3.7
保守
これまでに、この資料に述べたように、S/WがFBを用いた階層化設計がされている場合、様々な面で保守の効率が高くなる。
その保守メリットの幾つかは次による。
a)仕様変更またはトラブル原因調査の場合の影響範囲・関連部分を特定する場合
システム改造に伴うS/W変更の場合、その影響範囲の特定が必要になる。
また、システムのトラブル原因調査の場合も該当する関連処理部分の特定が必要になる。
従来のラダープログラムは、1本(または複数本)の長い巻物ように連なった複数の処理を羅列した構造となっているため関連部分の特定の際には、その長い巻物を先頭から追いながら調べていくことがしばしばあった。
また、ある処理を変更した場合にも、処理のら(羅)列からその変更に影響される部分を探し当てることは、とても手間がかかり、また、特定漏れを引き起こすことがあった。
一方、FBによる階層化設計がされたS/Wの場合は、次の特徴をもっている。そのため、保守の効率が高くなる。
・搬送ユニットのようなH/Wの制御は基本部FB、分岐または合流といった機能をまとめ上げているのは応用部FB、運転方案を司っているのは最上部のプログラムと、各部分の責務が明確に整理されているため該当個所の特定が行いやすい。
・また、FB及び変数は直感的に分かりやすく命名され、コメントの記載が手がかりになることから、プログラムの可読性が高く、関係部分が探しやすい。
・S/W構造が階層化されているため、あるFBの動作を点検する場合には、そのFBを構成するFBだけを掘り下げて点検すればよい(トップダウンアプローチによる点検)ため効率がよい。
b)同じ機能を増設する場合
既に作り込んだ機能(処理)をそのままの動作仕様で増設する場合、FBによる実装が大いに効果を発揮する。例えば、搬送システムにおいて、ラインBが既にあり、これと同じラインCを増築することになった場合、ラインBの合流・分岐の制御S/Wを再利用する。
ラインC用に別のFB変数名を付けた“分岐"FB及び“合流"FBを運転方案プログラムに追加する。こうすることで、ラインCはラインBと動作仕様は同じだが、ラインBとは独立に動作する制御S/Wを簡単に増やすことができる。
また、既に“分岐"FB及び“合流"FBが単体テスト済みであるため、ラインC増設時にこれらFBを改めて単体テストを行う必要はない。
c)H/Wの仕様変更に対応する場合
システムの構成機器を別のものに置き換える場合、従来の機器と仕様が異なる場合がしばしばある。
例えば、すべての“切出"搬送ユニットを新しい仕様のものに一括変更する場合は、この“切出"搬送ユニットの制御を担当するFBのインタフェース(入力変数・出力変数・外部変数の種類及び役割)を変えることなくFBの中身だけを仕様変更に対応することができれば、ほかのプログラム部分を変更することなく簡単に機器の置き換えに対応することができる。
また、一部の“切出"搬送ユニットだけを機器変更する場合にも、従来の“切出"FBと同じインタフェースをもち、この機器の変更に伴う新しい仕様の“切出-New"FBを新規追加できれば、該当する“切出"FBを“切出-New"FBに置き換えるだけで対応することができる。
4まとめ
これまで説明してきたPLCアプリケーションプログラムの開発効率の向上に向けた指針のポイントを次にまとめて示す。
PLCユーザ(エンドユーザ、セットメーカ)の課題及びこれらに必要な対策は表11による。
これらのS/W開発手法を実施するためのポイントは、表12による。
これらのポイントを取り入れ、上記S/W開発手法を実践し易い仕組みのひとつに、IEC61131―3(JISB3503)がある。この規格は、世界中のエンジニアが共通の言語でコミュニケーションでき、プログラムの部品化によって効率的にプログラムを生産できるよう規定されたPLCのための国際標準プログラミング言語である。(完)
【日本電機工業会PLC技術専門委員会プログラミング・ツール分科会の「PLCアプリケーションの開発効率化指針」から転載。この連載はhttp://www.jema‐net.or.jp/からダウンロードできます】