仕事柄、多くの経営者の経営理念や信条を聞く機会がある。
それは経営者によって様々であり、その内容がいかようであれ、総じて言えるのはどれも個人の生き様があり、机上の理論でないということである。評論家でなく実践家の話は力強く、現実的で、いつも勇気をもらっている。
先日、製品安全業界の社長仲間の会話で、安全試験をウイットにした面白い会話があった。アブノーマルコンディションテストでオーバーカレントをした時に、どのヒューズが短絡するのか。これは電気製品の異常状態試験の様子の話だが、これを「組織」回路に置き換えたら、オーバーワークや異常な状態を与え続けると誰が切れるか?というものである。切れた部分が組織的に弱い部分であり、経営者は負荷をかけずともどこが短絡しそうか想定出来ていなければならない。そのためには個々の社員の顔色を常日頃観察しておく必要があり、キャパシティや仕様が合っていなければならない。
そしてまた、従業員の仕事の能率を改善し、会社の利益を上げる努力も必要である。
社員に毎日「今日したこと」を1週間、1カ月記録させたところ、その職制、給料に見合わない作業(タスク)をしていることがわかった。すべて書かせると案外に無駄なことをしている。そこで、当人、例えば課長が時間を費やす仕事ではないものを全てリストアップし、その部分はアシスタントをつけて処理させ、当人は給料に見合う本業に特化するジョブ・ディスクリプションを明白にした。当たり前のことだが、時給3000円の人が時給1000円の仕事をするべきではないのに、景気悪化に伴い人件費を削減するあまり、補佐的な役割の社員は削減される対象になり、補佐を切り、自らが2人分、3人分働かなければいけない環境に陥っていた。経営効率から言うと課長がアシスタントの仕事までこなすのは効率が悪い。しかし、日本企業は採用時に仕事を明白に細かく提示していない場合がある。よくある例が、「設計部配属」あるいは勤務地「本社営業部」と所属部のみの分類で留まっている。是非、社員に出社してから帰社するまでの行動を全て書きださせ、職種、給料に見合う形になっているかを検討してみたい。
一昔前、日本の下請け生産国であった中国は、日本が得意としている先端工業品を自社ブランドでアメリカに売り込む戦略をしているとの記事があった。あるIT機器ベンチャーメーカーは、「40年前は日本のソニー、20年前は韓国サムスン電子、これからは俺たちの時代だ」と猛烈に攻勢をかけているとのこと。メイドインジャパンはアメリカにとって低品質の代名詞だったが、ブランドがいい製品を次々と輩出し高級品のイメージを作り上げてきた手法を、中国はまさに今それを真似し、目標としている。そのことを考えてもほとんどの工程は人件費の高い日本では採算が採れず、日本企業はブレーンあるいはコアに特化していかなければ国際競争にはついていけない。すべてを賃金が安いところにシフトするわけにもいかないが、時給3000円の課長が時給1000円の仕事をしてはいないだろうか。仕事とは感動してこそ仕事であり、感動がなければただの作業である。今ある仕事は自分の技量裁量に適切か、また自分に向いているか否かを含めて、雇用する側、される側ともに仕事の適材適所を考えるべきである。
今月トヨタ自動車は、車体を横向きに置いて流す、新しい生産ラインを導入した。従来法よりラインの長さを3分の1ほど短くしたので、新工場の設備投資額は予定の6割で済んだ。そればかりか車両組み立てにかかる作業時間の短縮にも成功した。
さすがはトヨタ、縦を横にする「世界の常識」を覆して、更なる作業の効率を図った。
この先、企業、社員それぞれの工夫と効率への努力が、勝ち組分岐点になるであろうと確信しているところである。
(シュピンドラー株式会社
代表取締役シュピンドラー千恵子)