電気部品や制御機器の販売員が、顧客を訪問する時に携帯する大事なツールは商品カタログである。ベテランの販売員でも、まだ一度か二度ぐらいしか会っていない技術者にどんな商品カタログを持って行けばいいのか多少考え悩む。新商品であれば、何でもいいというわけにはいかないからだ。これが既に顧客となっている技術者であれば、一応話のネタに新商品を紹介すればよいので、新商品が発売になればとにかく紹介がてらの訪問ができる。商品カタログは、販売員にとって大事なツールであるように顧客や見込み客にとっても知りたい情報である。
売り手側、買い手側が双方ともに見せたい、見たいという利害が合致しているなら訪問営業は心理的に楽である。商品に関する勉強をして、プレゼンテーションを上手にこなし、見込み客あるいは顧客からの質問に答えればいいからだ。
日本の企業の事業発展は、時代とともに移り変わってきた。安く大量に製品を作ってきた生産志向時代を経て、品質の良い物を作ってきた製造志向時代には電気部品や制御機器の成長期である。成長期には幾多の商品が新しい商品として発売され、見込み客や顧客にとって商品情報は何よりの知りたい情報であった。販売員はカタログを持ち、胸を張って客先訪問のできた時代である。生産力を誇った日本の企業も円高攻勢には勝てず、アジアへ生産シフトを急激に行ったため国内の部品や機器の市場規模の伸びは止まった。輸出による底上げはあったが競争は激化し、販売志向時代を迎えた。
国内では、アジアの低コストに対抗するためコンピュータによる製造や管理技術を導入し多様化する製品を効率よく作る製造設備が作られ、一部の制御機器は複雑、高度化して対応した。そのため商品教育が盛んになった。
その一方で、電気部品や制御機器の大半は成熟期を迎えた。技術者に熟知された商品は勝手に発注され、販売員の受注額の大半は商品形式で発注されていた。21世紀に入ってITバブルという現像がマスコミを賑わせた。制御技術と並び情報技術が目覚ましく発展し、Webという情報提供システムや情報の所在を示すURLの充実は、販売員の持参する商品カタログの重要性を著しく減するところとなった。そうした背景が、商品カタログによる情報提供よりも、見込み客や顧客からの商品に関する技術問い合わせの対応力が重視される要因になっている。それでも、まだ商品カタログの有用性はゼロではない。
販売員に技術的問い合わせをする必要のない商品でも、寸法や具体的な性能上の値を見ながら技術者は選定する。したがって部品メーカーは、技術者の側に商品カタログを置いておきたい。特に、商品総合カタログは確実に技術者の手元に届けたい。そのため販売員の手を介するよりは、宅配便の方が確実、迅速であるという理由で利用者も多くなっている。
情報通信や物流の発展が、販売員から情報提供活動の一部を奪っているなら、販売員の仕事は情報提供から情報収集活動へ比重を移すべきだろう。昔から言われてきたマーケティング志向に販売員は本格的に向かわなければならない時代に入っている。
顧客を訪問する時に、商品カタログが販売員の大事なツールとなるのは、売り込むためのツールとしてではなく情報収集するためのツールとして使えばいいということだ。自分が話すより顧客に話させるのが上手い販売員は、商品カタログの使い方が上手い販売員なのだ。(次回は2月9日掲載)