14日に発表された2010年の国内総生産(GDP)によると、日本は米国に続く世界2位の地位から3位に転落したことがわかった。42年間掲げてきた「世界第2の経済大国」の看板をついに中国に持っていかれたわけだが、この事実はある意味仕方がない。年率10%前後の成長を続ける中国との比較では、成長力が違いすぎる。世界の資源を大量に消費し続けている中国に対し、バブル崩壊から15年以上も足踏み状態なのだから逆転は時間の問題だった。順位を争っても仕方がない。成熟しきった日本は、これからは総生産高を競うのではなく、製品やサービス、強いては生活の豊かさモデル国としてのリーダーを目指していけばよいと思う。国が停滞気味なら製品も同じ、何もない時代から高度成長期を経てついこの間までは普通に売れていたものであっても、これからも売れる保証は全くない。
先日、千葉県柏市にある会社を訪問し現場を拝見、会長の話を聞き目から鱗が落ちた。
一代、わずか42年で売上高150億円の会社に作り上げたその軌跡をたどると、絶えず何かにチャレンジし、今もなおそのチャレンジ精神は留まるところを知らない。60年代後半、建築現場の作業環境を改善する目的で起業した現会長は、現場用コンテナバス(風呂)の製造販売の開始をきっかけに、建設現場の仮設事務所「ユニットハウス」を開発した。空間を折りたたんで目的地に運ぶことができる折りたたみ式ユニットハウスは、性能も機能も当時のプレハブを大きくしのぎ、爆発的に売れたという。
その上、生産―レンタル―中古販売の循環型ビジネスモデルを形成することにより、確固たる業界での地位を築き現在に至っている。しかし同じタイプの製品供給や従来のビジネスモデルに頼るのではいけないと考える同社の挑戦は留まらず、そのユニットハウスに付加価値をつけることに注力、新たな商品化を実現中である。ひとつの仮設事務所を複数つなげたり切ったり、また部材を変えるなどしてあらゆる用途に使用できる「モバイルスペース」に変化させることによって、ユーザーの対象を大きく広げることに成功している。ユニットなので横に縦に繋ぐことにより巨大な空間の万博会場にしたり、デザインをおしゃれにすることで店舗にしたり、折りたたんで簡単に運べ数時間で設置できる建物は被災地の仮設住宅にもなったりする。またイベント会場や都心のギャラリー、財源の乏しい小規模ベンチャー企業のリースオフィス、移動型住居スペース、トランクルームなど実にいろいろな用途として活躍している。スピーディで手軽、ローコストな仮設事務所は、今では時代にマッチした「モバイルスペース」としてその用途は限りない。また、従来ではユーザー自身でエアコンを取り付ける面倒さがあったが、一括装備ですぐに利用でき、利便性も向上させている。
奇抜でなくとも、こういったちょっとした気づきによる改良は、案外あるようでないものだ。また、販売形式も新品、リース、中古品とユーザーのニーズに対応。リースから戻ってきた製品をリメークして販売するなど、資源としても全く無駄がない。その上、実に面白いことにGreenRoomと名付けられたスペースでは、特殊技術により野菜を作る農場にもなっている。これがあれば、砂漠でも寒冷地でもおいしい無農薬野菜を食することができるのである。なんという発想であろうか。40数年作り続けたユニットハウスが価値や用途を広げることにより、全く違う製品へと変化する。これぞ日本人の知恵と技術の賜物であろう。既存製品の進化、付加価値の付与、リユース・リメークといったサービス方法の柔軟化はどの分野においても参考になる。
単に大量にものを作り消費していく国「日本」の成長は終わったが、今ある製品の改良と用途の拡大による日本人らしさの発想は、まだまだ世界に受け入れられると確信する。
(シュピンドラー株式会社
代表取締役シュピンドラー千恵子)