「目は口ほどに物を言い」というフレーズがある。相手の目をみれば、自分のことが好きか嫌いかがわかるという意味でよく使われる。営業は人を相手にする仕事であるから、販売員は見込み客や顧客の顔色を伺って行動する。実際には、顔色そのものというより目を見ている。目は、その人の感情の状態を如実に物語る。
販売員は、見込み客を訪問する時に、普段会っている顧客と違って緊張するから相手の目をよく見ないで判断する。慣れない販売員は、優しそうな目以外のすべての目は自分を嫌がっているように見えてしまう。そこで、自分を嫌がらないように一生懸命に自己宣伝をするものの、優しそうな目には見えないので、更に自己宣伝を強化してしまう。
経験を積んだ販売員は、嫌がっている目以外は、すべて優しそうな目に見える。それに自分を受け入れている目に見える。だから余裕をもって話を切り出すことができるので、全面的な自己宣伝に終始しなくてすむ。嫌がる人も当然いるが、そのような人は少ないことを知っているのが経験豊かな販売員なのだ。
また、目には人の感情の状態を映す働きがある他に、心理学で言うところのアイコンタクトの原理という働きがある。恋人同士の関係で、説明すると分かり易いだろう。恋人同士が目と目を見つめあえばあう程に、愛情が高まっていくという効果のことである。
恋人同士だけでなく、人と話をする時に視線を交わせば交わすほど親しみや尊敬の念さえ高まると言われている。販売員は、営業活動をする中で、慣れ親しんだ顧客と話す時には自然に目をみている。毎回訪問するたびに、目と目を自然に交わしている。だから顧客中の顧客とは担当替えで離れても、いつかまた会った時には、すぐ商談に結びつく話を出来るような関係になっている。
一方、顧客になっておらず注文もない見込み客と話をする時は、緊張しているせいで目と目を交わすことができない。話が途切れて続かなくなると、早く見込み客の前から去りたくなる。親しそうに目と目を交わしているわけではないし、アイコンタクトの回数もほとんどない状態なのだから、早く見込み客の前から去りたいのは当然の心境である。
営業の基本動作を教えられる時に「目を見て話せ」と言われるのは、以上のように目の作用と効果を体験的に気付いてもらうことにあるのだ。基本動作を軽んじて、商品PRや会社PR、営業教育で習ったハウツーを重んじる販売員は、いつまでたっても人間関係をつくるのに四苦八苦する。
だから自分の言いたいことを言って、相手の反応が見えないと「何かありましたらご連絡お待ちしています」と言って去ることを繰り返している。せっかく会えたのだから無駄には帰れないと踏んばるのは、数々の体験を通して目の作用と目の効果に気付いている販売員であって、目と目を交わす時間を長く延ばす努力をするのである。
自己宣伝のみでは、あまりに面接時間が短い。アイコンタクトの効果を狙うなら、質問をするのが有効である。質問を相手が受け入れてくれるには、質問をする時の心得を守ることが賢明である。質問する時の心得(2)として「根掘り葉掘り質問する時は親しみをこめるべし」である。
親しい相手でも、詰問しているように思われてはいけない。親しみは、自分の目にも表れる。鏡を見て、親しみのある目の研究をすることが大事なのかもしれない。
(次回は7月27日掲載)