1、現状
情報サービス・ソフトウェア業は、企業や個人が利用するソフトウェアの開発などを主な事業内容とする知識集約型産業である。近年、経済社会システムは、ソフトウェアへの依存度をますます強めており、あらゆる産業分野においてソフトウェアは競争力の源泉として機能し、社会基盤にとって不可欠の存在となっている。
我が国情報サービス・ソフトウェア産業は、小幅ながらも成長を続け、2008年の売上高はおよそ20兆円と、米国、英国に次ぐ世界第3位の規模となっている。情報サービス・ソフトウェア産業の売上高のうち、ソフトウェア業は74・6%を占めており、その内訳は、特定のユーザーからの受注によりオーダーメイドで開発される「受注ソフトウェア開発」(86・8%)と、不特定多数のユーザーを対象としたレディメイド、またはイージーオーダーで開発される「ソフトウェアプロダクツ」(13・2%)に大別され、受注ソフトウェア開発が主力を担っている。
2、我が国産業の強みと弱み
(1)強み
携帯電話、デジタル家電や自動車などの組み込みシステム機器は、高機能かつ高付加価値製品として我が国産業が国際競争力を有する分野である。これらの機器の付加価値の源泉といえる機能の多くは、そこに組み込まれる「組み込みソフトウェア」によって実現されている。
現在、組み込みシステム機器の開発費における組み込みソフトウェアの割合は約50%と大きな割合を占めており、組み込みシステム機器の国際競争力は、その高い機能を実現する組み込みソフトウェアによって支えられているといえる。
(2)弱み
我が国情報システム系のソフトウェア産業は、日本語及び日本の商習慣の壁の中で、主として世界第3位の規模を持つ国内市場での競争を念頭においた企業活動を行ってきた。このため、我が国ソフトウェア産業は、標準化されたソフトウェア製品を、世界に向けて提供するビジネスのノウハウが不足している。
また、ソフトウェアの利用局面が広がり、ユーザーニーズが多様化・複雑化する中で、他方ではソフトウェアの平均的な開発期間が短縮していることから、開発プロジェクトの失敗による追加的コストの発生やシステム障害トラブルなどが問題となる事例が少なからず発生している状況にある。
3、世界市場の展望
情報システムを利用して競争力を高めようとする企業や、デジタル家電や自動車などの組み込みシステム機器を提供する企業にとって、ソフトウェアの重要性はますます高まり、ソフトウェア産業の世界市場は引き続き拡大すると見られている。特に、中国やインドを始めとするアジア地域におけるソフトウェア市場が大きく拡大すると見込まれている。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
ソフトウェアの大規模化・複雑化・短納期化に対応し、我が国ソフトウェア産業が一層の発展を成し遂げるためには、高品質なソフトウェアを効率よく開発するソフトウェア・エンジニアリングを強化することが必要である。ソフトウェア開発の手戻りによるコスト増やソフトウェアの不具合によるトラブルを防ぐことは、ソフトウェアを開発するソフトウェア産業のみならず、それを利用するユーザーの競争力にとっても重要である。
また、ソフトウェア分野における高度な専門性を有する人材を育成するため、産業界と大学等との一層連携した取り組みが期待される。さらに、クラウドコンピューティング時代の本格的な到来に向けて、技術開発・標準化、制度整備、データセンタの立地促進、実証事業の推進、大企業のみならず中小企業ベンダの競争力強化等に取り組む必要がある。また、我が国の中小企業が積極的にIT活用を行うための戦略的IT投資に対する税制面での優遇措置も重要である。
(2)アジア等グローバル戦略
中国、インドを始めとするアジア地域は、これまで主にソフトウェア開発の効率化のためのオフショア調達先として考えられてきたが、アジア地域のソフトウェア市場が成長すると見込まれていることから、今後は、これまで築いてきたアジア地域における企業とのアライアンス関係を強化するとともに、新たなビジネスパートナーの発掘を進め、積極的にアジア市場を開拓していくべきステージに立っていると考えられる。