1、現状
デザイン産業の市場規模は、2004年サービス業基本調査(総務省)及び05年国勢調査(総務省)より推計すると、約2兆2000億円といえる。デザインが関係する領域は多岐にわたり、手工芸品・宝飾品から工業製品、ポスター・パッケージ、博物館、展示場などの空間設計なども含まれ、公共的なものとしては観光地などの案内表示も含まれる。
我が国には約16万5000人のデザイナーがおり、その内訳は、企業に所属する「インハウス」デザイナーが約10万人、デザイン事業所などに所属し、個別に活動を行う「フリーランス」デザイナーが約6万5000人である。
08年特定サービス産業実態調査によるとデザイン事業所のうち、7割強がグラフィックデザインを行う事業所であり、インダストリアルデザインを行う事業所は9%弱である。デザイン事業所は小規模なものが多く、10人未満の事業所が全体の9割を占め、そのうち5人未満の事業者が8割弱を占める。
なお、デザインの領域は、表面的に視覚でとらえることができるデザインだけでなく、例えば、企業等のブランド形成を目指した戦略的な取り組みや、五感を満足させる生活環境の提案、サスティナブルデザイン・エコロジーデザインなど視覚では見えないデザインへと拡大をしており、この傾向は今後更に進展していくと考えられる。
2、我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国のデザイン産業は、国際的にもデザイン力が高いと言われており、海外の有名な自動車や高級家具などのデザインを我が国出身のデザイナーが行う例も数多く見られる。また、我が国デザイナーの約6割がインハウスデザイナーであることから、企業が持つ高い技術を活かした製品のデザインや、将来開発される自社技術に合わせたデザインをいち早く行うことができる強みがある。近年ではさらにユニバーサルデザイン(年齢や能力に関わりなくすべての生活者に対して適合する製品などのデザイン)のような、人にやさしく使いやすいデザインに対する取り組みが各地で広まりつつある。
(2)弱み
我が国では全体的にデザイン部門の企業内での位置付けが相対的に低く、技術部門・営業部門の要望が優先される傾向にある。企業経営者自らがデザインの重要性を認識し、取り組みを進めることが、デザインの領域が拡大していく中で強く求められている。
現在はデザインに人材や資金を投入し、成功している企業も見られる一方、社内でデザイナーを育てる経営的余裕がなくなり、即戦力となるデザイナーを社外に求めつつある企業も増えている。それに対して人材を供給する大学などデザイン教育機関における対応が十分ではないとも指摘されている。また、特にフリーランスデザイナーは企業との取り引きにおいて、企業のデザインに対するコスト面などの理解不足から、不利な契約や取り引きを強いられる例も見受けられ、その是正が求められている。
3、世界市場の展望
デザイン産業は、工業製品や広告等に活用されるだけでなく、ウェブデザインやインターフェースデザイン、空間デザインなど、様々な領域が広がり需要が拡大することが見込まれる。近年では、デザインの先進地域である欧州に加え、アジアの国々でもデザイン産業の振興に力を入れている。英国では、デザイン産業を輸出産業として育成するため、デザイナーの海外進出を積極的に支援し、デザインの年間輸出額は10億ポンドを超える。
また、中国は、デザインを「新資源」と位置付け、デザインの教育機関を増設するなど国家戦略としてデザイン振興を行っている。現在の、主にアジアを中心とする経済成長を鑑みると、我が国にとってもデザインの市場の拡大が期待される。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
07年5月に、生活者の感性に働きかけ共感・感動を得ることで顕在化する商品・サービスの価値を、「感性価値」として着目し、日本の強みを活かしながら、我が国産業の競争力の強化と生活の向上のために産学官が一体となり取り組んでいくべき事項を、「感性価値創造イニシアティブ」として取りまとめた。既存の企業努力と政策に加えて、より一層の産業の競争力強化、経済の活性化を図るためにはデザインの戦略的活用が重要であるが、我が国産業においてデザインの重要性が十分に認識されているとは言い難く、企業・教育分野・一般消費者などの立場に関わらずデザインの有用性についての理解を進めていくために、この「感性価値創造イニシアティブ」を核にして、関連の取り組みについてより一層の推進を図る。
また、我が国の強みでもある人にやさしいものづくりを推進するため、人間工学・人間生活工学の活用に関する長期的戦略を取りまとめるとともに、製品の設計・開発の基盤となる人体寸法などの人間特性データの利用促進に向けた取り組みを進めている。さらに、子どもの安全、安心と健やかな成長発達につながる生活環境の創出を目指したデザインである「キッズデザイン」を推進するため、子どもの事故情報や事故原因分析の知見が新たな製品開発や業界基準の策定などの予防対策の取り組みへと循環されていく安全安心な社会環境の整備を進めている。このように、我が国の強みを生かしつつ、デザインの有用性について理解を深めるとともにデザイン保護法制の整備、人材育成など必要な環境整備を進めている。
(2)東アジアなどグローバル戦略
成長するアジア中間層の市場において、日本がデザインの潮流をけん引し、市場を獲得することが必要である。そのためには、日本のデザインの認知度や優位性を高めるとともに、日本人デザイナーの積極的な海外進出が重要となっている。このため、経済産業省では、07年度からタイとの間で日本のグッドデザイン賞との連携制度の構築を進めてきた。日本の最新デザインが集結するグッドデザイン賞の海外展開は、日本のデザイン及び製品の海外展開促進に大きく寄与する。