続・大競争時代の宿題歴史から学ぶ新たな戦略 ニーズ情報収集できる販売員育成を 黒川想介

案件という言葉を辞書で調べると「問題となっている事柄」とか「審議しなければならない事柄」と載っている。昨今、営業では、案件という言葉がよく使われる。販売会議の席上で飛び交う案件という言葉は、売り上げになるかもしれない客先情報として使われている。「当月はあまり案件が出なかった」「いい案件を頂戴できなかった」などのように案件とは、客先から問い合わせや相談を受けた情報の件名のことである。

同じように売り上げになるかもしれない客先情報で、客先ニーズという言葉がある。このニーズという販売用語は「ニーズが見つかった」「面白いニーズを発見した」などのように使う。案件は頂戴する件名情報であり、ニーズは売れる物を発見したという情報である。同じ情報でも、受動と能動の違いがある。

昨今の販売会議では、圧倒的に案件情報の報告が多いが、ニーズ情報は極端に少ない。案件情報もニーズ情報も、景気の良し悪しに影響される。大きく左右されるのは、当然案件情報である。ニーズ情報は能動的なるが故に、景気によって左右されることは少ない。

孫子の兵法の用間篇では、情報活動がいかに重要かを記している。曰く「百金を惜しみて敵の情報を知らざるは、不仁の至りなり」とは、実際戦争になったら莫大な費用がかかる。その勝負に勝つのに、スパイの費用をだし惜しんで敵の実情を知ろうとしないのは、まったく国の民衆に対して思いやりをもっていないことだ。

民衆の税で戦争をやるのだから、勝つためにスパイが使う費用をケチってしまい情報活動を中途半端にすることは結果的に、不仁、つまり民衆に対する思いやりがないという意味である。
古今東西の戦史を見ても、敵の実情を的確に掴んだ方が勝っている。味方の装備の重要さと同じぐらい間諜(かんちょう)、スパイが重要な役割を果たしている。大軍で攻める場合でさえ、スパイがもたらす情報を頼って行動している。まして劣勢な軍においては、スパイのもたらす情報の方が重要だということである。だから情報収集やスパイによる裏工作に金を惜しんではならないと、孫子の兵法が記しているのは当を得た名言である。

このフレーズを現代の販売員の行動として解釈すると、「百金を惜しみて」というのは販売員が時間を惜しんでということになる。販売員は案件情報処理、商品PRや受注処理で忙しいという理由で、情報収集活動をする時間が少ないという言い訳はやめなければならないということになる。「敵の情報を知らざるは」は、顧客全体のことや部門や技術者個人の仕事のことなどを熟知する努力を怠ればということである。つまり眼前にあるおいしい話のみで行動するなということである。

「不仁の至りなり」とは、会社を潰しかねない。あるいは縮小均衡の小さい会社のままにしてしまう。言い変えれば、給料は相対的に少なくなっていくということになる。総じて言えば、相手が提示してくれる案件情報のみに頼っていると、いずれ相対的に縮小してしまうのでニーズ情報収集に時間をかけ拡大路線に乗らなければならないということになる。

顧客から用件以外の話を引きだすことができる販売員は、ニーズ情報収集ができる販売員だ。そのような販売員になるには、たくさんの顧客に会って、いろいろな話をしてもらうことに尽きる。

そうすれば顧客の話についていけるようになり、嗅ぎわける力もついてくる。

(次回は3月9日掲載)

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