1.現状
紙・パルプ産業は、産業活動と国民生活に不可欠な素材である紙・板紙を供給する基盤産業である。我が国における2008年の生産量は、紙・板紙合計で3063万トンであり、米国の7995万トン、中国の7980万トンに次いで世界第3位である。
国内市場は成熟化しつつあり、需要の年平均伸び率は04年以降ほぼ横ばいで推移していたものの、08年の秋以降は、米国発の金融危機に端を発する世界同時不況の影響により前年比8~9割程度の水準で推移している。
このような状況の下で製紙各社では生産能力を削減するとともに、生産は米国発の金融危機以前の8~9割程度に抑えている。
一方で、中国をはじめとするアジア全体を市場ととらえた国際展開も進展しており、アジア・オセアニア地域における現地生産・販売を目指した工場建設や企業買収等も行われている。
収益については、08年秋以降の世界同時不況や冷夏による天候不順の影響により、国内外の紙・板紙需要が大幅に減退したことから08年度は減益となった。
09年度は、国内外の需要が引き続き低水準であるものの、原材料の古紙や燃料価格の下落、生産設備の停止等によるコスト削減等により総じて改善傾向にある。
なお、08年1月に明るみとなった情報印刷用紙での古紙配合率偽装事案に端を発し、見直しが行われたグリーン購入法におけるコピー用紙の調達については、09年度から古紙利用と持続可能な森林資源確保の両面に配慮した総合評価方式が導入された。
10年度からは、印刷用紙の調達についても総合評価方式が導入される予定である。
2.産業の強みと弱み
(1)強み
国内ユーザーの厳しい品質要求に応える高品質な製品の製造技術、古紙等安価な原料を使いこなす製造技術、木材チップからの一体生産による世界トップレベルのエネルギー効率を実現する製造技術、排水処理や水使用の節約等環境関連技術などの先進的な技術を有する。
(2)弱み
最新設備への更新や導入は進められているものの、総じて生産設備は海外企業と比較して小規模で古く、また生産能力の過剰状態が続いており、生産効率が低下している。製品規格が多いことによる切り替えロスや、物流コストの高さもある。
これらの要因により、売上高経常利益率を見ると04年度以降低下の一途をたどっており、08年度は約2・0%となっている。
3.世界界市場の展望
北米や欧州市場は、我が国と同様成熟化の傾向にあるが、アジア市場は着実に拡大する傾向にある。08年秋以降は、金融危機に端を発する世界同時不況の影響により、国内外で需要の減退が見られる。米国では広告収入の減少による新聞・出版業界の低迷や電子書籍・電子新聞などが着実に浸透しつつあることなど、市場としての成熟度を高めていくことが見込まれる。
一方、いち早く回復基調に乗った中国においては、今後の需要増加が見込まれるが、同時に需要増加を見据えた中国国内の生産設備の再稼働や生産能力の増強により、古紙や木材チップなどの原材料確保による価格高騰などの課題も顕在化しつつある。
4.我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
これまで内需依存型産業として国内企業間での競争が中心であったが、国内市場でもコピー用紙を中心に海外メーカーからの輸入が増加しているなど、今後は、国内外で国際的な競争力強化が必要になる。
09年10月には北越製紙と紀州製紙が経営統合するなど、国内製紙各社においては、競争力強化のための経営統合や業務提携を含めた協力関係の強化、再構築が模索されている。
国際競争への対応として、物流コストの低減、生産能力の過剰を解消するための設備廃棄や生産効率化などに不可欠な最新鋭設備の導入、汎用品の製品規格の削減・統合等、海外とのコスト競争に対抗できる生産体制を再構築する必要がある。
また、原材料安定確保及び環境保全の観点から植林の推進も引き続き重要である。
(2)東アジア等海外戦略
王子製紙は06年6月、中国江蘇省南通市に建設を計画している紙パルプ一貫工場(年間生産能力は高級紙08万トン、クラフトパルプ70万トン)の建設認可を中国国務院から取得した。現在、10年後半の稼働を予定している。
日本製紙は09年2月、オーストラリア製紙3位のオーストラリアンペーパー社の買収を決定し、同年6月に同社の全株式の取得を完了した。