NECA)が多く関連し、コントロールボックス、バリアリレー、タッチパネル表示器、リミットスイッチ、回転灯、バーコードリーダー、ソケット、パソコンなど多種多様である。
防爆製品は、制御機器業界以外も関連する。モータなどの日本電機工業会、測定器などの日本電気計測器工業会、照明器具の日本照明器具工業会などが挙げられるが、各工業会は連携した活動を行っており、08年10月から施行された電気機械器具防爆構造規格の改正では、検定済み防爆製品の継続製造・更新について厚生労働省に働きかけ、成果を生み出している。
注目される動きでは、「危険エリアにネットワークを」をコンセプトに、防爆型の広域アクセスポイントや指向性の遠距離タイプ、無指向性のアクセスポイントを開発。
こうした防爆型のアクセスポイントを活用し、無線LANによるネットワーク構築を提案する動きも出てきた。開発したメーカーでは、このほか防爆ドーム型カメラやIP電話、さらに防爆型ハブなどを開発・投入しており、無線技術の特徴であるモバイル性や、配線ケーブルの削減メリットを活かし、高度な操業やメンテナンスを支えるために、安全で大容量の情報伝達手段が簡単に構築できるとしている。