営業であるから顧客があって、顧客に喜んでもらいたい、満足してもらいたいと思うのは販売員の心情である。どの業界でも、顧客の視点に立って販売員の心情を汲んだ顧客満足度という指標を使い営業改善に取り組んでいる。顧客満足営業を志向している現在の電気部品や、制御コンポーネント営業の仕方を幾つか挙げてみる。
まず1つ目は「的確な商品をプレゼントしたい」ということである。このために商品教育を熱心にやっている。この業界では、商品や技術的な教育を特に熱心にやる。2つ目は「顧客に役立つ情報を提供したい」ということである。このために商品カタログや手持ちサンプル・動作モデルサンプルなどの充実や、各種の情報紙などの装備に力を入れている。3つ目は「顧客にご提案をしたい」ということである。このために部品やコンポーネントの性質上どんな使い方があるかというアプリケーション情報に注力し、アプリケーション情報教育を導入している。4つ目は「最適なコストを提供したい」ということである。
ますます重要になるコスト意識を反映して、メーカーや商材の供給ルートとの関係を強化している、などが現在の顧客満足度営業の主流であろう。日本の製造業は海外移転が相次ぎ、設備投資に関連する国内需要は思うように伸びていかない。国内で販売をする営業各社は、大きくならないパイを取り合うことになって激しい競争を余儀なくされている。
これからも、ますますゼロサムゲームの様相を呈していくことを誰もが感じている。そこで、この競争に勝ち残るために顧客満足営業を提唱し、販売員教育やバックアップ体制の整備に力を入れ、販売員が営業をやりやすくする環境を作っている。それらの環境下にあって、販売員たちは顧客の歓心を買い顧客を取り込んで注文をもらうことに専念する。
顧客満足営業は、顧客の視点に立つことこそが重要であるが、激しい環境下にある販売員の心情は注文をどうやってもらうかという販売員の視点に立って営業をしてしまう。その結果、「的確な商品をプレゼンテーションする」という顧客満足営業の手段が、「売りたい商品を的確にプレゼンテーションしたい」に変わる。
「顧客に役立つ情報の提供」は、「売りたい新商品カタログやサンプル提供」に変わってしまう。「顧客にご提案をする」というのは、「勉強したアプリケーションの知識を顧客に披露する」に変わる。「最適コストを提供したい」は、嫌われて失注したくないので、「言いなりになる」に変わってしまう。
実際の営業現場で理想的な顧客満足営業の実践は、かくの如く自己視点に立った変質的顧客満足営業にすり替わってしまう。こうしたすり替わり現象は、顧客の実態がわからないから顧客の視点に立てないことに因がある。営業が自己視点に立って顧客満足営業を、何年やろうとしても顧客のことはわからずに年数が経過するだけだ。
顧客のことを、一から十まで知ることはできないが一つでも知ろうという気持ちでいることが真の顧客満足営業につながるのである。一つでも知ろうという気持ちで顧客に接していると、顧客は常に情報を発信していることがわかる。それらのメッセージを読みとっていく力を身に付けるため、これまで4つのことを述べてきた。
(5)として「自己主張より相手の関心を優先させよ」を挙げておく。
顧客の話についていき、そこから何が言いたいか嗅ぎ分ける力を徐々につけていけばいいのだ。
(次回は6月8日掲載)