日本経済はリーマンショックの後遺症から徐々に脱しつつあり、制御機器や電子部品の出荷もリーマン前の80~85%ぐらいまで回復してきた。2011年には、ほぼ元に戻る状況も生まれてきそうだ。しかし、数字は戻ってもその内容は大きく変わっている。内需と外需の逆転が続き、間接輸出も入れると全体の70%ぐらいは外需関連の出荷とも言える状況が生まれてきた。1年前に比べると、円高傾向が大きく進展している。それでも生産の海外移転やコストダウンなどで海外販売を拡大して、売り上げを伸ばしている。資源少国日本にとって、日本の持つ技術力を活かして世界市場と競争するのが国・企業を発展させる術である。
まだまだ日本が世界に誇れる技術は多い。しかし、技術の進歩は早く、いつまでもその優位を保てるという保証はない。技術に磨きをかけ、少しでも先を行く技術・製品の開発に取り組む必要があるのは当然であるが、一方でもう少し冷静に考えることも必要だ。
例えば、人口問題はどうであろう。日本は少子化で、これから人口は減少する。一方、中国、インド、ブラジルなどの新興国はまだまだこれから増える。人口が増えることは消費も増えるということで、消費経済としては歓迎すべきことである。そのための投資も増え、制御機器や電子機器の需要拡大にも繋がる。当然のことながら、食料や水の消費も増える。しかし、ここに落とし穴がありそうだ。日本はカロリーベースで食糧の自給率は40%を切っている。極端に言うと、米以外は輸入している状況だ。政府は米農家を守るために戸別保証を行っているが、これで日本の農業が守れ、食糧自給率が上がるとはとても思えない。TPP(環太平洋経済協定)参加も足踏み状況である。世界を相手に戦っている企業が、日本農業の立て直しに参加するのもひとつの手法ではないだろうか。
オランダでは、大きなビルの中でフロアごとに作物を作る農家が多いという。コンピューターを駆使して、温・湿度から水管理まで自動化しており、Tシャツを着た経営者が、部屋でパソコンを操作しながら生育状況を見ている。
日本でもIDECは、植物工場の中で、イチゴや大根を栽培している。腰を曲げて作業しないように、土壌を空中に浮かせることで負担を軽減している。
日本の少子化と農業の担い手対策から、工場農業もひとつの選択肢であろう。ここでは工場と同様の自動化・省力化機器を活用し、3Kのイメージの強い農業の姿を一新する。これで農業の担い手が増え、食糧自給率向上に繋がれば日本を救うことになる。
では環境・エネルギー問題はどうであろう。ここ1、2年の企業の経営方針には必ずこの言葉が出てくる。2つの目的があり、企業として環境負荷の低減に繋がる経営を行うことと、環境・エネルギー関連ビジネスを展開していくことである。前者は大小の違いはあっても何らかの取り組みが行われているが、最近は後者のビジネスとしての環境・エネルギー問題が顕著である。
ハイブリッドカーや電気自動車、スマートグリッドビジネス、鉄道技術などもそのひとつといえる。照明のLEDへの置き換えも挙げられる。環境・エネルギー関連ビジネスも、資源を持たない日本にとって、大きなチャンスである。特に人口増加で水不足が心配されている中で、日本の水浄化技術は大きく活かせる。
汚水からの浄化、海水からの淡水化、さらには汚染土壌の浄化などは、社会インフラ関連ビジネスとして大きく海外展開が期待できる。
リーマンショックの大きなダメージが癒えつつある今年は、今までの縮み志向から、こうした技術に期待した能動的な姿勢への転換に期待したい。