汎用インバーター市場の拡大基調が続いている。省エネを背景に国内外で需要が拡大しており、東日本大震災の発生に伴う一層の省エネ意識向上がこれに拍車をかけている。小型化や操作性の向上、用途専用機種の開発などユーザーニーズに対応した取り組みが進められ使い易さも増している。組み合わせて使用するモーターの高効率化も進み、省エネ化が一段と向上している。今後、東日本大震災の復興需要や新興国での市場拡大などが見込まれ、市場はさらに飛躍することが期待されている。
汎用インバーターの市場は、経済産業省の機械統計によると2010年(1~12月)の生産額は約651億円で、09年比37・4%増と大幅に伸びた。09年は月ベースで約25億円まで落ち込んだ時もあったが、09年10月以降は急ピッチで生産が増加、10年に入ると月50億円前後は着実にキープしている。特に10年11月以降は60億円台を維持しており、今年2月は約67億円とボトム時の09年4月の2・5倍まで伸びている。
今年3月の東日本大震災の影響が懸念されているが、5月頃まで各社とも手持ちの在庫などをやり繰りしながら増加する受注に対応して売り上げを伸ばしているメーカーが目立つ。しかし、6月以降インバーター部品の入手難も伝えられるなかで、代替部品や機種の絞込みなどで納期トラブルに対応しており大きな混乱には繋がっていない。
むしろ、大震災に伴う電力不足問題から、省エネ意識がさらに高揚しており、節電効果が見込めるインバーター導入への取り組みは進むものと期待されている。
毎年インバーターなど重電機器の出荷見通しを発表している日本電機工業会(JEMA)は、今回の東日本大震災の影響が予測できないとして、11年度見通しを公表していない。しかし、現状の推移やインバーターメーカー各社の見通しから見ると、今年も10%前後の伸びは堅いものと見られる。08年の世界的な金融不安で大きく落ち込んだインバーター需要だが、着実に市場は盛り返しており、過去のピーク時突破も視野に入ってきており、V字回復といえる。
このようにインバーターの需要が拡大している大きな要因として、海外市場の好調が挙げられる。中国、韓国、台湾をはじめとしたアジア、中東地域での市場拡大が大きい。
中国では、旺盛な半導体や自動車工場及び、ビル建設で空調関係向けを中心にインバーター需要が伸長している。
また、社会インフラ整備からクレーンやエレベーター向けの需要も堅調で、この傾向は中国の次に発展する市場として注目されているインドでも見られる。
新エネルギーであるソーラーや、風力といった発電周辺機器でもインバーターの需要が拡大している。
中国ではインフレなどが進み経済が過熱気味として、多少投資をセーブする動きも見られ、加えて賃金などの急上昇もあり、先行きへの警戒感も強まっている。インドやタイ、ベトナム、中東諸国など中国以外での市場開拓を進めようとする動きも目立ち始めた。
一方、国内市場は半導体関連やソーラーなど新エネルギー関連に動きが見られるものの、外需ほどは勢いがなく、ビルなどのリニューアル需要開拓に取り組んでいた。しかし、東日本大震災の発生はこの状況を一変させており、津波による工場・ビルの復興需要、原発事故に伴う国を挙げての節電への取り組みが、インバーター市場にとってさらなる大きな追い風になりつつある。
「電力会社が省エネに繋がるインバーターの採用を推奨する動きも見られ、需要が前倒しされる傾向が強まっている」(大手インバーターメーカー)ようだ。
今回の大震災以前から、地球温暖化効果ガスの工場など産業部門からの排出が40%を占め、そのうちモーター負荷から生じている割合が70%といわれている。ファンやポンプなどの空調関連機器、搬送用のエレベーターやクレーン、コンベアなどで使われるモーターの省エネ対策促進が大きな鍵を握っている。
モーターへのインバーター装着率は年々上昇し、現在は30%程度にまで高まっていると見られるが、誘導モーター(IM)や同期モーター(PM)にインバーターを装着することで、インバーターが自動的に最大効率運転を行ってくれるという省エネ・省力化などの効果が、徐々に評価・浸透しつつある結果といえる。モーター自体の高効率化も加速しており、特に海外では省エネモーター使用を義務付けつつある。
IEC60034―30では、モーターの効率クラスが規定され、効率の低い順に、IE1(標準効率)、IE2(高効率)、IE3(プレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)となっている。09年度からは、高効率モーターを搭載した空調用機器の送風機及びポンプを公共工事の調達の際にグリーン購入法で指定された。日本は電圧幅や電流サイクルの違いや、特注品モーターの使用比率が海外に比べ高いことなどから、こうした高効率モーターの採用が法的にも遅れている。インバーター化はこうした背景にあって、比較的容易に省エネ化を図れるだけに、装着率がさらに高まることが期待される。
インバーターは、ビル・工場では空調機器や各種換気用ファン、給配水ポンプ、ボイラ、それにエレベーター制御などで使われている。さらに、搬送機械や加工機械、製紙・印刷機械、工作機械などから食品機械、環境・生活関連機器、医療・健康関連機器、アミューズメント、農業機械など、産業用から民生用まで、あらゆる分野の可変速用途や省エネ用途に浸透している。新用途では、レジャー設備であるパチンコの玉搬送システムやゴルフ練習場のボールセッティングシステム、外食産業の鮨ロボット制御システムなどにも広がっている。
