1.現状
2008年秋以降に発生した世界金融危機による景気後退の影響により、我が国自動車産業は未曾有の危機に直面したが、国内外での自動車の需要促進策を含む各種対策等の効果もあり、現在は、危機から回復しつつある。
具体的に、足下の国内新車販売は、09年9月以降、前年同月を上回る水準に回復し、12月以降は2割程度増加している。また、販売台数の増加に伴う生産の回復やアジアをはじめとする海外市場の進展により、国内生産、輸出台数ともに前年同月を上回る状況となっている。
我が国自動車産業は、構成部品点数が2~3万点にも達する大規模な加工組立産業であり、鉄鋼、化学をはじとめする素材産業から電機・電子など、その関連産業は多岐にわたっている。そのため、関連産業を含む就業人口は多く、出荷額及び設備投資額は、国内製造業の中で約2割を占めるなど、我が国経済のけん引役として重要な役割を担っている。
今後とも、自動車産業における環境対策と景気対策を効果的に実現して行くためにも、電気自動車や、一定のハイブリッド自動車等の一定の排出ガス性能・燃費性能等を備えた自動車に対する自動車重量税・自動車取得税の時限的免除・軽減措置や、09年4月10日から開始している自動車の買換え・購入補助(平成21年度第2次補正予算の成立により、10年9月末までの6カ月間の延長)等を着実に実施していくことが重要である。
世界では、中国、インド、ブラジルをはじめとする新興国の存在が高まりつつある。
日米欧3極の市場は、00年以前の世界市場で世界自動車販売の約9割を占めていたが、現在では、新興国が約5割の水準を占める状況になっている。
また、09年における世界自動車販売台数では、中国が米国を抜き世界第1位の市場になるとともに、インド、ブラジルでの自動車販売台数が、5年前に比べ約2倍に拡大している。
このような中、我が国自動車産業にとって、新興国市場の獲得は重要な課題になっている。また、欧米等の市場拡大は引き続き重要な課題であり、地球温暖化対策の観点からも、電気自動車やハイブリッド自動車をはじめとする環境性能に優れた自動車の開発に継続して取り組んで行く必要がある。新興国の市場拡大、環境性能に優れた自動車の開発に係る技術開発コストの増大等を背景に、現在、国境を越えたメーカー同士の資本提携や個別技術分野毎の技術提携が活発に行われている。
2.我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国自動車産業の強みは、世界最高水準の燃費及び排ガス性能を実現するエネルギー・環境技術にある。特に、電気自動車、ハイブリッド自動車に必要な蓄電池の技術は、日本企業が世界をリードしており、その生産は日系電池メーカーが大部分を占める。
09年にハイブリッド自動車は、日本国内で約30万台が販売され、年間販売台数ランキングで第1位を獲得している。また、電気自動車は09年7月に世界に先駆けて市場に本格投入され、同年12月にはプラグインハイブリッド自動車(充電式のハイブリッド自動車)が発売されるなど、我が国の環境技術が世界をリードしている。
(2)弱み
人口減少、若者の車離れなどにより、今後も国内需要は縮小する見込みである中、自動車販売の活性化が重要な課題である。
また、我が国は資源が乏しい国である。特に、今後需要の拡大が想定されるハイブリッド自動車、電気自動車用等のレアメタルは存在量が希少であるとともに、特定の国に偏在していることから、安定供給を確保していくことが重要である。
3.世界市場の展望
日米欧の先進国では、急激な自動車需要の拡大は見込めないが、地球温暖化対策の観点から電気自動車等、次世代自動車の需要が高まっていくものと考えらえる。
また、中国、インドをはじめとする新興国市場では、人口増加、所得拡大によるモータリゼーションの進行による低価格車の需要拡大など、今後とも大きな成長が期待されている。我が国自動車メーカーは、欧米における環境技術開発、市場が拡大する新興国市場での低価格化競争に打ち勝つことが、今後も世界市場で主要な地位を占めるための重要な鍵になる。
4.我が国産業の展望と課題
(1)エネルギー・環境技術の強化に向けた対応
地球温暖化問題、エネルギー問題の情勢変化によって、自動車・燃料技術の多様化が進み、日米欧、新興国で異なるエネルギー・環境戦略が進められている。エネルギー・環境制約の高まりから、日米欧市場においては環境対応車や小型車への需要シフトが進み、今後モータリゼーションが進展する新興国市場においては低価格車に対する需要の増加が見込まれる。
小型化、低価格化の流れの中、次世代自動車等の開発につながる資金を確保し、低炭素社会の実現を図るとともに、将来の成長につなげていくことが重要である。
今後とも、我が国最大の強みであるエネルギー・環境技術の強化・次世代自動車等の普及に向けた官民一体の取組が必要である。
(2)国内生産基盤の維持発展
関連産業の裾野が広い自動車産業にとって、国内における生産基盤の維持・発展も重要な課題である。自動車産業の今後の発展においては、国内での高度な技術開発の推進が極めて重要であり、我が国高度部材産業の強みを製品レベルでも発揮するための業種間連携や、これまでの枠組みを越えた共同研究のための産学官連携を積極的に進めていく必要がある。
また、環境制約の高まりにつれて、部品産業では軽量化・省エネ化が求められる。
(3)グローバル戦略の推進
我が国自動車が高い競争力を維持するためには、新興国の需要や労働力を取り込むことが必須である。そのためには、完成車メーカーに限らず、海外での自動車生産を支える中小・中堅の部品メーカー、素材メーカーの海外展開も必要である。
このような企業の経営戦略に対応して、政策面でも、経済連携協定の交渉等を今後とも進展させていくとともに、海外における投資環境整備に取り組んで行く必要がある。