PLC(プログラマブル・コントローラ)の市場がリーマンショック前の水準に戻りつつある。アジア市場を中心とした外需が大きく伸長したのが、大きな要因。半導体・液晶製造装置を始め、工作機械、自動車製造関連、電子部品実装などの設備投資が増加しており、加えて環境関連や社会インフラ関連も堅調な拡大を見せている。製品的には、小型・高機能化と処理スピードの高速化、さらにはイーサネット通信への対応などが意欲的に取り組まれている。また、C言語対応のPLCも浸透しつつある。こうした機能面の向上が、一層使い易さを増して市場拡大に繋がっている。今後も、グローバル市場での需要増が見込まれる。
日本電機工業会(JEMA)がまとめている産業用汎用電気機器の出荷統計によると、PLCの2010年(1~12月)実績は、1302億7100万円で、前年比60・3%増と大幅に伸びている。このうち輸出は、548億5200万円で同100・8%増と倍増で外需の力強さを示している。JEMAでは10年度(4~3月)の出荷見通しを25・9%増の936億円としていたが、これを上回るのは確実で、11年1月の出荷も105億2400万円(同20・3%増)と100億円台を維持しており、堅調な増加を見せている。11年度の出荷見通しは11日に発生した東北地方太平洋沖地震が、今後の需要にどのような影響を与えるか見極めが現時点では難しいものの、依然新興国を中心とした外需が堅調に拡大していることから、プラス成長を続けるものと思われる。
PLCの需要は自動車、工作機械、ロボット、半導体・液晶製造装置などでの設備投資抑制が大きなダメージとなって落ち込んだが、これらの産業はいずれも回復基調になっており、加えてスマートフォンやタブレットPCなどが新市場となって、電子部品実装機など新たな需要を創出してPLCの出荷増に繋がっている。
さらに、社会インフラ関連や環境・省エネ関連もPLC市場の需要拡大に貢献している。社会インフラ関連では、高速道路の監視システムやごみ処理施設の制御などでPLCが活用され、環境・省エネ関連では太陽光や風力などの新エネルギー関連や電池関連、さらにはスマートグリッド関連での需要も期待されている。
一方、海外は中国を中心としたアジア市場が大きく拡大している。日本で好調な半導体・液晶製造装置に加え、自動車設備や工作機械関連も堅調に推移しているほか、情報通信や省エネ・新エネ関連、ビルのエレベーターや空調制御といった社会インフラ整備に伴う需要も大きなウエイトを占めている。
このようにPLCは機械・装置の制御用のコントローラから用途・機能が広がり、PA(プロセスオートメーション)制御領域やパソコンの領域までカバーし、PLCの持つ信頼性の高さ、長期間の製品供給体制確保といった使いやすさへの評価が定着しているといえる。
この評価が素材産業向けで、PLCをDCSからの置き換え用に使うPLC計装として用途を拡大している。DCSに比べコストダウンでき、ユーザー側で自由にプログラムが変えられるのも大きなメリットだ。
最近は少ループ制御に最適なプロセスCPUを新たに開発することで、コストの削減と盤の小型化や設置スペースの削減などに繋げる取り組みも見られる。
計装向けPLCの活用は、今後も一定領域で進みそうだ。
FA分野では、半導体や電子部品、液晶などの生産現場で、さらなる高速化、多品種化、情報化が要求され、これら装置制御を行うPLCや各種装置コントローラの役割は多様化している。装置・設備の制御コントローラでは、シーケンス命令を高速に実行するだけでなく、「モータ制御」「温度制御」「情報化に向けたネットワーク」といった装置・設備を取り巻くあらゆる処理で高機能・高精度化を要求されている。中でもプログラミング言語の多様化ニーズは高い。電気技術者にはC/アセンブラー、機械技術者にはラダー、生産技術者にはBASICといったように、得意な言語で記述できるような配慮が進んでいる。この場合、高速処理はラダー、浮動小数点/文字列演算はBASIC、HMIはAT互換といった用途に合わせた選択も可能になってくる。
このうち、C言語搭載のコントローラが注目されている。半導体や液晶製造分野などで良く使われているマイコンボードやパソコンベースのC言語環境を、PLCで実現できるのが大きな特徴で、リーマンショックで大きく落ち込んだPLC市場の中にあって、C言語コントローラやPLC計装などの分野は落ち込み幅が少なかったというPLCメーカーもあり、PLCの持つ長期安定供給体制が、マイコンボードなどの生産中止に伴う供給不安を解消し、専用開発ツールとして最大限開発に集中できるメリットがある。特に、公共関連分野では支持する声が多いようだ。
IEC61131―3に基づいたストラクチャードテキストなどを使うことで、パソコンが適さない用途・現場でもPLCを使いこなすことが可能になる。
IEC61131―3は、産業用オートメーション分野の合理化につながるものとして、欧州を中心に普及が進んでおり、日本でもJIS規格化(JIS
B3501―3503)されている。
PLCの外需が大きく伸長する中で、内需拡大のひとつとして取り組まれているのが、PLCのリニューアルだ。最近のPLCは小型・高機能化が進んでいることから、リニューアルで使いやすさが増すのは確実ではあるが、投資負担を敬遠するユーザーは、この理由だけではなかなかリニューアルに踏み切らない。
しかし、工場設備全体の省エネ化に繋がるという提案でのリニューアル化には、比較的抵抗が少ない傾向にある。特に省エネ・コストダウンを意識している国内のユーザーは、PLCをリニューアルして最新の機種で効率を上げようという傾向が強い。PLCのリニューアルを簡単に行えるツールを充実させているPLCメーカーも多く、端子台やI/O機器を手がけるメーカーも、この市場の取り込みを積極的に行っている。
PLCの用途は、生産現場の機械・装置の制御のみならず、生産物個体のデータ管理やトレーサビリティ、エネルギー消費量管理などの点からもPLCの利用が進んでいる。
同時に、PLCに大容量メモリを搭載して、MESインタフェイスユニットの機能をPLCやプログラマブル表示器に持たせる傾向も見られる。
PLCは今後、ソフトウェアも含め「オープン化」と「グローバル化」がさらに進展する。
これらの用途では、生産管理・稼働履歴などのデータを上位システムと交換するケースが多いことから、CPUモジュールにイーサネットモジュールを内蔵して、高機能のネットワークが安価に構築できる取り組みも始まっている。PLC各社の製品は、いまやイーサネットへの対応が標準となってきており、製品のグローバル化とオープン化を加速させている。
イーサネットを含めた、こうしたネットワーク化は、制御と管理データの効率的な運用に繋がるが、これをさらに進めて、工場内にある装置・機械の待機電力を削減しようという提案も始まっている。ネットワークで管理と指令を行うことで、稼働しないでも待機電力を消費している装置・機械の効率的な管理が可能になる。
最近のPLCは、小型化、高速処理化、高機能化が著しい。高速処理化では、基本命令3・75nsを実現した製品が発売されている。
100Kステップを1msで処理できる高速性は、装置の高速化を実現し生産タクトタイムを大きく向上させる。同時に、ネットワークサービスによるスキャンタイムの不安定動作の低減にもつながる。
これに加えて生産現場でのデータ収集、モニタリングを低価格で実現した8点入力タイプのプロセスユニットや、DC24V電源対応オールインワンタイプも新たな用途拡大が見込める。
小型PLCでは、小型・省スペース・ローコストという特徴のほかに、「適切な制御点数、必要な機能が選択できる拡張性、操作性の向上」が市場ニーズとして求められている。さらに、最近では高機能命令やプログラム容量の拡大、さらに入出力点数の増加などの要素も必要になっている。