製造業において労働安全対策への取り組みが進んでいる。厚生労働省が発表した2010年(1~12月)の労働災害事故による死傷者数の速報値は、全産業で前年比2・6%増の8万4968人と増加したことも背景にある。とりわけ機械安全対策は国際的な法律面の整備もあり、取り組みが急務となっている。主な対策として、現場で働く人の安全意識の向上とともに、ミスなどによるうっかりした誤操作でも事故を防げるような対策が施されている。こうした背景には企業の社会的責任(CSR)の一環として、事故を起こさない企業風土の創出も求められる社会的変化の影響も大きい。製造業はようやくリーマン・ショックから立ち直り、設備投資も回復傾向に向かっており、安全対策機器市場も再び拡大基調に向かいつつある。安全対策もハードウェアを中心としたメカニカル的要素から、ソフトウェアなども含めた電子式の安全対策機器が増加するなどの変化を見せている。防犯・防災、情報セキュリティ、製品安全という分野でも、対応する安全対策機器が多様化を見せている。
厚生労働省よると、10年1月から12月までの国内の休業4日以上の労働災害死傷者数は、全産業で8万4968人と、09年比で2119人(2・6%増)増加している。製造業は1万8382人(構成比21・6%)で、34人(0・2%増)増加となっている。
しかし、ここ数年労働災害の死傷者数は減少傾向が続いており10年の速報では、鉱業分野が前年比14・0%減の240人、港湾荷役業分野が同6・7%減の167人、建設業分野も同0・4%増の1万6985人に留まっている。一方、機械安全対策機器があまり対象とならない交通運輸業は7・1%増の1571人となっている。
従来、日本の機械安全対策は欧米に比べ大きく遅れていたが、それを大きく変えたのは、01年6月1日に厚生労働省から出された「機械の包括的な安全基準に関する指針」だ。罰則規定こそなかったものの、工場など製造業での安全対策を推進する上で大きなきっかけになった。
さらに、06年4月には労働安全衛生法が改正され、安全対策に関する記述が追加された。この追加の中では「危険性・有害性等の調査及び必要な措置の実施」として、リスクアセスメントと必要な安全対策措置が努力義務と定義付けされた。
同時に、「安全衛生管理体制の強化」として、各企業に安全衛生管理員の配置が義務付けられ、危険性・有害性などの調査や安全衛生に関する計画の作成・実施・評価・改善などの有効性を議事録に残すことも義務付けられた。
07年7月には厚生労働省から、機械のリスクアセスメントの具体的な指針が改正され、この実施を求める通達が関連団体に出されている。この動きと前後して、03年11月に国際安全規格ISO12100が発効。これをベースにしたJISB9700が制定されたことで、安全規格の国際整合化が実現した。
これまで、日本の生産現場では事故を減らすためには、それぞれの工場で安全に作業を行うための訓練や教育を徹底するという考えが主流であった。いわば、事故があった時の責任は主に機械や装置利用者にあったといえる。
しかし、欧米の考え方は「人は間違える、機械は壊れる」というのが根底にあり、従って日本が「災害ゼロ」を目指しているのに対して、欧米では「危険ゼロ」を目指すというところに大きな考え方の違いがある。
欧米の安全対策が進んでいるのは、前述の安全に対する考え方の違いに加え、日本に比べ多民族国家で言語なども異なることから、意思や言葉が通じなくても危険な作業が安全に行われているように機械や法律的な整備が行われていることもある。
世界共通の安全ルール
・対策の導入が必要
日本でも、熟練作業者の減少やパートタイマーや派遣労働者、言語・文化の異なる外国人作業者の増加など生産形態が変わりつつあり、そういった意味で世界共通の誰でもわかる安全ルール・対策の導入が必要となっている。
最近は、制御機器商社が顧客からの安全に関するテーマの相談を受けて、安全装置の開発をセンサーメーカーに依頼する動きも出るなど、商社も安全への取り組みを積極化している。
安全対策機器市場は、リーマン・ショックによる設備投資減少の影響を大きく受け、日本電気制御機器工業会(NECA)の会員を中心にした安全機器の自主統計では、08年の月ベース10億円超の出荷から、09年は30%ほど減少したが、昨年からは回復傾向を見せており、月ベースの出荷も12億円前後まで回復している。
世界的に見ても回復傾向を見せており、世界の市場規模は1200億円ぐらいまで回復しているものと推定される。
こうした中で欧州の機械指令が改定され、09年に施行の予定が11年12月31日まで先送りされた。EN954―1からEN
ISO13849―1への移行で、欧州に輸出する機械・装置の安全制御回路は、ISO13849―1〓2006への対応が求められことになっていた。従来のISO13849―1〓1999は、「カテゴリー」で安全制御システムを評価していたが、改定後は「PL(パフォーマンスレベル)」で評価することになる。この背景には、安全関連の制御システムを構成する部品がメカニカル部品から半導体などの電子部品に移行し、制御の方法もハードワイヤからソフトウェアによるロジックに変わりつつあることがある。
今回の改定では、カテゴリーの概念を基本に残しながらも、IEC61508の「機能安全」の概念である信頼性や品質も取り入れることで、リスクの見積もり方法も変化することになるが、リスクアセスメントを実施するうえでは、分かり易くなっている。
しかし、新規格移行に合わせた設計変更に伴う準備期間が足りないと言う機械メーカーの声や、急速な景気悪化の影響なども加味し、移行が延長された。延長期間中は、新規格(EN/ISO
13849―1及びEN/IEC
62061)とEN954―1の併用が認められることになっている。
07年7月の厚生労働省からの機械のリスクアセスメントの具体的な指針改正は、きちんとしたリスクアセスメントを行うことを求めている。リスクアセスメントは、機械、作業の危険源はどこなのか、それを安全にするためには何をするべきなのかを探すことで、それに基づいて危険源を一つひとつなくしていくことで、安全な機械、安全な作業を確保できることに繋がる。