操作用スイッチ市場は、国内外の全般にわたる旺盛な需要に支えられ堅調な拡大を見せ、リーマンショック前の状況に徐々に戻りつつある。ただ、3月11日に発生した東日本大震災の影響が今後どのように表れてくるかが課題となっている。3月までは、国内では半導体製造や液晶・ソーラパネル製造装置分野、電子部品実装装置、工作機械・ロボット分野などが牽引し、海外もこれらに加え自動車製造関連や社会インフラ関連を中心に拡大を見せた。製品面では、機器の小型化に対応した小型・薄型・短胴化や、デザイン性、安全性などの向上が図られている。また、照光式ではLEDやELなどが光源として採用が進んでいる。新エネルギーや社会インフラ関連など新市場開拓への期待も高く、震災の影響を乗り越えて拡大基調が続くものと思われる。
日本電気制御機器工業会(NECA)の統計による操作用スイッチの出荷高は、2009年度は前年同期比22・2%減の263億円と2年続けてのマイナスとなったが、10年度は前年下期からの好調を持続し、上期では同63・0%増の184億円、第3四半期も同26・3%増の88億円となっている。下期に入って伸び率が鈍化しているものの前年実績は着実に上回っており、通期では同約35%増の350億円前後が見込まれる。操作用スイッチの出荷額は、最近では07年度の432億円が最高で、それに比較すると約82%の水準と言えるが、リーマンショックの後遺症を着実に克服している。
その矢先の大震災発生は、勢いを殺がれる心配がある。現状、操作用スイッチメーカー各社の生産体制そのものには大きな障害は見られず、物流インフラの回復とともに納期も正常に戻りつつある。ただ、樹脂やLEDといった素材関連のメーカーで震災の影響を受けているところもあり、計画通り生産が行えるかが心配なところだ。
さらに懸念されるのは、操作用スイッチの顧客の動向である。自動車や家電機器では、半導体やコンデンサー、コネクター、電線などが入手難となって、生産が計画通り行われていない。海外でも日本製部品はかなり大量に使用されているが、原子力発電所の事故による放射能汚染問題も絡み、採用が敬遠される事態も予想されている。
しかし、操作用スイッチ各社の中には受注が通常の2倍から3倍入っているところもある。顧客の中には品不足を警戒して当座必要な分に加え、先の分までをいくつかのメーカーに発注していることもあり、実際の需要を掴みかねる状況も生まれつつある。
これから震災の復興に向けた需要が急速に立ち上がることが予想されるが、その時にタイムリーな供給体制がとれるかが今後の大きなポイントとなりそうだ。震災という予期せぬ事態が発生したものの、操作用スイッチの市場にとっては、一時的な停滞は生じるものの、大きなマイナス要因には至らず、むしろ拡大基調に動くものと予想される。
操作用スイッチの需要を支える市場は、総じて堅調な動きで推移しており、震災の影響は軽微と見られる。
半導体製造装置分野や電子部品実装関連分野は、台湾や韓国、中国などアジア地域向けの外需が好調な動きになっている。工作機械も堅調に回復、10年の国内受注は再び1兆円台に回復し、世界的にもドイツを抜いて、中国に次ぐ2位になったものと見られる。
自動車関連は、生産設備投資の伸びは鈍いものの、車載電装機器や電気自動車の充電インフラ関連需要は拡大が見込まれている。
さらに、社会インフラ絡みの電力関連や新エネルギー、さらに鉄道関連でも需要が伸長している。特に鉄道は地球温暖化問題を背景に、環境への負荷が少ないことから世界的に見直し傾向にあり、この分野での関連需要も大きい。
鉄道車両は、運転席周辺やドア、座席などに操作用スイッチが多数採用されている。新エネルギー関連も、ソーラーや風力発電のパワーコンディショナーは操作用スイッチのターゲット市場のひとつといえる。
そのほか、高齢化社会に対応した福祉機器やセキュリティ機器にも操作用スイッチが採用されており、今後需要が伸びる市場だ。
こうした中で、ユーザーのコストダウン要求から価格競争も激しくなりつつある。スイッチ各社は海外生産などで為替リスクを避け、地産地消での販売体制を強めつつある。同時に海外メーカー、特に台湾や中国、韓国メーカーの製品品質の向上も進んでいることから提携して、OEM関係の構築を進める動きもある。
NECAでは操作用スイッチを、押しボタン、照光式押しボタン、セレクト、カム、ロータリー、トグル、デジタル、DIP、シーソー、多方向、タクティル、スライドなどに分類している。このうち照光式押しボタンスイッチと押しボタンスイッチが、操作用スイッチ全体の約37%を占め、この2つのスイッチで操作用スイッチ全体の約3分の1強を占める。さらにトグル7%、DIPスイッチ8%、タクティルスイッチ9%、ロッカースイッチ5%などとなっている。照光式押しボタンスイッチとタクティルスイッチがやや増加傾向となっているものの、大きな変化は見られない。
むしろプログラマブル表示器(PD)やシートキーボードスイッチなどへの置き換えが市場の行方を握っている。NECAではスイッチ業務委員会が中心となってこうした操作用スイッチの今後の動向を探るために、操作用スイッチの使用が多い関連業界をウオッチしている。05年工作機械工業会、06年配電制御システム工業会、07年食品機械工業会、08年福祉機器業界、09年放送機器業界を調査している。10年は日本国際工作機械展(JIMTOF)開催を機に再び工作機械業界をリサーチ、報告書をまとめている。
操作用スイッチは、基本的に使用環境や操作頻度、取り付けスペースなどを基準に選択されるが、最近では「小型・薄型・短胴化」「デザイン性」「安全性」「LEDやEL採用による高輝度・長寿命化」「信頼性の向上」「安全対策」「保護構造の向上」などが大きなポイントになっている。
照光式押しボタンスイッチは、表示灯を兼備したスイッチで視認性とスペース性でメリットがあり主流となっている。光源はLEDが高輝度、長寿命、低消費電力の点で主流となっている。特に低消費電力は大きな魅力で、装置全体でスイッチを多数使用することが多いだけにメリットは大きい。
また、液晶や有機ELを光源や表示素子に採用して、情報の多彩な表現力を実現した押しボタンスイッチも普及が進んでいる。中でも、今後の動向が注目されているのが有機ELである。有機ELを光源として採用して、表示部に画像やメッセージなどを表示させ、しかも一つの表示面で何種類にも切り替えて表示できるという、まったく新しいスイッチも登場している。
有機ELの持つきめ細かな表示は、テレビのような画面を実現できる。通信機能を搭載することで、画面の変更なども容易に行えるなど新たな発想は、今後のスイッチ市場を占う上で大いに注目される。LCDをスイッチ表示部に採用して、メッセージやキャラクターなどを表示できるスイッチもある。
一方、デザイン性と機能性を満たすタイプとして、ベゼル高さが2ミリ前後の薄型スイッチも浸透し始めている。パネル全体がシャープで引き締まったデザインになるほか、凸凹の少ない操作パネル面は、食品機械や半導体製造装置で求められるゴミや埃の付着を防いだり、パネル面の突起に当たることで生じる誤動作などを防ぐ利点がある。
安全の確保という点から、安定した市場を形成しているのが非常停止押しボタンスイッチである。プログラマブル表示器の普及が進む中にあって、非常停止押しボタンスイッチは必須であることから、スイッチ各社が盛んに開発を行っている。普段あまり使わなくても、非常時には確実に働く構造が開発のポイントである。さらに、安全性・危険回避の追求では、同じくイネーブルスイッチも注目されている。