ディップスイッチの需要が拡大している。デジタル関連機器の需要増が追い風になっており、ディップスイッチ各社の生産も高水準の状態が続いている。機器の小型化に対応して、形状の小型・薄型化による高密度実装化ニーズへの対応が進んでおり、品質とコスト競争も強まっている。デジタル化がますます進展する中で、ディップスイッチの市場も堅調な拡大が続きそうだ。
機器のプログラム設定、回路切り替え、及びチェック用などで主に使用されるディップスイッチは、機器本体内部に組み込まれることが多く、一般的には機器の表面に出てくることは少ない。このところのデジタル機器の普及に伴い、使用個数は増加傾向となっている。他の操作用スイッチがタッチパネルやプログラマブル表示器などとの競合が懸念される中で、ディップスイッチは一線を画した使われ方から、比較的影響を受けないスイッチとなっている。
国内の市場規模は80億円前後と見られているが、リーマンショックによる落ち込みからは徐々に回復してきており、フル生産を続けているディップスイッチメーカーも多い。特に数量的にはリーマンショック前を超えて、過去最高ではないかとする見方もある。
ユーザーが生産の海外シフトを強める中で、中国、韓国、台湾などのアジア地域への販売が増えているが、欧米向けも比較的多い。
ディップスイッチのメーカーは、日本のほか、台湾、韓国、香港などアジアに有力なメーカーが多く、これらのメーカーとの競争になっている。日本のディップスイッチメーカーも海外生産を強めることで、競争力が高まりつつある。
当初は自動販売機の価格設定用で採用されたと言われるディップスイッチであるが、現在では情報化社会を代表する部品のひとつとして、パソコン、携帯電話といった情報・通信機器や放送・映像機器、金融端末機器、計測機器、自動販売機などで、プログラム設定や回路切り替えなど数多く使用されている。
最近は機器のエレクトロニクス化傾向で、従来は押しボタンスイッチなどを使って操作していた配電・制御機器などにおいても、微小電力化対応からディップスイッチなどで設定する方向に変わりつつあり、市場拡大に繋がっている。
ディップスイッチは、プリント基板上の狭いスペース内に取り付けられることが多いため、機器の小型化と並行する形で形状が年々軽薄短小化する方向にある。限られたプリント基板のスペースに、ほかの電子部品と一緒に高密度実装化を図る上で、形状は機種選定上の大きなポイントとなる。
ディップスイッチは、操作部の形状によってスライド型、ピアノ型、ロータリー型、レバー型、押しボタン型など多種な方式が用途によって使い分けられている。
一般的にスライド型が全体の7割前後と最も多く使われており、極数は8極と4極が多い。しかし、メーカーによっては小口ユーザーの要望に応えるため、ローコストタイプのスライド式ディップスイッチなどで、5極、7極など奇数極タイプをそろえているところもある。
ディップスイッチは、搭載する機器によって操作頻度が極端に異なり、また機器を使用する場所によっても特性が変わる恐れがあることから、ディップスイッチメーカーはどんな使われ方をしても確実な切り替えができるように、各社が独自の接触方式で信頼性を高めている。
ディップスイッチメーカーの塩水噴霧試験では、周囲温度50℃で、塩水濃度5%の雰囲気中に48時間放置して行っている。この状態で、接点部に錆などによる接触不良が起きない品質が求められている。
これをクリアする方法の1つがセルフクリーニング機構で、操作時に接点部も同時にクリーニングすることで接触不良を解消している。
さらに、微少電力用途などに対して、接触部が経年変化しない耐性処理が施されたものもある。
こうした方法は、プリント基板にはんだ付けして使うディップスイッチのフラックス除去時の洗浄液による接触不良の解消にも繋がっている。同時にディップスイッチ表面にテープを貼ってフラックスの浸入を防ぐといった手間も省けるようになった。
ディップスイッチは、プリント基板上に半導体、コンデンサー、抵抗などといった、ほかの電子部品と一緒に混載されることから、国際標準格子間隔(2・54ミリ間隔、φ0・8~1・0ミリ取り付け孔)で設計され、自動はんだ実装機によって取り付けられることが多い。
しかしその後、ディップスイッチの小型化へさらに拍車をかけた技術がハーフピッチ(1・27ミリ)タイプの開発である。従来(1インチ)の半分のスペースを実現したディップスイッチの登場で、機器への実装密度は急速に高まったと言える。ピアノタイプや、押しボタン型、シーソ型などを新たに投入するメーカーが目立つ。
最近は、ハーフピッチ(1・27ミリ)も、スライドタイプに加え、ピアノタイプや押しボタンタイプなどバリエーションが拡大している。押しボタンタイプは、上から押すだけで操作できることから、奥まった狭いところにも取り付けできるのが特徴で、スペース効率がさらに向上する。シーソ型では、操作性を良くするために、表面に溝とストッパーをつけることで、確実な切り替えを実現した機種も開発されている。
最近は機器全体の小型化傾向から、ディップスイッチの取り付けスペースも制約を受けることが多く、小型化が著しい。ハーフピッチサイズの端子を採用したディップスイッチの需要も拡大しており、ディップスイッチの主流になって来ている。薄型化も著しく、ハーフピッチで高さ1・45ミリといった、体積比でも従来比約半分と、さらに高密度実装が可能になる。
ディップスイッチがD(デュアル)でON―OFFの切り替えで使用するのに対して、ディップスイッチの片側部分のみで、1極がコモン端子を持つ形状のSIPスイッチは、スペースが2分の1になる。
当然のことながら、その分の実装スペース性が向上し、機器の小型・軽量化に繋がる。こうしたディップスイッチの小型化を支えている成形材料の改良、実装技術の進歩なども見逃せない。
さらには、環境有害物質を使わないこととの両立も重要で、例えば、ディップスイッチを基板に実装する際に、従来は接続の信頼性に優れる鉛入りはんだを使っていたが、リサイクル面も含めた環境への配慮から、鉛が入っていなくても、同等以上の信頼性を確保できるはんだ技術を確立している。ディップスイッチ本体材質も熱可塑性樹脂を採用するなどして、はんだからの耐熱対策をとっている。
特に、リフローはんだ付けにおいては、はんだ温度の260℃まで耐える必要があり、これに対応できる製品にするためには、素材の樹脂を変更することが求められ、金型の改良も必要になる。
スライドタイプのディップスイッチに対して、ディップロータリースイッチも需要が増えている。正角形状のスイッチに、時計の文字盤のように数字、及び記号が記名され、回路に合わせてつまみで設定する。
実装方向を操作によって、上からや横からなどが選べる。コードの設定が多様に行えるのも特徴である。
端子ピンの構造では、従来主流であった4×1端子から、欧州で増えている3×3端子を採用するメーカーが目立つ。端子ピンの構造は、一般的にシェアの高いディップスイッチメーカーの製品をベースにして、製品設計を行うユーザーが多いといわれている。
そのほか、抵抗やダイオードなどを内蔵した複合タイプのディップスイッチも発売されている。後付けで抵抗やダイオードを取り付ける必要がないため、基板の省スペース化と作業工数の削減につながる。
ディップスイッチは、メカニカル構造による確実な操作ができることから、信頼性も高く、他への代替えの動きも比較的少ない。デジタル機器の普及拡大は、今後も確実に継続するだけに将来への期待も大きい。
今後グローバル市場を見据えて、量産化と最適地生産を睨んだディップスイッチメーカーの販売戦略が一層強まることが予想される。