続・大競争時代の宿題 歴史から学ぶ新たな戦略 相手の表情・態度・状況を読むこと 黒川想介

子供の頃に知らない人と話をしてはいけませんと教えられて育ったせいか、成長しても隣にいる人に話かけたり、かけられたりすることに慣れていない人が増えているようだ。それでも人は孤独を求めず、マズローの5段階の欲求が示すように、人は生存や安全の欲求が満たされれば、次にどこかのサークルに所属したいという所属の欲求が生まれる。1人では生きられないということだ。

だから人は誰かに寄り添ったり、なんらかの団体に寄り添って生きていくのであり、寄り添う相手や団体によって人の人生は変化していく。人が生きる社会は厳しく、その厳しい社会を渡っていく時に人はほっとする安堵感を感じる場所を求める。それが所属の欲求であろう。言い変えれば、人はわずらわしい人間関係を避けて話し易い人と語らい、コミュニケーションをし、心を癒されたいということである。情報通信技術の発展によって、人との語らいの仕方やコミュニケーションのとり方も変わってきた。手紙の代わりにパソコンメールが使われだしたのは、それほど昔の話ではない。

手紙の効用は2つあった。1つは面と向かって話しにくい話題を手紙に書いて伝える。2つ目は話しべたな人でもよく考えて感情を豊かに表現することができる。携帯やパソコンメールでも、それらの効用をフルに活用している人はいる。しかし、昨今では隣にいる人にもメールで伝えるようになり、それが当たり前になって会話を省いてしまう人も多く現われている。

その上、今ではリアルタイムに短いメッセージのやりとりをするチャットなるシステムが横行している。メールでは、人の表情が見えない。だから本当に知り合っている仲の人との間ではコミュニケーションは成り立つが、あまり知らない人、つまり所属外の人とのコミュニケーションは成り立たない。このことがわからず、わずらわしさを省いてくれるメールに頼ってしまうと、コミュニケーション能力は向上していかない。昨今の販売員が自己主張、つまり会社案内や商品PRはできるが、相手とのコミュニケーションが下手であるのは諸々の環境も影響している。

それでも販売員はコミュニケーションを通じて、新たなニーズを発見していかなければならない。ニーズを発見するには、相手が話してくれなければならない。話してもらうには、質問しなければならない。知りたいことを矢継ぎ早に聞けばいいというものではない。相手の表情・態度・状況を読めなくてはならない。わずらわしい人間関係を克服してきた販売員は、相手の態度や表情を読んで、聞き易い状態であることを察知したら間髪入れずに質問するであろう。

その状態とは、まず(1)相手が機嫌のよい時である。誰でも機嫌のよい時は許せる範囲が広くなるから多少のことは答えてくれる(2)相手が借りを返したがっている時。人は好意を受けると何かで返したい心境になる。だから販売員が相手から感謝されるような行為をした時である。例えば商品に関することで問い合わせを受けて、それに対応した時や要求された資料やサンプルを持参した時なのである(3)生産中止品があって、それらの予告に訪問した時である。

これなどは相手からいろいろな情報をとる絶好の機会であるのに、相手からの質問攻めにあって対応に大わらわとなる。どこに使っていたのか、どんな条件で使っていたのか、なぜ使っていたのかなど、聞くことはたくさんあるのに代替え機種の対応で大わらわになってしまうのは、相手の状態を真に読もうとしないからである。
(次回は2月23日掲載)

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