1、現状
我が国の医薬品市場規模は約8・0兆円にのぼり、世界市場の約10%を占め、米国に次いで第2位である。市場規模は、国民医療費が増大する一方、国民医療費に占める薬剤比率は、ここ10年間、ほぼ横ばいで推移している。
厚生労働省「薬事工業生産動態調査」及び「医薬品産業実態調査」によると、医薬品企業の構成比は資本金1億円以上の企業が全体の半数を占めており、資本金50億円以上の企業が約17%となっている。医薬品売上高の集中度をみると、上位5社で40%、上位10社で54%、上位30社で77%を占めており、集中度は増加傾向にある。また、医薬品製造業の従業者数は2007年度で15・9万人である。
我が国の医薬品産業においてM&Aは、これまであまり行われてこなかったが、近年、国内売上高上位の企業同士のM&Aの動きがみられる。
2、我が国産業の強みと弱み
(1)強み
我が国の製薬産業は、完全長cDNA、SNPs、タンパク質、糖鎖などの研究や治療や予防に関する基礎研究部門に国際競争力を有している。今後、臨床研究体制の整備が進めば、バイオテクノロジーの医薬品分野への実用化の進展による国際競争力の一層の向上が期待できる。
(2)弱み
国際市場では、この数年間で世界売上高上位20位に入る企業の大半が合併し、企業規模の拡大による競争力の強化を図っている。多額の研究開発投資を継続するためには、ある程度以上の企業規模が必要となる。一方、我が国においては同程度の中規模企業がひしめいており、研究開発力の相対的低下が懸念される。
3、世界市場の展望
今後は、産業活動も国家単位ではなく、世界市場の中でボーダーレスに展開することが重要である。特に医薬品産業においては、各国でしのぎを削って行われているバイオやゲノムなどの最先端の研究成果をいかに効率良く利用し、いかに迅速に臨床開発を行い各国で医薬品として承認を取得し、販売活動を拡大し収益の最大化を図るかが、極めて重要である。実際、世界の売上高上位製薬企業の大半は、研究開発や販売等の事業活動をボーダーレスに展開しており、世界同時発売・販売の新薬も誕生している。
4、我が国産業の展望と課題
(1)今後の競争力強化に向けた対応
イノベーションの創出と産業の国際競争力強化に係る諸施策の方向性について、産官学のトップが認識を共有することを目的として、厚生労働大臣主催による「革新的創薬のための官民対話」が行われてきた。
08年4月には、「先端医療開発特区(スーパー特区)」を推進するため、新たに科学技術政策担当大臣及び医療機器業界の参画を得て、同対話を発展的に改組し、「革新的創薬等のための官民対話」を開催した。同官民対話では、「革新的医薬品・医療機器創出のための5カ年戦略」について、「スーパー特区」の推進や医療機器の審査迅速化のための施策を盛り込み、一部改定を行った。今後も、引き続き官民対話の場において、「5カ年戦略」について必要なフォローアップを行い、着実な実施に努めることとしている。
(2)東アジア等グローバル戦略
近年、大手企業は海外進出に力を入れており、我が国主要企業の総売上高に対する海外売上高の比率は伸びている。また、海外売上高比率の伸びた企業の多くは総売上高も比例して伸びている。国内での売り上げが伸び悩む中、海外での医薬品の研究開発・販売戦略をどのように進めていくかが、我が国製薬企業の成長のポイントとなっている。
今後著しい経済発展が期待されるアジア各国は、医薬品の開発や販売に関して魅力的な市場になる可能性が大きいが、我が国と地理的・民族的に近い関係にあり、我が国企業の積極的な事業展開が期待される。