現場感覚が大事なことは、論を待たないと思う。現場を知らないで、営業企画をやる人が増えたようだとか、現場を知らないで営業指導をするなどと、営業現場にまつわる話題は絶えない。営業は毎日、市場と向き合い顧客に対応している。その積み重ねが現場感覚をつくっていく。そして、営業が数々の判断や決心をする時に、その現場感覚を作用させている。クラウゼヴィッツは「戦争論」の中で、戦場で起きる様々な情報をできる限りの方法で入手したとしても、欲しい情報や正しい情報の25%ぐらいしか入手できない。75%は藪の中であると言っている。指揮官は、その25%以下の情報で判断を迫られることになる。
その際、指揮官は心の強さと知性といった卓越した物性をもち、培ってきた戦場感覚をフルに作用させ決心をしていかねばならないと「戦場論」は言っている。
営業の現場においても同様に、指揮官は二者択一をしなければならないような重大な局面に立って決心をする時に、できるだけ多くの情報を入手して営業の現場感覚に頼って決心しているはずである。
例えば、売り上げを上げる活動を優先すべきか新たな見込み客の発見活動を優先すべきかなどの決心に迷った時に、多くの情報を入手し、現場感覚をフルに作用させて決心をしている。現場感覚が弱いと、往々にして容易な折中案になってしまう。
戦場では生死を賭した決心をするのであるから、判断材料になる情報を必死で収集する。それでも、不完全な情報による決心の連続が研ぎ澄ました戦場感覚を作っていくのであろう。営業では、生死に代わるものとして責任というものがある。責任を感じ、責任を果たし続けていくことで営業の現場感覚をさらに鋭く磨くことになる。
営業全体の戦略戦術を考える立場と、販売員レベルでは責任の重さや入手できる情報の質量は違う。それぞれの現場があり、その現場からできるだけ多くの情報を集め、集めた情報を分析し、決心していく時に営業の現場感は大事な役目を果たす。もちろん、地位が高く戦場でいう将師の立場にある人は、営業の現場感プラス心強さや知性といった素質も見逃せない。
地位の高低は置いておくとして、営業現場で活動する人々はクラウゼヴィッツの言う通り、欲しい情報のわずか25%の情報で判断しなければならないことが多いので、営業の現場感覚は重要である。
冒頭で、営業は毎日、市場の風を感じ、顧客に対応することで現場感覚を作ると言ったが、漫然と対応していては、それなりの現場感覚しか育たない。若いうちから情報収集に関する基本動作を実践して、顧客から聞き取る力を身に付けることが現場感覚を育てる。情報収集の基本動作とは顧客の仕事、話の内容、話す態度を漫然と見聞きするのでなく、興味をもって意識的に見聞きすることだ。そのためのポイントは、まず1つ目の観察を怠らないことで、興味をもって観察することであった。意識して観察を続けることで集中する力がついてくる。
2つ目のポイントは「愚痴やボヤキに耳を傾けよ」である。真摯に愚痴やボヤキを受け入れていると2つの利点を獲得できる。(1)知らず、知らずのうちに相手の立場に立って聞きとれるようになる。相手の立場に立つことの重要性は誰でもわかっているが、「わかる」と「できる」には大きな差がある(2)愚痴やボヤキの中に隠れた情報を発見できる場合がある。
(次回は4月27日掲載)