業務用の機器や製造設備をマーケットにしている部品やコンポーネント業界の販売は、押し並べて売り方が画一的になっているようだ。というのも、すでに得意先となっている顧客との接触の仕方は、いろいろな用件や先方の都合によって顧客のリードのもとに会話は進行するが、見込み客へのアプローチの段階では同じ動作、同じような言いまわしで接触してくるので見込み客は販売員を最初から固定した眼鏡で見てしまう。同じ業界なのでやむを得ないかと思えないこともない。「ごあいさつさせて下さい」「名刺交換させて下さい」などと言って、アプローチする。次に「電子部品を販売している○○です」「弱電と通信をやってます」「制御関係をしている○○です」などと言って扱い商品を中心に会社案内をした後、「新しい商品が出てます」と言ってカタログを広げて簡単な説明をする。
何か反応があれば答えるが、なければ「何かありましたら」「納期などのお困りごとがありましたら」と言って辞す。顧客側では、「毎度、訪問してくる販売員がまた来た」という感じて、さらっと別れる。顧客は一応、何か期待して面会に出てみるものの、いつもの通りのパターンで別れた瞬間、もう販売員のことは忘れている。十数年前ではそのやり方で通用した。情報環境がまだ販売員に頼ることが多かったからである。
この十数年の月日は、情報環境を一変させてしまった。携帯電話の発達は僅かこの10年ちょっとのことであるし、ネット情報の充実、手軽さなど10年ちょっとの間で考えられないほど飛躍的に進化している。販売員の持参する通りいっぺんの情報では面白いと感ずる顧客はいないのである。
部品コンポーネント市場の営業の仕方は、成長期に形作られた。そして、成熟期になっても成長期の形を強化している。カタログは見やすくなり、持ち歩きサンプルも充実している。新商品を載せた情報紙の発行、そして販売員に対する商品教育、アプリケーションの充実。いずれも成長期で発芽した営業の仕方を強化しているだけだ。21世紀に入る少し前から情報環境は一変している。それに対応していくために、ウェブサイトの充実や、情報通信を活用した販売の仕方を試行している。しかし、それらのことは情報環境の変化にさらされている訪問販売とは、あまり関係のない所で行われている。販売員は、自分たちが持っていく情報を見込み客があまり喜んでくれないことを肌で感じている。売り上げは顧客が増えれば上がるのはわかっていても、扱い商品情報の紹介が喜ばれないのでは開拓営業から足が遠のくのは否めない。
マッカーサー元帥の言う「終わったばかりの戦場から学ぶ者は次の勝者になれない。古くからの戦史をたどって考える者が次の勝者になれる」。つまり成長期営業の延長線で考えることではなく、営業の原点である創業期から辿って見れば自分たちの顧客作りや市場への挑戦の仕方など参考になることは多々ある。その上でもう一度、現在の情報環境や成熟期の技術を背景に奮闘している顧客や市場を見直すことが次の勝者になれるとマッカーサーは言う。顧客や市場から学べということだ。学ぶためには、顧客が言っていることを上辺だけでなく真に聞き取る力を身に付けなければならない。
前回まで(1)「観察せよ」(2)「愚痴やボヤキにさえ耳を傾けよ」(3)「なぜという好奇心を持て」について述べた。(4)は「感じたことをメモせよ」である。そのつどメモったものを後で連続して読み返すと見えてくる情報がある。メモが他の情報と結びつき新たな発見につながることがある。
(次回は5月25日掲載)