インバーターは、直流を交流に変換することで、モーターの可変速制御を実現する。要求される負荷の種類によって最適なモーターを選定することで、省エネ効果がさらに発揮できる。クレーンなどでは回生エネルギーの処理が省エネに繋がり、負荷に応じてモーターを高効率運転することでも省エネ効果を生み出す。現在、太陽光発電用などに使われているパワーコンディショナの出力制御部にはインバーターが使用され、新たな需要を生み出している。太陽電池モジュールから得られた直流電圧を交流に変換制御する役割を果たしているが、この時のパワーコンディショナに内蔵されているトランジスタへの負荷低減や電磁ノイズの低減、出力リアクトルの小型化などにも繋がっている。最近のインバーターは、性能の向上とともに誰でも扱える操作の簡便性や小型・軽量化、低騒音化、安全性、ネットワーク対応があげられ、使い易さと省エネ性の向上が重視されている。
周波数やパラメーター設定がジョグダイヤル式コントローラーを回すだけでできる機種が一般化しているが、一方でこうした複雑で面倒なパラメーター設定を不要にしようと、ファン、ポンプ、コンベア、昇降機などの用途を選択するだけで、自動的に最適なパラメーターに設定できる製品もある。また、配線を簡単にするための着脱式制御端子台の採用も一般的になっているが、最近はパラメーターバックアップ機能付きの端子台を採用した製品もあり、ユニット交換時に制御配線とパラメーター設定が不要になることで、作業工数が従来品比で約5分の1になるといわれ、メンテナンスの省力化などに大きく繋がる。端子台も、日本はねじ式が一般的であったが、最近は欧州方式と言われている圧着端子を使わないスプリング式が増えている。
スプリング式は、配線ケーブルの皮むき作業が不要で、端子台にケーブルを差し込むだけで配線が完了することから、配線作業時間が大幅に削減できる。スプリングによる配線保持機能で、振動による緩みでの接触不良も防止でき、メンテナンス作業が省ける効果もある。海外向けは、スプリング式タイプがほとんどであるが、国内ではユーザーによって両方が使われている。このためインバーターメーカーの対応も、すべてスプリング式にしているところと、2方式を併用販売しているところに分かれている。
インバーター各社とも良好なトルク特性をアピールしており、短時間最大トルクを3・7kw以下で駆動周波数1Hz150%から0・5Hz200%が増えている。短時間過負荷耐量も200%で0・5秒から3秒にアップさせ、過電流トリップになりにくくねばり強い運転を可能にしている。しかし、こうしたなかで過負荷定格を、軽負荷と重負荷に分けることで定格出力電流を調整し、最大適用モーター容量の拡大によるインバーターサイズの小型化を可能にしている。
インバーターとモーターの関係も変化している。インバーターで駆動するモーターも、標準三相モーター、高性能省エネモーター、回転子に強力な磁石を埋め込んだIPMモーターなどがある。特に、永久磁石埋め込み形同期モーター(IPM)や表面永久磁石形同期モーター(SPM)を使った製品が市場に投入されてきており、誘導モーターより7~10%効率が良くなるといわれている。しかし従来、こうした高効率モーターの駆動には専用のアンプが必要であったが、これをインバーターのアンプを使い、誘導モーターと同期モーターのどちらでも駆動できるインバーターが各社から発売され始めた。設定の切り替えで両方のモーターに対応できることで、インバーターが1台で済み、導入にあたっても予算に応じてモーターを段階的に購入していくことも可能になる。チューニングの技術も進んでいる。オートチューニング機能では、調整項目を自動化し、加速時間や減速時間の調整、出力電圧の調整、さらに加減速パターンや上限周波数の調整まで自動的に行えるものもある。停電時にモーターが暴走しないように素早く安全に停止させる減速レートや、設定したモーターパラメータと実際値を近づけて補正の自動調整を行うチューニングもある。
こうしたチューニングが簡単に行えるようにすることで、機械・機器にあまり熟練していない人でもインバーターを容易に扱える環境が整いつつある。省エネ化への貢献というインバーター化ニーズに応え、省エネ度を数値で表すことができる省エネモニターが搭載されている。
省電力率、省電力量、省電力平均値などの省エネ関係の数値が、インバーターの操作パネル上のほか、出力端子やネットワーク経由でも確認でき、省エネの効果が一目瞭然となる。設備メンテナンスの点から、モーター累積運転時間やインバーターの運転・停止などの起動回数を、自動的に積算できる機能を内蔵している。インバーターは、セットメーカーの機械に組み込まれて海外で利用されることも多いが、制御ロジックのシンク/ソースの切り替えができ、グローバル対応が可能な機種も数社から発売されている。
小型・軽量という面では、盤や機械の省スペース化に対応した小型機種が、各社から豊富にラインアップされている。
シンプル構造の名刺サイズのものもあり、スピードコントローラーの置き換え需要などとしての搬送用途などが増加している。異なる容量でも高さ・寸法を統一することにより、盤内のレイアウトの容易さを図った機種や、取り付け場所に合わせて「サイド・バイ・サイド」で密着して取り付け設置が可能な製品も一般化している。