生産工場を顧客にしている電気パーツや制御コンポーネンツの販売員が、あいさつ代わりに交わす言葉は時代や世情によって変わっている。1980年代には、設備ユーザーであれば「だいぶ進んでいますね。次はどのラインの自動化を考えていますか」などと、新設や増設に関して気軽に聞いていた。装置メーカーや盤メーカーであれば「今回の物件では大変お世話になっています。次の物件はどんな物件ですか、お教え下さい」などと、物件テーマを気楽に聞いていた。
今や、このようなあいさつができるのは、中国、インドに代表される日本以外のアジアの生産工場での話であろう。現代の日本で交わされる販売員のあいさつは「忙しいですか」という一言のようである。忙しくないことを前提に、恐る恐る聞いているようで活気が感じられない。
人の心理は、話す相手が沈んでいる時に相手に気をつかって話しかける。話す相手が陽気で楽しげな時には、何を言ってもいいという訳ではないが許される範囲は広いと感じているものである。70年代や80年代にも不況期はあった。そんな時に販売員のあいさつは素直に「不景気で参りました。メンテナンスや次回の設備として、少し部品の発注をお願いします」などと顧客に話しかけていた。
昔の販売員は、図々しかったというわけではない。顧客とのコミュニケーションがきちんと取れていたのだろうし、国全体に余裕があって先の見通しもできている雰囲気が日本をおおっていたからだ。それにしても成長期の販売員は、売り上げ目標に対する達成意欲や商談に対する粘り腰があった。
国や業界が見通しをもっていれば、販売員の雰囲気は快活だ。最近の販売員は、そのような快活な雰囲気の中で活動しているのではないから大変だ。快活な環境下で達成意欲や粘り腰は醸成できるが、停滞気味の環境下でこれを期待するのは難しい。
販売員に売り上げ目標達成意欲や粘り腰を期待するなら、70年代や80年代の業界に代わって組織自体が快活になる意志と環境を作りだすことである。現状の営業をみると、販売員に強い意思をもってもらうような育成の跡は見られない。売り上げ目標を掲げても、それと必ずしもリンクしない商談テーマのエントリー数や金額を見て満足している風土ができあがっている。快活な環境作りにも程遠さを感じる。
孫子は、戦いに勝つには勢いが必要だと言った。特に、寡兵をもって大軍を破るには、相手方に関する情報と勢いをもってスキを突くことだと言っている。昨今の市場状勢は、寡兵をもって大軍にあたるという苦境に等しい環境下にある。営業のビッグイベントであるキャンペーンを見ると、企画はあるし、旗やツールはあるがキャンペーンに勢いが見られない。悠長に見える。
大半の販売員は、作戦そっちのけで顧客から提案された案件を、商談テーマとしてエントリーするため精いっぱいであるという風に見える。営業は次々とやることが増えて、大変だという昨今であるが、本来は楽しいものだ。顧客と多方面にわたる会話をして、顧客に関するいろいろのことを知れば知るほど楽しくなる。
そして顧客がわかってくると、販売員は整理して行動できるから楽しく売り上げをあげられる。知るためには、相手が話してくれるのを待つだけでなく販売員が主体的に質問することが肝要だ。質問する際に、「質問する時の心得」は知っておいた方がいい。
(次回は6月22日掲載)